第31話 少数部族

光の中は、体がグチャグチャになりながら何処かへ吸い込まれていくような感覚と共に、とんでもない気持ちよさが駆け巡るという変な感覚だった。そして気づくと俺たちは、人波で溢れた古びたホームに立っていた。背後の線路の上を走る光からは?次々に白い水着姿や色鮮やかな老若男女が出てきている。爺ちゃんはそれを見ながら

「イメージの服を纏った幼子もおるな。エリンガ人はレベルが高いのう」

と感心しつつ、エネの姿を探し出した。そしてため息をつくと、ホーム反対端の苔むした壁に人波をかき分けて、むかっていく。

ついていくと、全裸のエネが、筋骨隆々とした一つ目でタンクトップを着た赤鬼と青鬼に囲まれていた。二匹共二メートルは間違いなくある。


「姉ちゃん、バウンガ族だろー?いいだろ一戦付き合えよ‐」

「ファイ族とか嘘つくなって、あんなヒョロガリ好きな弱小は裸とか無理だろー」

「い、いえ、ファイ族です……」

俺とチリはビビって近づけないで途中で止まるが爺ちゃんはグイグイ進んでいき

「すまんが、うちのガイドじゃわ」

と穏やかに話しかけた。

二匹は爺ちゃんに殺気を浴びせたかと思うと次の瞬間には素知らぬ顔して去って行った。

エネはその場にへたり込み、爺ちゃんは古いホームの天井を仰ぐ。


エネが動けるようになるまで3人で守るように囲んで待つ。手持ち無沙汰なのでチリと質問を爺ちゃんにしだした。

「なんで化物は行ったの?アイツら何者?」

「弱いからじゃよ。鍛錬が足らんあ。二人はエリンガ人の労働者じゃな。化け物ではない」

「お爺さん、色々知ってそうだけどっ?」

「セインがエリンガ人について色々話すんよ。それで耳学問したんかなあ」

「ファイ族とか、バウンガ族って?」

「エリンガ人内の部族じゃな。見た目や趣向もそれぞれ変わっておるよ。主に北アメリカに居住しておるメナテ族は、大型犬を見ると性的に興奮して母国語で求愛の歌を歌い出すので、社会問題になっておるそうよ」

「それも気になるけど、ファイ族が日本に住むエリンガ人なのっ?」

爺ちゃんは少し考えて

「ファイ族は日本に住む二百万のうち、確か七万くらいなはずじゃな。少数部族よ」

「少ないんだねえ」

俺とチリが感心していると、背後でエネがよろよろと立ち上がり

「い、いけます」

と言ってきた。もはや手で色々と隠す余裕もないようだ。爺ちゃんは本気で心配した表情で

「もはや中止でもいいがなあ。感じは掴めたので、別ルートでもムーンベースを目指せそうじゃし」

エネは涙目になり慌てた顔で

「だ、だめです。私が案内します」

と人波の中を歩き出した。


改札で立つのっぺらぼうの駅員がエネの姿を見るなり

「バウンガ族の方、次回はイメージでよいので、服の着用をお願いします」

と声をかけてきて、エネは消え入りそうな声で

「はい……」

と返事していた。特に切符など要求されずそのまま素通りする。


広い石造りの階段を上がっていく人波の中、足早に進むエネの後ろをついていく。チリはエネの一糸まとわぬ後ろ姿を見て小声で

「あの人のでも興奮する?」

と尋ねてきた。

「いや、それどころじゃないし、好みじゃない」

「ほんとにー?あとで思い出してオカズにするんでしょっ」

「エロ同人誌の読み過ぎだろ……」

爺ちゃんは心配そうに

「心労で倒れぬと良いが」

と呟く。

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