第30話 とてつもないポンコツ
近づいてきたチリは困った顔で
「エネさんの服無いなら、私はいいって言ったんだけど……」
エネはチリの身体の後ろに隠れながら
「さあ、いっ、行きましょう……」
と早くも行こうとするので、見かねた爺ちゃんが
「わしたちが、イメージの服を纏っているのは分かるね?」
エネは、顔を真っ赤にして頷く。
「できない?」
エネは、恥ずかしそうに小さく頷いた。爺ちゃんは俺の背中を押して少し離れると
「とてつもないポンコツじゃなあ……」
「そうなの?」
「えいなりの方が強いまであるぞい」
いやそれはないだろ苦笑いすると
「そもそも、有能なら全員分の着替えをまず用意するじゃろ?」
「たしかに。でも急だったし」
爺ちゃんは苦い顔で首を横に振り
「手配すると言ってくれれば、待ったわな。それにな。チリちゃんに服を譲った後も、ギリギリまで制服を着ていれば良かろう?なぜ全裸でくる必要がある?」
「焦ってたんじゃない?」
「そう、余裕が全くないんじゃよ。これが有能な戦士かね?」
確かに違うと思う。爺ちゃんは大きくため息を吐いて
「ファイ族の実情が心配じゃわ」
と呟くと、チリたちに近づいて
「行こうかね」
と言った。チリが真剣な顔で
「私、先頭で真ん中エネさん、その後ろお爺さん、右横にえいなりで、囲っていけばいいんじゃない?」
チリに隠れたエネは申し訳無さそうに
「私が先頭でないと、手続きが……」
爺ちゃんが難しい顔で
「今からでも、ワープ用の服を用意していいんじゃが」
エネは首を横に振り
「今から戻ると、怪しがられるかと……」
「いや、我々は良いんじゃが、あなたは本当にいいんかね?」
エネは耳まで真っ赤にして頷いた。チリが
「ファイ子ちゃんは何か言ってる?」
「駅入ってから無言だな。寝たのか?」
肝心なときに見てないようだ。
というわけで、全裸のエネが先頭にたち
俺はチリに遮ってもらいできるだけ見ないようにするが、まるで少年の様な引き締まった背中と尻はチラチラ見えてしまう。
エネは覚悟を決めたようで、手で隠すのもやめて、堂々と胸を張っているが、身体は若干震えていて、耳まで真っ赤になっている。
爺ちゃんは気を使って
「えいなりはみんようにしとるし、わしは長年婆さんに絞られて枯れとる。気にせんでいきなさい」
というが、エネは背中を向けたまま
「こ、この光に入れば、ま、まずは、3.5次元新宿地下ワープポータルに、い、移動します……」
黙って次の言葉を待つと
「そ、そこは、たくさんのエリンガ人や、少しの地球人が、い、います。はぐれないように、わ、私についてきてくだふぁい……」
緊張で最後声がおかしくなっているエネを心配したチリが
「エリンガ人は服なくても大丈夫なんだよねっ?捕まらない?」
と聞いてしまう。エネは前を向いたまま全身を真っ赤にして頷いて、そして線路の上を流れる太い光に、逃げるように飛び込んで行った。
「そもそも、衆目の中にわしたちを全裸で連行しようとしてたんじゃから、自業自得じゃなあ………」
と呆れ顔で言った爺ちゃんが俺とチリの手を握り光の中に引っ張り込む。
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