第29話 イメージの世界

3.5次元の商店街の先の横断歩道を渡る。先日止められた先にエネはあっさり案内してくれる。


左右に広く四階建ての城壁のような駅ビルの中へと入っていく。

構造自体は俺たちの世界と同じだが、中の店舗が全く違う。揃って10年近く古い気がする。爺ちゃんは楽しげに

「1998年ごろがお気に入りだと言うとるぞ?」

尋ねて、エネが困った感じで

「抗議の意思は届いています……」

「駅ビルは怒ってるのっ?」

チリが2人に尋ねると爺ちゃんがにこやかに

「駅構内の改変のされ方を見れば、わかるかのう」

と冷や汗をかき出したエネをチラチラ見る。


駅内の枝分かれしている高架橋から

一番から六番のホームがあるのが見えるなら駅構内は

3番まではレトロな蒸気機関車や車体広告もない赤や黄色のシンプルなデザインの列車が停車と発車を繰り返していて、それらに色鮮やかな人々や、黒い人影が乗り降りしていたが、4番以降のホームは、線路の上に、太いチューブ状の青白い光が延々と伸びていた。


光の中に時折、真っ白な水着を着た男女が入っては消えていく様を立ち止まり、橋の上から眺める。エネが申し訳なさそうに

「専用のワープ服がないのでワープを利用する場合は全裸になります」

爺ちゃんがすかさず

「あんたの下に着とるのは、当然チリちゃんに譲るんじゃよな」

エネは一瞬固まって何とか頷いた。制服の下に着込んでいたらしい。


誰もいない5番ホームで、トイレで着替えに行ったチリとエネを待ちながら

「全裸は嫌だな」

と爺ちゃんに愚痴ると、笑って返され

「変なタイミングじゃが、少し修行するかの」

爺ちゃんは、着ていた作業着と下着をを瞬く間に脱ぎ捨てると、その下には全く同じ作業着を着ていた。俺が驚いていると

「想像力と、自覚次第じゃ。なんせここはイメージの世界じゃからな」

俺にウインクしてくる。


十分ほど、爺ちゃんの手ほどきを受けて、パンイチのまま、服を着ているイメージをすると、どうにか高校の制服姿になれた。とはいえ細部は適当だ。右股の辺りなど破れたように肌が出ている。爺ちゃんは満足そうに褒めてくれて

「最初としては上出来じゃ。さすが爺ちゃんと婆さんの孫じゃのう」

俺の制服姿に目を細める。

「あっ、そうか、エネさんもこれできるから、服を譲れと言ったのか」

「警備員としては高位だと爺ちゃんは見とるからな。できて当たり前じゃろうよ」

もともと好きな祖父だが、尊敬もしつつあると自覚していると、ちょうどホームの向こうから白い水着姿のチリとその小柄な体に隠れながら歩いてきたエネを見て驚愕する。

爺ちゃんは唸ったあとに右手で顔を覆い、青みがかった白黒の空を仰ぐ。

「えいなり、前途多難かもしれん」

エネは完全に全裸だった。チリに隠れながら耳まで真っ赤になって平らな胸と股を手と腕で必死に隠している。

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