第28話 道中
街につき、爺ちゃんは中心街近くの雑居ビル地下の駐車場のいつものスペースに車を停めた。
何度も使っているので良く知っている。ここは爺ちゃんの知り合いの、背の高い外国人女性の持ちビルだ。セイントシュタインという長い苗字の銀髪の白人女性は、いつも何故か、車が駐車したタイミングで爺ちゃんに会いに来る。今日も黒ずくめのスタイルで姿を現した化粧けのほぼない年齢不詳の彼女は、爺ちゃんと挨拶もそこそこに、堀の深い顔でチリとエネを眺め
「えいなり、チリちゃんを大事にしろ」
と俺に目を細めて言ってきた。
「セイン様はいつもお美しいですねっ」
顔見知りのチリのお世辞をニヤリと聞き流すとエネを見つめ
「Bクラスってとこだな。ファイ族は人手不足なのか?」
エネは困った表情で
「なぜ、我が種族の名まで……」
セインは面倒そうに
「別に隠してないだろ?日本の国会図書館でちょっと調べれば出る公開情報だ」
そういうと、爺ちゃんに近寄って
「5分、うちの母国の揉め事について聞いてくれ」
「おお、そりゃいかんな。連邦代表がまたなんかしたんか?兄妹と揉めたかの?」
「いや、どっちかというとノアが悪い。凶作に財政出動を渋っててな。財源はあるんだぞ?そもそも凶作の原因の今年のレインメーカーの故障の件でも……」
二人は少し離れて、外国の政治について話しだした。俺が小さな頃から、いつもセインと
爺ちゃんは会うたびに外国の話ばかりしている。爺ちゃん曰く
「セインは貿易で母国と行ったり来たりしているからのう。気になるんじゃろ」
とのことだ。すぐに二人の話は終わり、セインとは別れ
エネの案内で、すぐ近くのアルハルファデパートに歩き出す。
「変わった……お知り合いですね……」
こころなしか緊張した面持ちでエネが爺ちゃんに尋ねると、爺ちゃんは苦笑いして
「婆さんが生きとるときのことじゃ。うちの高級果物を外国に輸出しようとしてて、たまたま知り合ったバイヤーでなあ。今では農協ごと半ば経営を乗っ取って、ノリノリでうちの地域のものをやつの母国に輸出しよる。困ったやつじゃよ」
「そ、それは地球内のお話ですよね?」
爺ちゃんは爆笑しだして
「あんた達のように、遠くの星とワープで自在に行き来できるわけなかろう」
エネはホッとした顔をしていた。
デパートの屋上へ行き、プリクラ撮影機に入り、青みがかった白黒のゲームコーナーに出ると、鮮やかな人たちが一斉に、遠巻きにジッとこちらを見つめていた。
「全てであり、全てでない。肉を離れた存在とは厄介じゃなあ、エネさん?」
「そ、そうですね。ははは……」
辺りを見回し、意味不明な事を言った爺ちゃんから背中を叩かれたエネは愛想笑いを収めると
「こちらです。一応私が連行していると一族には伝えております」
「それがいい」
エネの後ろで俺たちは、黙って歩くことにした。
エネの背中からは緊張感が漂ってきていて、俺も何が起こるか分からない道中、気を引き締めていこうと思った瞬間
「えいなひいいいいふぁいふひいいいいい」
という、ファイ子の声が頭の中でしてきて
脱力してしまい、察したチリから背中を叩かれて慰められる。
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