第27話 良い社会見学

「いや、爺ちゃん、あの俺たちファイ子のことそこまで……」

爺ちゃんに近寄ろうとすると

「ああああああああああうえええんんん」

ファイ子が頭の中で号泣し始めて、俺は頭を抱えてしゃがみこんだ。

爺ちゃんはまるで全てを見通した達人のような透き通った眼差しと笑みで

「雑な言葉に泣いとるんじゃろ?よいか、えいなり、女子とはそういうものじゃ。紳士であれ、わかったか?」

もう、何が何だか分からないが、少なくとも爺ちゃんが凄まじい達人だったのはわかった。俺が立ち上がって頷くと

「えいないいいふきいいいいい」

多分、えいなり好きというファイ子の絶叫が頭の中で響いてくる。もうダメだ。わけわからんと投げやりになりかけた時、チリが一歩前に出て

「エネさん、言うことをきいてあげて。お爺ちゃんは本気だよっ」

何と爺ちゃんに乗っかってきた。

エネはうなだれて

「わかりました……あと、タカユキさん、いつでも私を殺せるのはわかりましたから……」

名前を呼ばれた爺ちゃんは、パッと両手を離してグリップを俺に投げ渡してくる。

そして、ニカッと笑い、俺の横に並ぶと

「友好的にいこう。まあ、要するにわしが、ファイ子さん救出にかこつけて、かわいい孫とチリちゃんに世界の広さを見せたいだけなんじゃが」

「じいちゃんさあ……」

脱力する俺の頭の中でファイ子は

「えいないいいいいふきいいいいいい」

とずっと連呼している。


5分後には俺たち4人は爺ちゃんの運転する軽自動車でアルハルファデパートに向かっていた。3.5次元のワープポータルで月に向かうためだ。後部座席で俺の横で小さくなっているエネに、爺ちゃんは運転しながら

「空気のある空間内の動きになれとらんなあ。母艦は気圧が違うのかね?」

「いえ……どちらかと言うと、無重力での任務が多かったもので……」

爺ちゃんは上機嫌に笑うと

「ちゃんと重力下で修行せんといかんよ。老いたわし如きに圧倒されすぎじゃ」

と言い放ち、エネが申し訳無さそうに頷いた。助手席のチリが

「お爺さんはどれくらい強いのっ?」

エネに振り返って尋ねると

「……我々の上層部が知ったら、直ちに用心棒として雇うレベルです」

ボソッと答えて、爺ちゃんは苦笑いしながら

「それは難しいのう。あと10年……2017年春までは平穏に生きると、死んだ婆さんと約束しておるんよ」

と答えた。エネは急に真剣な声で

「せめて、我が部族の顧問になってはいただけませんか!?」

爺ちゃんは少し考えてから

「……孫たちの良い社会見学になったら考えてやるぞい」

と言ってから笑った。

チリはキョロキョロと目を輝かせ、明らかにワクワクしているが、俺は完全に早すぎる展開に置いていかれている。

「えいないいいふひいいいふぁいふひいい」

ファイ子のラブコールがまた頭の中で始まった。









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