第26話 誘い込み成功

「婆ちゃん……」

俺が立ち尽くしていると

チリがエネの前に周り

「とりあえず、えいなりにファイ子ちゃんの声が聞こえないようにしてっ」

と真顔で言った。エネは必死に何度も頷いて

放課後に俺の家に伺うと言ってきた。


そんなこんなで

ちょうど授業が終わったころ

爺ちゃんが車で迎えに来ていると聞かされてチリと共に見慣れた軽自動車が停まっている校門前まで向かうと

車から爺ちゃんは降りてきて

「二人とも帰ろうかの」

ニカッと笑った。


「振ったら、エネさん飛んできたじゃろ?」

運転しながら爺ちゃんは実に楽しそうに笑う。

唖然として黙っていると

「それで、放課後うちにくるんじゃな?」

「なんでそこまで……」

俺が驚いていると、爺ちゃんは事もなげに

「誘い込み成功じゃなあ」

前を向いたままでもわかる悪い笑みを浮かべた。チリが恐る恐る

「あの、どうするんですか?」

「ふふふ、どうもせんよ。用事を済ませてもらおう」

意味ありげにそう言った。

俺の頭のチップが埋められていると説明すると爺ちゃんは爆笑しだして

「さすが、我が孫よ」

とだけ言った。いや、怒らないのかよ。と意外だったが、まあいいかと気にしないことにした。今はそれどころではない。

チリも当たり前のようにうちに来ると言い出して、爺ちゃんは同意した。


自宅に戻ると両親が揃っていたので、俺が事情を説明しようとすると、爺ちゃんから自分がすると遮られ、俺とチリは台所からお菓子やジュースを取り出して、二階の俺の部屋に上がることになった。


お菓子をバリバリ食べて漫画を読んでいるチリの横で、俺はテレビを見ながら腕立て、腹筋、スクワットといつもの筋トレを久々にする。テレビ画面には、エリンガ人の男女コンビ芸人が映っていて、流れるように息のあった漫才を披露していた。二人とも美男美女だが、わざと変に見える服と髪型にしている。観客は喋りだけで映画の様に情景の見える完成度の異様な高さに絶句して全く受けずに、審査員の大御所芸人が

「そういうんじゃないねん。もっと外しとか、緩い間を勉強しなさい。人間の馬鹿な部分も見たほうがええよ君たち」

と評するの聞いて、二人は小さくなって退場していった。チリがジュースを飲み干して

「まー難しいよねえ」

と言うのと同時に両親が車で何処かへと向かった音が聞こえた。


爺ちゃんが、綺麗な作業着姿で部屋に入ってきて、俺たちに断ってから丸机の横に座る。

そして真剣な眼差しで

「息子夫婦は出かけさせた。何があっても爺ちゃんについてくるんじゃぞ」

と俺たちに。言ってくる。2人で首をかしげる。


十分もすると、コツコツと窓が叩かれ、セーラー服姿のエネが窓からスルリと入ってきた。そして何か言おうとした瞬間に音もなく背後から忍び寄った爺ちゃんに羽交い締めにされ、首元にグリップしかない剣を突きつけられる。

「命が惜しくば、ファイ子さんの元に案内して貰おうか」

鋭い目つきで言い放った爺ちゃんに、俺チリそして羽交い締めにされているエネすらも

「なんじゃこりゃああああああああ!」

と声にならない悲鳴をあげた。


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