第25話 チップ

エネは震え出して

「そ、そんなものどこで……」

俺は立ち上がって、グリップを両手持ちしてエネに向け構えると

「ひえええええ……全能なるマ・イカ神お救いおおおおおおお……」

尻もちをついて泣きながら祈りだした。

チリが耳元によってきて

「悪いけど、もっと脅しちゃお」

俺もそれしかないと思ったので

「ファイ子を解放しろ」

と言ってみた。というか言ってから気づいたのだが解放しないでいいから、頭から追い出してほしい。むしろ幽閉したまま何処かへと連れて行って欲しい。

おい、こら、あの変な異星人のせいで3回も童貞捨てるチャンス逃したんだぞ!くそおおおおおお!でも今はこうしかいえねえええ!

俺は妙な気の高ぶりと共に、エネに、にじり寄っていく。

エネは、ブルブルと震えて座ったまま後ろに下がろうとしたところをチリに羽交い締めにされた。

俺はしゃがみ込み

「良いから、俺の頭の中からファイ子を解放しろ」

エネはハッとした表情になり

「あ、頭の中でもしかして声が……?」

その瞬間、妨害するかのように

「むごおおおおおおおおお!」

ファイ子の唸り声が頭の中で響く。俺は無視

して

「そうだ。今もうるさくて仕方ない」

エネは、急に冷静な表情になると

「ファイ子様の現状を説明してもよいですか?」

俺とチリは即座に同意する。


「現在、ファイ子様は月の表面に造られたムーンドームにおられます」

チリが驚いた顔で

「エリンガ人と国連で作ったやつでしょ!?」

「その通りです。定住できる超大型資源採掘基地ですね。その地下25階に二週間の予定で幽閉されています」

二人で話の壮大さに言葉が出なくなる。

エネは続けて

「軽い刑罰なのです。罪状は地球環境保全法違反です。具体的には、パラレルワールドにえいなりさんを飛ばし、その影響でこちらの世界の一部を壊した責任をお取りになりました」

チリが理解した表情で

「テルミちゃんの家族が消えて、幽霊屋敷になったことだよねっ」

エネは頷いて

「故意でないとはいえ、やってしまったことは大きいです。このままだと刑期があけても、高校にも戻れないでしょう」

意外な嬉しい言葉に俺とチリがニンマリしていると、エネは真剣な眼差しで

「えいなりさんの頭にファイ子様の声がしているのは、チップが埋め込まれているせいだと思います」

ヤバいことを言ってきた。


「今すぐ頭から取り出してくれ」

チリも猛烈な勢いで頷く。

エネは困った顔をして

「実は、えいなりさんは我々エリンガ人の特別監視対象に指定されていまして……」

「どうせ、ファイ子のせいだろ」

エネは申し訳無さそうに頷く。

黙って見つめると

「あの、チップは取れませんが、声が聞こえないようにすることはできます……それはファイ子様が勝手に調整した結果でしょうし」

「……」

なんだコイツら。変な異星人にストーキングされるだけならまだしも、勝手に人の頭にチップ埋め込んどいて、しかも俺の童貞捨てられる場面を3回も邪魔しといて、そろそろ我慢も限界だ。俺の腕が自然とエネに向けて両断するようにグリップを振り落とそうとすると

「えいちゃん、だめよ」

祖母の優しい声と気配と共に、腕が動かなくなる。

エネは両目を丸くして俺の背後を見つめ

「ネーゲアゲストラーモ……」

聞き覚えのない言葉を呟く

俺も振り返るが、気配は消えていた。

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