戻れないVチューバー

天川裕司

戻れないVチューバー

タイトル:戻れないVチューバー



▼登場人物

●戸津根愛子(とつね あいこ):女性。35歳。人間関係が苦手。就職に悩む。仕事は在宅ワーク。

●楠井野子(くすい のこ):女性。30代。愛子の理想と欲望から生まれた生霊。


▼場所設定

●街中:公園など一般的なイメージでOKです。

●森奥のロッジ:かなり郊外にある不思議なロッジ。中には在宅ワーク用のパソコンがある。

●古めかしいビル社屋:都内の片隅にある。2つ目の職場として愛子が案内される。


NAは戸津根愛子でよろしくお願い致します。



イントロ〜


皆さんは、仕事で大変な目に遭った事がありますか?

最近でもリストラの時代、就職氷河期、そんな時代に見舞われた事で、

自分の天職はおろか、転職すらできない、まともな仕事にありつけない…

そんな人が多いのではないでしょうか?

在宅ワークも盛んになっている今日この頃。

そんな事で悩み続けた或る女性。

彼女は自分にとって1つの天職を見つけたようです。



メインシナリオ〜


ト書き〈公園〉


私の名前は戸津根愛子(とつね あいこ)。

私は今、就職に悩んでいる。

今年で35歳になりながら、未だに定職につけないこの身。


愛子「はぁ…。この先もう就職なんて出来ないんじゃないかしら」


本気で悩んでいた。どこへ行っても門前払い。

とりわけ目立った能力もなくステータスも低い。

こんな年齢になって、雇ってくれる所なんてないだろう。


その私が今唯一、仕事ができているのは在宅ワーク。

もうできるだけ多くのツールを活用し何とか稼ごうとやってきた。

それでも稼ぎは雀の涙ほど。こんなんじゃ将来やっていけない。


今日もハローワークから最寄りの公園で、1人ベンチに座り黄昏ていた。

その時、女性が1人声をかけてきた。


野子「フフ、こんにちは。どうかされました?とても悩んでますね」


いきなり現れたその人に私は少し躊躇したが、でもその人は不思議な人。

なんだかオーラのようなものがあり、心が休まって、少し一緒に居たいなんて思わされた。


彼女の名前は楠井野子(くすい のこ)さん。

過去に就職コンサルタントで働いてたらしく

今では都内でライフコーチやメンタルヒーラーの仕事をしていると言う。


彼女と喋っている内に何となく悩み相談のような形になって

私は今の自分の身の上・悩みを彼女に打ち明けていた。


野子「なるほど、就職で悩まれてるんですね」


愛子「ええ。どこへ行っても門前払いで、この先もう就職できないんじゃないかと…」


そんな私に彼女はいろいろアドバイスしてくれた。

そしてなんと彼女のお陰で私は仕事を3つも見つける事ができたのだ。

ほんとに信じられない事だった。


ト書き〈数ヵ月後〉


それから数ヵ月後。私はOLとして都内で働いていた。

でも新たなトラブルがやってきており、私は1つ目の仕事をすぐ辞めて、2つの仕事も数ヶ月で辞め、

そして今3つ目の仕事についているが、これも辞めてしまうかもしれない。


理由は全部、人間関係。とりわけ独りで居る事が多かった私は、

周りの人間と上手く合わせる事が出来ずどうしてもやっていけない。

ハミられたり、軽いイジメにあったりした事もあり、

余計に社会に出ることが嫌になってしまった。


愛子「せっかく就職できたのに…」


本当に情けなかった。


ト書き〈数日後〉


それから数日後。私はやっぱり3つ目のその会社も辞めてしまい、

結局、元あるべき道に戻ってきてしまった。

そしてまた前と同じように公園で黄昏ている。

するとまたあの彼女が現れたのだ。


野子「あら、あなたは確か?」


せっかく彼女に紹介してもらったのに…と言う気まずさもあったが、

それより何とか助けて欲しい、そんな思いが先行し

結局また彼女に悩み相談を打ち明けていた。


そんなこと言えた義理じゃないのに、彼女を見てるとそんな気持ちにさせられる。少し不思議な体験だった。


野子「そうでしたか」


愛子「ええ、ほんとにどうもすみません。せっかく紹介して頂いたのに、私がこんなだから…」


野子「いいえ、あなたのせいじゃありませんよ。そういう方は本当に多いんです。環境と合わない…これはその人のせいじゃなく、おそらく事故のようなもの」


野子「分かりました。それでは特別な場所へご案内しましょう。あなたには普通の就職は無理なようなので、これからご案内するその場所でこそ、天職を見つけられるんじゃないでしょうか」


愛子「え…?」


ト書き〈森の奥〉


それから私は彼女に連れられて、ずいぶん郊外にある森の奥へ来ていた。


愛子「ちょ、ちょっと野子さん、どこまで行くんですか?」


野子「フフ、もうすぐそこですよ」


連れられて行った先には大きなロッジのようなものが建っており、

その中にパソコンが幾つも置かれてあって、みんな在宅ワーク用のもの。

いわゆるパソコンで出来るいろんな仕事が与えられ、

しかも全部簡単な仕事ながら報酬はかなりの金額。


愛子「こ、こんなのでほんとに、こんなにもらって良いのでしょうか?」


野子「ええ、これがお仕事ですから」


驚いた。ワンクリックするだけでかなりの報酬が得られる。

こんな仕事は今でも普通に多く見られるが、

ここでの仕事はそんな仕事を押しのけるくらい遥かな報酬だった。


(それから仕事にのめり込む)


愛子「フフ、あははwこんな簡単な仕事でこれだけ稼げるなんて!」


これまで就活に走り回っていた自分が馬鹿みたい。

どの会社で働くよりも遥かにここの仕事のほうが幸せだ。それに自分に合っている。


私はそこでずっとやっていこうと思った。


ト書き〈トラブルからオチ〉


しかし、トラブルがやってきた。


愛子「ええ!?さ、3ヶ月って、どう言う事ですか!もう利用できないんですかあの職場!?」


野子「これはお伝えするのを忘れておりましたね。あの仕事場は、どうやっても就職できない人の為に設けられたリハビリ空間のような場所。ですから自立を促す為に設けられており、いつまでも利用…と言うわけにはいかないんですよ」


愛子「そ、そんな!」


野子「フフ、愛子さん。あなたも今それなりに資金を貯めることができたんですから、この経験をバネにして、今後の幸せは自分の手で掴み取る…そのように努力されてはいかがでしょうか?これは皆さんにも言ってる事ですが」


冗談じゃない。私はずっとあの場所を利用できると思っていた。あそこで働けると思っていた。

なのに、こんな簡単に私の未来が閉ざされるとは。潰されるとは!


愛子「じょ、冗談じゃないですよ!あんな場所を紹介しておいて、いざこれからって時に放り出すなんて!」


私はそれから無心した。どうかここでずっと働けるようにして下さい!

もしここが無理なら、何か別の仕事を与えて下さい!

私に合った仕事、ずっと続けられる仕事。


何をどう言っても私は聞かず、ずっとそう無心したからか。

彼女はようやく折れてくれ…


野子「ふぅ、仕方がありませんね。それではこちらのお仕事をお勧めしましょう」


そう言ってまた都内に戻ってきて、今度は街の隅に建てられた古めかしいオフィスビルへ私を誘い、

個室のような場所を提供してくれた。


愛子「こ、ここは…?」


野子「フフ、ネットカフェやチャットルームをそのまま再現したような仕事場です。愛子さん、あなたVチューバーってご存知ですか?」


愛子「…え?あ、知ってますけど」


野子「そのVチューバーに、あなたも成ってみる気はありませんか?あらかじめ、あなたがそのVチューバーとして活躍できるサイトを作り上げておきました」


野子「そのサイトの登録者数は1億人を超えており、あなたが動画を作ればそれだけで、一生食べて行ける程の収益を稼ぐ事ができるでしょう」


野子「フフ、今のあなたに合った仕事だと思いますし、あなた自身、ずっとこういうのを夢見ていたんですよね?」


愛子「…え?」


ちょっと奇妙な感覚がしながらも驚いた。

確かに私はその昔、VチューバーやYouTuberに憧れていた。

パソコンでの仕事を始めたのも実はそれがきっかけで、

でも自分にはなかなか出来ないからとライティングの仕事をしていたのである。


「VチューバーやYouTuberへの夢」の事など彼女にひと言も言ってなかったのに。

まるで見透かされたような感覚を受けていた。これが不思議の正体。


そしてもう1つの不思議…とゆうか彼女の魅力は、

他の人に言われてその気にならない事でも、

彼女に言われるとその気にさせられ、その将来に必ず幸せがあると思わされる事。


愛子「……やってみます」


野子「そうですか♪よかったです。私もお勧めした甲斐がありました」


そう言って彼女は部屋を出て行き、そこに1人私が残された。仕事はその時から始まっていたのだ。


ト書き〈ビルを見上げながら〉


それから数日後。私はもう現実の世界に帰る事はなく、ずっとパソコンの世界。

そう、Vチューバーとして活躍できるその世界で生活し、

それまで人として持っていた悩みや不安が全部一掃された。


野子「フフ、今日もお仕事をして、みんなを楽しませてるようね。私は愛子の理想と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた」


野子「あの部屋のドアは1度閉めたらもう2度と開かず、現実の世界に戻る事は無い。その事に彼女もすぐに気づいたんでしょう」


野子「人間としての悩みはもう無く、彼女は電子の住人としてずっとパソコンの世界だけに生き続け、自分を見てくれる多くのユーザー達を楽しませてゆく。まさにVチューバーの鑑と言ったところかしら」


野子「彼女には人として問題があった。仕事を辞めた理由は全部自分の勝手な思い込み。どこに行っても務まる訳ない。ああゆう人にはああゆう場所が合ってるんでしょうね」


野子「あなたの欲望から生まれたその理想が、あなた自身の仕事場を作り上げたの。ぜひその場所をこれからも大事にして、その夢に浸り続ける事をお勧めするわ」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=XSHqZIlYK0s&t=94s

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