第39話 成長の過程
ラウルとリアムの情報から間違いなく、アザレアのボスが湖上都市にいる。コボルトのことを考えると駆逐しても復活する可能性がある。断言まではできない。
カミラとリアムとは沼地で別れた。ふたりはラウルの群れが散り散りになったことを知り、やるべきことがあると言っていた。ラウルは池までついてきた。
「うむ!やはり池の水はうまい!」
ラウルは満足そうに言った。尻尾もブンブンと振っている。狼は犬に似ていて可愛い仕草がある。隣に腰掛けてお互いのことを話す。
「ラウルはこれからどうするんだ?」
「我は群れを失ったが、やることは変わらん。狩りをして食いたいものを食う。なにも変わらんよ」
「そっか。ボクはこの先の湖に行ってくるよ」
「……そうか。なら、ここでさらばだ」
「うん、またね」
池の周りを歩いて向かいの岸に向かっていると、後ろから水が跳ねる音がした。ラウルが池に飛び込んで水遊びをしていた。
犬かきして泳いでる。ああいうところまで犬なんだと関心した。
湖までは川でつながっていた。小川の両端は角のとれた丸い石があり、夏休みにバーベキューするにはぴったりな空間が広がっている。深いところもあり、海とはまた違った魚が釣れそうだ。
釣り好きのクルシュが如何にも通いそうな川だ。今度誘ってみるのもありだ。一度釣りをしてしまうと水辺はすべて釣りができる場所という認識が生まれてしまう。
川伝いに上っていくと草が生えている場所が増えてきた。その中には魔気草もあった。
川の幅が広くなり、背の高い草が生えていた。視界が悪い中、突き進んでいくとようやく湖にたどり着いた。
「うわぁ……すげぇ……!」
湖の上には立派な石造りの橋があり、中央にある都市に繋がっていた。都市はとても大きく、湖の3分の1を占めるほど巨大だった。
橋や都市を覆う壁にはアーチ状の穴がある。船を移動手段として使ってそうだ。街の大きさからみて栄えていたことがうかがえる。
都市へと続く橋はいくつかあり、半ばで崩れてるものもある。慎重に選ばないと都市に入ることも叶わなそうだ。泳いで入れるのでは?と一瞬考えたが、海の魚を思い出せば、リスクでしかない。
「リザードマンもいるしなぁ」
ここは正面突破で行くしかなさそうだ。橋に向かう最中、リザードマンに遭遇した。敵の本拠地の前だ。想定はしていた。
「ギュルッ!」
「ギュルルッ」
相対するのはリザードマン2匹。マッチョではないから水の鎧は使わない。この情報だけで安心できる。2匹は槍の間合いを考えてお互いに距離をとって接近してきた。
後ろに下がりながら回避する。避けれない攻撃は魔気1の短剣で弾いた。少しずつリザードマンの魔気を削る。攻撃する頻度から魔気の残量がなんとなくわかってきた。
「ギュルッ……ギュッ」
ボックスから最大値の魔気10の短剣を取り出す。突いてきた槍に合わせて短剣をぶつける。リザードマンの槍が消滅を起こして弾き飛んだ。
「ギュルッ!?」
まぬけ顔をしたリザードマンに連撃を加えて一歩引く。もう1匹のリザードマンが仲間を助けようと槍を突いてきたのがみえた。やることは変わらない。魔気1の短剣で削って隙を作り出す。
何度も戦ってきてようやく必勝法を見つけた。少ない魔気で劣勢を装い、隙をついて攻撃する。この戦術に敵の様子を理解する観察眼が加わった。
体力が減ればリスクを避ける行動に出る。それがわかれば、牽制すらも警戒されるようになる。警戒できる対象は限度がある。対象が増えるほどミスが増える。
このリスクを少しでも減らす方法は、視界に警戒対象をすべて収めること。これで首を振らなくてもいいし、逃がすこともない。見えない敵ほど恐いものはない。だから暗殺者は恐い。
2匹のリザードマンを倒して、暢気に歩くのは危ないことに気付いた。敵陣にいることを忘れていた。無駄な殺生はしないという考えはなく、出会ったリザードマンは全部倒した。
復活するかしないかはさておき、これから向かう都市の広さを考えると、駆逐はできない。探索するのは楽しみだからする。全部回ってリザードマンを殲滅するのは時間が足りない。
人参太郎:『多いな』
「何枚皮とれるかな」
人参太郎:『魔石もとれるな』
「リザードマン、高いといいな」
魔狼よりも強い立ち位置にいるリザードマンだ、きっと高いに違いない。これだけ多いと借金もすぐに返済できる。戦いの技術を学べてお金ももらえる。難易度もそこそこでちょうどいい。
「ボスが楽しみだ」
人参太郎:『俺も楽しみ』
1つ目の橋に辿り着いた。橋は湖の水面よりも3メートルほど高い位置にあった。石造りで丈夫な作りになっている。
「……」
近くまで行くと橋の上にリザードマンの群れがいた。3匹のリザードマンにはすぐに気づかれた。
「ギュルッ!」
橋までの道は木が生えていなかった。ちょっとした高台があるだけで隠れるところがない。不利な状況で人数差を覆すには、浮力の腕輪を活用するしかない。
距離を詰めて一気に接近する。
リザードマンの突き攻撃を避けて懐に入り込む。胴体に一撃を入れて橋の外に弾き飛ばすと、拍子抜けした声を発した。
「ギュルッ!?」
1匹を残して外に弾き飛ばす。1対1に持ち込んで丁寧な攻防をして無傷で倒す。空中に浮いてる敵の腕輪を破壊して1匹ずつ帰ってくるように仕向ける。
これで多対1が、1対1に変わる。これは集団戦において大切な戦術だ。どんなに強い人でも全方向から攻撃されたら終わる。この戦術はどのゲームでも総じて使えるものだ。
「多対多だったらもっと複雑になるから、今のうちに慣れておかないと」
1人よりも2人のほうが戦いが難しい。カバーできるから簡単に見えるが、ヘイトの管理が大変だ。
人数が増えるほど難易度が上がる。タンクがヘイトを集められるかによって変わる部分もある。本当にこれはゲーム性によるが一貫して言えるのはタンクは難しい。
「それよりも集団を相手取れるような技術を身に着けるか?」
人参太郎:『やっぱルーンか』
「あー、まだ2つだもんね。これが増えるとまた変わるかも」
ルーンが武器を出すだけのものではないことは、蒼汰と七瀬の戦闘で知っている。短剣と腕輪も新たな力が存在するはずだ。そうなるとまた戦い方も変わってくる。
「これって初めて箸が使えるようになったみたいなものだよね」
今までスプーンで掬う、フォークで差すの2択だった。それが摘むことで3択に増えた。ナイフも使えるようになれば、切ることもできるようになる。道具が増えればできることが増える。
「もっと言えば子どもの成長だ」
最初は首がすわってなかった、寝返ることもできなかった。座ることも立つことも歩くこともできない。それができるようになった。例えを変えると感動的になる。
「ゲームはその感動を再確認させてくれる」
新しいことを覚える。探究心が人を大きく成長させる。
「ルーン、楽しみだ」
これさえ忘れなければ、どのゲームでも最初を楽しめる。感覚を忘れ、最強ばかりを追い求めるようになると、最初の楽しみを失う。ゲームにすぐ飽きてしまうのは楽しみを捨ててしまったからに過ぎない。
できないから諦める。それも選択肢として正しいが、できるまでの過程の楽しみを捨てている。
できるものを伸ばす。これも正しい。楽しいからこそ続けられる。
楽しみの取捨選択は自らに託されている。間違いなんてない。選択肢が違うだけ。
「ちょっと気になることがあるんだ」
人参太郎:『なんだ?なんだ?』
「見ててよ」
また楽しみを見つけた。
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