第36話 ハーディング現象

 カミラに解体してもらったリザードマンの魔石を食べて、魔気を3増やした。


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【嘉六のステータス】

 名前:嘉六

 レベル:11(+1)

 称号:【天空竜の祝福】

 体力:60/60(+5)

 魔気:9/9(+3)

 闘気:2/2

 筋力:16(+2)

 速力:12

 知力:12(+1)

 能力値+0(+3−3)

 ※以下略

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 たった3増えたと言えば少なく見えるが、このゲームでは魔気が1違うだけで勝敗を分かれる。シビアなゲームだ。これだけの戦力が増えた起因となるカミラには感謝でいっぱいだ。


「お礼は何がいいですか?」

「私が欲しいものは変わらない。魔気草で頼む」

「わかりました。できるだけたくさん採ってきます!」

「ああ、お願いするよ」

「カミラさん、また来ます」

「いつでもおいで」


 用事を終え、カミラとリアムとは別れた。カミラもリザードマンの住処に興味があると言っていたが、なにぶんリザードマンは強敵だった戦いの足手まといになるくらいなら待つことを選んだ。


 ラウルは半数の魔狼を群れに返した。多すぎる群れは狩りに支障が出る。精鋭を連れて再びリザードマン狩りに赴く。


 リザードマンを狩ることで服従されていた魔狼たちは自信を取り戻していった。戦いの末、最後の群れの魔狼を取り戻した。これでラウルがボクと行動する理由がなくなった。


「ラウルはこれからどうする?」

「我は……ぬ?お前たち、なにを争っておる?」


 ラウルが行く末を話そうと口を開く。その最中、魔狼たちの間で喧嘩が巻き起こっていることに気がついた。


「ガルルッ」

「グルルルッ」


 互いに威嚇し合う魔狼たちにラウルが頭が静止する。


「やめろ!仲間内で争うな!」


 ラウルの威嚇に睨み合っていた魔狼たちは怯む。それでも睨むことをやめなかった魔狼がいた。ラウルはその魔狼に耳を傾けた。


「なにがそんなに不満なんだ?」

「グルルッガウガウッ!」

「なに?群れに戻りたくないだと?」

「ガウガウッ」

「……そうか」


 魔狼の中に群れへ戻りたがらない魔狼がいた。魔狼の言い分はこうだ。大人が狩りに行き、弱いものに餌を与える。自分が狩った獲物を子魔狼に食わせて自分は空腹に耐える。そんな生活に嫌気が差していた。


「グルルッ」

「……そうか。お前たちは苦しんていたのだな」

「ガルルルッ」

「グルッガウッガウゥ」

「……わかった。お前たちの好きにするといい」


 ラウルは群れを離れようとする魔狼を引き止めなかった。森の中に消えていく仲間たちを見届けると、今度は周りの魔狼にも目を向けた。


「お前たちも群れを出たかったら出るといい。残った仲間たちには……我が説明しよう」


 ラウルの決断を聞いた魔狼たちのほとんどは群れから出ることを決意した。残った魔狼たちもいずれは離れていく。ラウルは寂しそうな声で鳴いた。


「ラウル、これでよかったのか?」

「我はこれでも群れの長だった。いずれこうなることはわかっていた。せっかく群れのためにやってくれたのに、こんな形になってしまったこと、申し訳ない……」

「ううん、ボクは気にしてないよ。今まで助けてくれてありがとう」

「我の方こそたくさん助けてもらった。群れを守るためにここまでやってきたが、群れは解散する。我にはリザードマンを倒すという理由なくなってしまった」

「いいよ、ここからはボクひとりで行くから。リザードマンのことが解決したら、魔気草取りに行くの手伝ってよ」

「草か?草ならいくらでも任せろ」


 ラウルはひとり寂しく森の奥へと消えていった。ラウルの強さはどの個体よりも秀でていた。強さがすべてではないと気付かされた。ルールに従い続けることへの反発。強さに憧れた者たちの性。それらが群れの崩壊に発展した。


 これからラウルがどう動くのか、その行く末が気になる。また機会があったらラウルのもとへ訪ねてみよう。


「結局ひとりになるんだよね」


 人参太郎:『いつも通りだな』


「そうだね。1人もいいんだけど、やっぱりはやく強くなって蒼汰たちと遊べたいよ」


 先は長い。桟橋で戦っていた蒼汰と七瀬はルーンを使いこなしていた。戯れであれだけのことをやったんだ。ふたりは戦闘ではもっとうまく使えるはずだ。


 ラウルと最初に目指した池に着いた。


 池は森の中にぽつんとあり、水は透き通っていて中には倒木が沈んでいる。森に雨が降って溜まった自然の池だ。魚が目視できるほど澄んだ池では、リザードマンが泳いで魚を獲っていた。


 池の周りにはリザードマンの住居があった。木材を組んでテントを建てている。調理場もあり、枝に魚を刺して干物を作っている。リザードマンの文明が発達していることがわかる。


「あれさ、アイゼンの依頼によくない?」


 人参太郎:『酒に合う食材だったか?』


「そうそう。干物って肴になるでしょ?」


 人参太郎:『わからんでもない。食材というかあれは料理じゃないか?』


「細かいこと気にするなよ、あれは食材だ」


 物は言いよう。現物だけを出せば、アイゼンもわかってくれるはずだ。温厚なアイゼンは珍味として受け取ってくれる。その未来が見えた。


「リザードマンにはヒットアンドアウェイでいく」


 森の中では鹿と魔狼の足が速かった。リザードマンが池を蜥蜴のように腰を振りながら泳いでるのを見て確信した。リザードマンは水辺で高い運動能力を持っている。相手の土俵で戦う必要はない。森に誘って倒す。これがリザードマンの攻略方法だ。


 魔気1の短剣を量産して戦いに備える。リザードマンは集落の周囲をパトロールしている。集落に10匹ほどのリザードマンが滞在していた。その周囲を2匹のリザードマンが守っている。中には子どもも居る。


 ラウルやリアムのように意志疎通が取れるなら、友達になりたいなんてのは考えから捨てたほうがいい。仲間の皮と魔石を剥ぎ取った数分後に友達になろうはサイコパスすぎる。


 群れが瓦解した魔狼たちとはいずれ事を構えることになる。そのときは容赦しない。ラウルがああなったら、リアムの群れもいずれは解散する。そうすれば鹿肉をアイゼンに渡せる。


 これはちょっとサイコパス寄りになってしまうのも理由がある。魚以外食べられないのはもったいない。できれば牛や鶏肉も食べたい。ゲーマーというよりも独身として人が作った料理が食べたいという願望がある。


 友達の友達は食べにくいけど、友達に似てるけど別のものならなんとなくいけそうじゃないか。学校で飼ってるにわとりの肉は食べられないけど、給食で出たチキンならは食べれる、に似た感覚だ。


 なにはともあれリザードマンに警戒される必要がある。手始めに無警戒のリザードマンに用意した短剣を投擲する。気づく前に突き刺さり、悲鳴を上げる。


「ギュルッ!?」

「ギュルルルッ……ギュルッ!」


 驚いたリザードマンと敵襲に気がついたリザードマンが声を上げる。短剣が飛んできた方向は掴めていない様子。追加で投擲した短剣も突き刺さり、ようやく敵の位置を掴めたリザードマン2匹が森へじりじりと入っていく。


 木の上に登り、リザードマンが眼下まで来るのを待つ。木陰からリザードマンの頭が見えた瞬間に短剣を投擲する。


「ギュルッ!?」


 脳天に魔気9の短剣が突き刺さると、リザードマンが苦痛の叫びをする。頭を抱えて跪くのが見えた。木から降りるともう1匹のリザードマンが槍を構えて突進してきた。


 短剣でいなして、体勢を崩す。立て直してる間に倒れているリザードマンに追撃をする。今までなんとなく急所を狙って攻撃を仕掛けていた。


 クリティカルでダメージが大きくなることがないが、当たった時の痛みは反映されている。今回の脳天では思考することができないほどに弱体化している。その点を踏まえると、余裕があれば急所を攻撃するのが良さそうだ。


 仲間を殺されて苦しそうな顔をするリザードマンが追撃を仕掛けてきた。単純な突きを受けることなく、短剣で弾く。持ち前の体幹の強さで槍を元の位置に持ち直した。


 後方に一歩引くと、思わぬところに罠があった。


「あっ……」


 さっき倒したリザードマンに足が引っかかって倒れた。するとリザードマンはチャンスとばかりに突進をしてきた。


「まっずぃ!?」


 慌てた様子にリザードマンの口角が上がった。

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