第34話 共闘

「今日はこれで配信を終えるよ」


 冒険者ギルドの自室で視聴者に向けて終了の挨拶をする。


 人参太郎:『長時間の配信お疲れさま!今日も楽しめたぜ』

 別人格:『めっちゃ面白かったです!』


「ありがとう!今週は休みを取ってるからも毎日配信するつもりだよ。それじゃまたね〜」


 配信を終えて一息つく。


「今日は本当に色々あったなぁ。濃い1日すぎた。でも楽しかった。また明日も楽しめるって考えるとニヤけちゃうな」


 明日の朝早くから遊べるように荷物の整理をする。不明のルーンの鑑定もしないといけないし、やりたいこともやらないといけないこともたくさんある。この充実感がたまらない。


「明日なにから手を付けようかな」


 朝、目が覚めると、VR機器に座ったままだった。ゲームを終えた直後に急激な眠気に襲われて寝落ちしたらしい。丸一日ゲームをした反動もある。


「今何時?えーっと8時だ。うわ、早起きだ」


 休日ならまず寝ている時間だ。こんな早起きをするのも久しぶりだった。気分転換にコンビニへ朝ご飯を買いに行く。


 ぽかぽかとした日光を浴びながら歩くのは最高だ。家の中にこもるゲーマーでもこのぽかぽかには勝てない。だって昼寝に最適な気温だから。


 コンビニ弁当とおにぎりを買って外に出る。ちょうど学生が登校していた。男女で仲良く談笑しながら歩いている。ボクにもあんな時代があったな、なんて思いながらすれ違う。


 友達というのはいつかはいなくなる。だからできるだけ連絡を取り合っておく事が大事だ。ちらっと見たスマホに一通のメッセージが来ていた。そこには人参太郎と名乗る友人からのメッセージが届いていた。


 人参太郎:『今日は配信しないのか?』


 彼は昔から配信に来てくれているから連絡先を交換している。今の時代、よっぽど有名じゃない限りは配信者と視聴者は互いに連絡を取り合う関係になっている。匿名の時代は終わり、今では互いの懐を知る仲だ。


「えーっと、『9時には始めるよ』と…」


 人参太郎:『わかった。楽しみに待ってる』


 こうやって予定を聞けるぐらいフラットな関係は良い事がある。誰も来ない配信ってのは辛い。誰も聞いてくれる人がいないのに、永遠に独り言を呟く。質問をしても答えは返ってこない。そんな配信耐えられるか?ボクはもう耐えられない。だからこう言ってくれる人に感謝しかない。


 帰宅してすぐに配信の準備をしてゲームを起動した。配信をつけると、すぐに何人かが視聴しに来てくれた。


「いらっしゃい、今日は昨日の続きをしていくよ。今日はお金稼ぎが主目的になるかな?あまりにもお金がなさすぎてどうにかなりそうだよ」


 昨日の記憶と照らし合わせてステータスを見る。


 ーーーーーー

【嘉六のステータス】

 名前:嘉六

 レベル:10

 称号:【天空竜の祝福】

 体力:55/55

 魔気:6/6

 闘気:2/2

 筋力:14

 速力:12

 知力:11

 能力値+0

【ルーン】

 仙人 闘気(自己のルーン)

 レベル1:腕輪の型

 暗殺者 魔気(回帰のルーン)

 レベル1:短剣の型

【所持品】

 お金:−6万リン

 ルーン:不明1

 ーーーーーー


「だめだ。どうしてもこの借金を見ると震えが止まらない」


 あと5万で買えたはずの素材用鞄。道半ばで強制的に地の底に落とされたあの悲しみ。


「忘れよう。今は稼ぐことだけ考えなくちゃ」


 正体が不明のルーンも鑑定しないといけないのに、お金がない。魔石も買いたいけどお金がない。あれもこれもマリアベルのせい。


 対話の選択肢がなく、自分で解決しないといけないのが最近のゲームだからこそ、こういうアクシデントがたまに起きる。


「トリガーがわからないから、マリアベルのお店にはお金が貯まってからいこう」


 冒険に行くための準備をしている間に、何人かの視聴者が増えた。その中に人参太郎さんもいる。


 人参太郎:『遅かったな』


「時間ぴったりだよ」


 時間に厳しく自分が思った行動をしてくれないと怒る視聴者もいる。人参太郎さんに限ってそんなことはない。ただの挨拶だ。


「今日は昨日の続きで白い魔狼のところに行くよ。そこでいっぱいお金を稼ぐんだ。ああ、もちろんカミラさんのところにも行くよ」


 人参太郎:『手ぶらで行くのか?』


「あー、確かに。魔気草を手に入れてからにするよ。魔狼の件が早く終わったらいいんだけど」


 お金を集めてレベルも上げる。プレイスキルを上げたらどこを目指すか。第1目標はアロケルの討伐だ。戦ってわかったことは魔気の総量が違うこと。レベルがわからないなら、できる限りレベルを上げることに集中するのが得策だ。


「今日は寄り道せずにあの島に行くよ。本当は配信の始まりか終わりに釣りをしたいんだけど、娯楽は後回しだね。もし強い敵に遭遇してボコボコにされたら、荒んだ心を癒やすために釣りをするかも」


 ヒューズのもとへ向かう。港には誰もいない。こんな朝早くからゲームをする人は稀だ。


「ほっほっほ、今日はどこに行くのじゃ?」

「これでお願いします」

「ふむ、ここじゃな」


 長椅子に竜1枚悪魔1枚のコインを置く。ヒューズは頷いて船の準備をした。船に乗るとすぐに出港する。しばらくしていつもの桟橋に着いた。


 そういえば、と思いあのことをヒューズに尋ねる。


「ヒューズさん。水晶って」

「ほっほっほ、お主がここに来ればワシがおる。もう必要ないじゃろ」

「あ、そうなんですね」


 なにかのトリガーを踏んでいたようだ。いらないならなくていい。ヒューズと別れてアザレアに向かう。狼魔族と会わずに抜けることができた。青い森に入ると、森がざわめき出した。


 風とともに木々が揺れて現れたのは白い魔狼だった。彼は身体に切り傷があり、焦燥している。


「遅いぞ!我が待っておったのに!」

「ええっ!?待ち合わせはしてないよ?」

「ふむ、確かにそうか。説明が足りてなかったな!子魔狼たちが貴様を食い物にしようとしてた理由がわかったぞ」

「本当?」

「空腹だ。それも大人の魔狼たちが責務を放棄しておった。理由は強者による圧力だ」


 白い魔狼が詳しく説明してくれた魔狼は強い者に惹かれる性質があり、これまではリーダーである白い魔狼に従っていたが、湖上都市に巣食う蜥蜴人リザードマンにより魔狼たちは服従されてしまった。


「奴らはこれまで湖上都市から離れなかった。動き出したのも最近だ。それがまさか我らを従えるほど強い存在だったとは」


 まとめて服従したなら話は変わるが、白い魔狼と子魔狼はそこに居合せていなかったため、対象範囲外になっている。そのおかげで一方的に裏切られている状態になり、今まで形成していた組織が崩れてしまった。


「それでどうするんだ?」

「これは我からのお願いになる。我とともに憎き蜥蜴人リザードマンの討伐をしてくれぬか?」


 まさかの共闘の願い。チルタイムでもっふもふできることを考えるとなにがあってもプラスだ。迷うほどのことじゃない。


「もちろん、手伝うよ……じゅるっ」

「ぬ!助かる!が……そのよだれはなんだ?」

「ごめん、ちょっと思い出しよだれを」

「そうか。我とともに戦ってくれるのだな!盟友に感謝する!」


 白い魔狼はリアムがいる方向を眺めて言った。


「そうだ。名前はなんていうの?」

「自己紹介が遅れたな。我はラウルだ!よろしく頼む!」

「ボクは嘉六だ!よろしく頼む!」

「ぬ?我のマネか?似てないな」

「くっ……」


 ラウルは軽いツッコミを入れた。ものまねが下手なことは周知の事実。それをこうして正面から言われるとくるものがある。


「嘉六、小手始めにあの池に向かうぞ」

「わかった」


 ラウルと意気揚々と池へと向かう。蜥蜴人リザードマンだけでなく魔狼もいる。強敵だらけの戦闘が幕を開ける。

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