第23話 住民からの依頼
掲示板にある依頼は大きく分けて3つの種類があった。1つ目は討伐依頼。アルカナの周囲の森に潜むゴブリンの討伐。2つ目は採取依頼。離島にしか生えていない薬草を採取してほしいとのこと。
3つ目は採集依頼。国で海に面している領地は少なく、慢性的に魚介類が不足している。オズワルド商店から食用の魚介類の納品をしてほしいとの依頼が来ている。
「ゴブリン!」
人参太郎:『定番な魔物の登場か』
個体数の多い魔物として知られるゴブリン。醜悪な顔をした鬼の末裔はずる賢い。女性の天敵と言われるほどに性にオープンな性格をしているだとか。様々なゲームや漫画で登場するほどの人気があふ。
「アルカナの外ってまだ行ったことないから興味はあるな」
別人格:『門番がいませんでしたっけ?』
「ここって流刑地だよね。なにか制限があるのかも」
真新しいもので誘惑して実は外に出れませんってパターンは大いにある。そう考えると罠かもしれない。
「魚釣りもいいかなって思うけど、ボクも視聴者のみんなも戦いのほうがいいよね?だったら魔物に出会える可能性がある採取依頼にしようかな」
掲示板に貼ってある紙を1枚剥がして受付に持っていく。
「あ、嘉六さん。どうも、いらっしゃ…い」
「こんにちは」
対応してくれるのはひどく怯えた様子のミーティア。あのあとこってりと絞られたらしく、遠い目をしている。依頼書の確認をして、無駄口をたたくことなくスタンプを押して返却してきた。
「この依頼書をヒューズさんに渡せばいいんですか?」
「そうね。薬草の上限はないから、できるだけたくさん取ってきてくださいね」
「わかりました」
依頼書の内容を確認する。スタンプには今日の日付が記載されていて、始めた日がわかるようになっている。薬草の採取の期限はなかった。本数指定もなく、あればあるだけいいという感じだった。
「これって普通に持ってきたらいいんですか?」
「採取方法を記載した本がこちらにあります。よければこちらを参考に採取をお願いします」
『猿でもわかる薬草の取り方』の本を渡された。また猿でもわかるシリーズだ。コボルト、ゴブリンと来て猿なんて聞いたことない。よほど頭が悪い存在なのか。もしかしたら馬鹿すぎて絶滅してしまった古代種なのかも。
「ありがとうございます。これで良いものを採ってきます」
「お願いします」
冒険者ギルドを出て本を読んでみた。薬草は魔物が住む場所に生えてる。その理由は魔気が濃いから。薬草にはいくつか種類が存在していたが、そのすべてが魔気によって変異している。
薬草は別名、魔気草という。今では魔気の濃度以外の違いがないそうだ。
「草は全部、薬草?」
この疑問は次のページに書いてあった。草は草。薬草は薬草。薬草は見た目が特殊で普通の植物が緑色に対して薬草は紫色なのだとか。採取方法は根こそぎ取ること。
根っこの部分に魔気を貯める器官があり、そこまで含めて採らないと枯れてしまうそうだ。薬草は1本あたり300リンで取引されている。お小遣い程度だ。これなら儲からないと思うけど、狙いは薬草じゃない。そこに出てくる魔物だ。
「今回は短剣が使えるから刃物がいらないのがいいな」
魚用の解体ナイフでやるにしても段々と切れ味が悪くなっている。前回のレヴァナント解体に若干の詰まりがあった。丸ごと入れられることで解体が発生しなくなったが、今後釣りをするなら短剣は必須アイテム。なくてはならない存在だ。
「準備もできたことだし、出発しよう」
船着き場のヒューズさんに話しかけると、コインの数を聞かれた。1日に何度も船を利用すると、利用費としてコインが取られる。試験合格祝いにもらったコイン3枚と元々持っていたコインで、合計4枚ある。今回は2枚必要になるそうだ。
「うわっ……2枚か。帰ってきたらもう1回はできなくなりそう」
船の利用制限があるなんて聞いてない。往復することで金策をしようかと考えていたのに計画通りに出来なさそうだ。悩んでいるとヒューズが気さくに話しかけてきた。
「ほっほっほ。コインが欲しいのじゃな?」
「欲しいです」
「うむ。ワシからの依頼を受けてくれ」
船着き場の翁ヒューズからの依頼:『3種類の魚を3匹ずつ食べたいのぅ』
「え?これ?」
「コインは住民からの依頼を完遂するともらえるのじゃよ。これも一種の冒険者活動じゃ。励むと良い」
甘々アイゼンから無償でコインを貰いすぎて知らなかった。コインはこうやって貰うのが普通だったらしい。冒険者ギルドに入るのにも必要だった。あの時点で住民と交流していれば知れた情報だったのかもしれない。
「わかりました!絶対に完遂してみせます!」
「うむ、その意気じゃ」
ヒューズからの依頼を終わらせるのはそんなに時間がかからない。これをすぐにやるかといえばそうじゃない。住民からの依頼を受けられるなら、アルカナの住民、全員から依頼を受けるべきだ。
方針が決まった。まずは依頼を受けることから始めよう。離島の物で納品可能なものがあれば、採取依頼と合わせて完遂できる。
最初に向かったのは、試練でお世話になった鍛冶屋だ。確かお土産を持ってくるように言われていた。手持ちにあってお土産になりそうなのはレヴァナントから奪った棍棒だ。
店内に入ると、カウンターに熊のようなおっさんがいた。客と認識された今なら多少なりとも挨拶も変わるはずだ。
「こんにち「なんだ?冷やかしか?」は……」
第一声に言われたのは、冷やかしだった。変わらないものって素晴らしいよね。でも人は変わってほしい。特に初対面から顔見知りになったからには。
「冷やかしじゃないです。ほら、これお土産」
棍棒をカウンターに置くとさっきまで不機嫌そうな顔をしていたのに、真っ白な歯を見せてニカッと臭そうな笑みを浮かべた。
「おお!あの時の客じゃないか!元気にしてたか?」
「はい、その客です。元気にしてます」
「また買い物してくれるのか?」
「あ、いえ」
「あ?」
依頼に来たんだと、そう言いたかったが、あからさまに態度が変わった。買い物しないと客ではないのだと、彼はそう言っているように見えた。
「今回は依頼を受けに来たんです」
「なんだ、依頼か。冒険者も財布事情は明るくないか。だったら多少なりとも難易度の高い依頼を出してやろう」
鍛冶師ローガンからの依頼:『魔鉱石を10個納品してくれや』
鍛冶師の名前はローガンというらしい。それにしても魔鉱石なんて初めて聞いた。
「魔鉱石はどこで採れるんですか?」
「聞いた話によると離島の山岳部で採れるらしい」
「なるほど。山の方に行けばあるんですね」
「ああ。お前にこれを渡しておく。有効に使え」
渡された本は『猿でもわかる採掘方法』だった。またこのシリーズだ。猿は一体何のことを指すんだ。言及しても時間の無駄か。鍛冶師のローガンと別れて、服飾屋のマリアベルを訪ねた。
「あら、さっきぶりね。やっとデートの服を買いに来たのかしら?」
「あ、いや。コインが欲しくてなにか依頼がないかと」
「やっぱり貴方も男の子なのね」
「ええ、まぁ……」
「いいのよ。私も貴方くらいのときは。ううん、こういうのは野暮ってものよね。いいわ。依頼を出してあげる♡」
服飾師マリアベルからの依頼:『魔狼の毛皮を10枚納品してよね♡』
聞いたことない魔物だ。マリアベルは店の奥から依頼となる毛皮のサンプルを持ってきた。魔狼の毛並みは黒くて硬い。装備品としてはうってつけらしく、他の領地で人気商品として取り扱われてる。
「かっこいいな。ボクもこれで装備作ってもらおうかな」
「やだ、何言ってるのよ。嘉六ちゃんの服は私がオリジナルでつくってあげるんだから、楽しみにしてなさい」
「えっ……あ、はい」
蒼汰とクルシュの服はマリアベルのオリジナルだ。ここにいるプレイヤーは皆、マリアベルのお手製を着ることになっている。七瀬と剛鬼も戦闘服はまた違った服を着ているとのこと。アルカナのプレイヤーは全員コスプレをしている。果たしてこれはここ以外もそうなのか、気になるところである。
船着き場の翁ヒューズ、鍛冶師のローガン、服飾師のマリアベルときて、最後に向かったのは薬屋だ。気難しそうなおばあさんが相手では簡単に依頼をくれないだろう。決めつけていたら、言ったそばから依頼書が飛んできた。
薬師エマからの依頼:『魔気草を10束もってきておくれ』
「たくさん採ってきます」
ちょうどギルドの依頼とかぶっている。エマ婆にお礼を言って店を出た。どの店も友好的だった。報酬の相談はしていない。何にせよ、ヒューズからはコインを確約してもらっている。それだけで十分だ。
人参太郎:『酒場は行かないのか?』
「あ、忘れてた」
最後に酒場の店主、アイゼンを訪ねた。依頼を受ける旨を伝えると、すぐに依頼が来た。
酒場の店主アイゼンからの依頼:『酒のつまみになる食材を探してきてくれ』
酒に関連した依頼だった。依頼だけをもらうつもりだったのに、アイゼンからまたコインを1枚もらった。貰いすぎて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。できるだけおいしいものを持ってこよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます