第22話 ルーンの本質

 遠くの彼方に飛んでいった蒼汰は、服飾屋のマリアベルに押してもらって帰ってきた。


「ただいまぁ!」

「あ、おかえり。と、マリアベルさん」

「あら、みんな揃って仲良しね。なにをしてるのかしら?」


 蒼汰はマリアベルに「押して押して」とせがんだ。すると、「しょうがないわね」とマリアベルは優しく押して、またどこかに飛んでいった。


 肩の珠がある限り浮き続ける。強すぎる能力に見えるが、あの珠を壊せば浮力は解除される。込めているのが闘気1だけだから、壊すのは簡単だ。


「ボクが初めてルーンを手に入れたからそのお披露目をしてたんです」

「もうルーンの力を?予想以上に早いわね」

「そうなんですか?」

「だって蒼汰ちゃんもクルシュちゃんも……いや、ふたりとも真面目じゃなかったわ。釣りばっかしてるもの」


 蒼汰とクルシュの釣り好きは認知されていた。クルシュも頷いている。釣りが好きすぎるのも問題かもしれない。


「それで嘉六ちゃんはなにを手に入れたのかしら?」

「自己のルーン、仙人の力を手に入れました」

「どれも特殊だけれど、それは抜きん出て特殊よね。武器としては使えないけど効果は絶大だわ」

「マリアベルさんってルーンに詳しいですか?」

「ほどほどよ」

「だったら、この自己のルーンと相乗効果を得られるルーンって知ってますか?」

「うーん、こういうのは自分で考えたほうがいいのだけど、そうねぇ。得意な武器はあるかしら?」

「長物は苦手です」

「あら、そうなの。だったら『財産のルーン』か『回帰のルーン』がおすすめよ」

「それってどういう武器かも教えてもらえますか?」

「欲張りね。でもだめよ。ここまでヒントをあげたんだから。あとは自分で考えなさい」


 マリアベルは唇に指を重ねてウインクをした。リップサービスはここまでということか。確かにこれだけのヒントをもらっておいてさらに引き出すのは欲張りすぎる。


「わかりました。あとは自分で考えてみます」

「ふふっ、それでいいのよ。私はこれから用事があるから、今度またデートの服を選びに来なさいよ」

「はい、また行きます」


 マリアベルと別れを告げた。蒼汰はまだ帰ってくる様子はない。2つのルーンのことさクルシュに聞いてみることにした。


「クルシュは財産のルーンと回帰のルーンについて知ってる?」

「俺はどっちも手に入れてないが、剛鬼が財産のルーンを手に入れてたな。確か結界師の力だったはず。武器は籠手だ」

「ありがとう!助かる」

「気にするな。俺も自己のルーンの力を知れたからな。お互い様だ」

「となるとあとは回帰のルーンか。どんな武器なんだろう」

「俺的には知らないルーンだからぜひとも回帰のルーンを選んで欲しい」

「わかったよ。回帰のルーンにしてみる」

「いいのか?」

「ルーンってまた手に入るんでしょ?」

「ああ。ボス戦で落ちるな。レアアイテムだが絶対に手に入らないものじゃねぇ」

「うん。だったらなおさら回帰のルーンにするよ」


 マリアベルがおすすめしてくれたものなら使っておいて損はない。籠手と腕輪のコンビネーションは間違いなく良かった。ということは回帰のルーンも間違いなく良いものだ。今回は回帰のルーンにして次に仮初のルーンを手に入れたら財産のルーンにしよう。


 ボックスから仮初のルーンを取り出して、回帰のルーンに変換する。それをまた使用してみる。


 ーーーーーー

【嘉六のステータス】

 名前:嘉六

 レベル:7

 称号:【天空竜の祝福】

 体力:40/40

 魔気:5/5

 闘気:2/2

 筋力:11

 速力:11

 知力:6

 能力値+0

【ルーン】

 仙人 闘気(自己のルーン)

 レベル1:腕輪の型

 暗殺者 魔気(回帰のルーン)

 レベル1:短剣の型

【所持品】

 お金:430リン(−1万)

 ルーン:不明1

 ーーーーーー


「おお!」

「お?なんだ?」

「暗殺者だってさ」

「めっちゃ良さそう」


 クルシュに見せるように短剣を創り出す。短剣は手の影から生まれ出た。暗殺者で影から武器を生み出すのが良すぎる。


「短剣か。いいな、それ」

「めちゃくちゃかっこいい」

「本当にかっこいいよな。今まで木の棒と素手だったのがいきなりこれになるんだぜ。意味わかんねぇよな」


 クルシュは氷の刀を掲げて楽しそうに笑った。名も知らぬ子供がいきなり聖剣を抜いたぐらいの落差がある。それだけに気になることがある。あの鍛冶屋は必要なのかと。


「これがあるなら鍛冶屋は行かなくなるの?」

「いいや?そんなことはないぜ。最初のうちは鍛冶屋の重要性をわからない。だがいずれ必要な時が来る。選択肢のひとつで覚えておくといいのさ」


 クルシュはなにかを隠すように言った。知られて困ることでもない。それでも隠すということはクルシュ的には自分で気づく楽しさを今から失う必要がないと考えたのかもしれない。


「俺はそろそろ探索に行くわ。どっか行った蒼汰を探してな」

「うん、色々ありがとう」

「俺も有意義な時間を過ごせたよ。じゃあな」

「また」


 クルシュと別れたあと、港の焚き火で視聴者と会話をする。見ていなかっただけでコメントは川のように流れていた。


「ごめんごめん、放置しちゃって」


 人参太郎:『気にすんなって俺達が会話に割り込むわけにはいかねぇからな』

 雪城:『あのぷかぷかするやつ楽しそうだった!』

 雲行き綾憂:『新情報が増えて考察が捗るってものですよ』

 別人格:『はやく戦ってるとこ見たいです!』

 人参太郎:『戦ってくれ、頼む』


 読んでないだけでコメントは大盛り上がりしてた。新しい力と情報が一気に手に入った。事前情報にはなかったジョブだった。ジョブと呼んですらなかったことから別の7つのルートとはゲームのシステム自体違う疑惑がある。


「ボクもはやく戦ってみたいよ」


 これだけ大きく戦闘スタイルが変わりそうな力。使いたくてウズウズしてる。力の検証だけでなく、他にも気になることがある。短剣を新たに生成してみる。しばらくして魔気が回復している。


「やっぱりそうだ。この短剣をつくってすぐに魔気が回復してる」


 人参太郎:『マジで規格外な能力だな』

 別人格:『作りたい放題ってこと?』


「わかんない。ちょっと試してみる」


 ストックできるのは12本までだった。13本目からは古いものから消えてた。これがあれば今まで節約して使っていた魔気を存分に使い回せるようになった。選択の幅が広がれば、戦いの質も向上する。


「なんで12なんだ?」


 人参太郎:『筋力か?』


「魚を持てる量と同じ理論?」


 人参太郎:『それしか思いつかねぇよ』


 込めている魔気は12だ。ステータスと見比べると該当するのは知力だった。知力✕2がストックできる数だ。


「知力めっちゃ重要じゃん」


 木の棒で戦っていた時はそれほど重要視されていなかったものがあとから大切だとすると、なんだか悲しくなる。能力値のリセットってできないのかな。そんな甘えは通用しないのかも。次からはもっと考えて割り振ろう。


「新情報の考察が終わったから、依頼を受けに行くか。成功報酬でお金を貯めて未鑑定のルーンをさっさと習得しよう」


 さっさと冒険者ギルドに行こうかと考えているとツッコミが入った。


 雪城:『ポイ捨てはめっ!だよ』


「あっ、忘れてた」


 すっかり短剣のことを忘れていた。焚き火に並べた短剣は持ち運ぶには多すぎる。


「ちょっとどうしよう。ボックスに入る?」


 試しに短剣を所持品のボックスに入れてみた。すると装備品ではなく素材のひとつとして入った。鞄に入るかも試してみると全部収納することができた。


「でもこれは戦闘には不向きだね。戦ってる最中に鞄から取り出すほどの余裕はないからね」


 鞄から取り出してよりコンパクトに収納できないか考える。短剣はそれぞれ魔気で生成したものだ。これをどうにかして少なくできないか考える。


 身体に突き刺してサボテンになりきるのはどうだろうか。おそらく死ぬ。ただの自殺だ。それなら解除したほうがマシだ。


「短剣の解除ができるなら、合成なんかはどう?」


 試しに合成してみたら、魔気2の短剣ができた。どこまで合成できるか試したら、最大値5までだった。


「これはわかるよ。魔気と同じ値だ」


 持てる総量は知力✕2。生成できる強さは保有魔気量まで。無限に強くできたら魔気を増やすメリットがなくなる。これは良い調整だと思った。追加で検証した。合成するにはある一定の距離まで近づけないとできなかった。


 検証を重ねてより戦闘で活用できるか調べるには時間が足りなさすぎる。さらに時間をかけるか、それとも戦闘の中でより最適解を見つけるか。ボクは欲に身を任せることにした。


「検証してたらだいぶ時間くっちゃったね。そろそろ行こうか」


 依頼を受けるべく、冒険者ギルドに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る