第17話 残骸鬼
ボスエリアに踏み込むと、ムービーが始まった。指揮官コボルトが走って異質なコボルトのもとへ行く。指揮官コボルトがなにかを説明すると、異質なコボルトが怒りを露わにしながら立ち上がる。
そのコボルトは他のコボルトよりも筋骨隆々で体格も大きい。特に腕が大きく発達している。指揮官コボルトが二足歩行の犬だとすれば、このコボルトは二足歩行の狼だ。
「グオオオッ!」
異質なコボルトが咆哮をあげると、ボスの名前が表示された。
『
コボルトの種族が判明した。ゲームによってその種族名が大きく変わることがある。ここではコボルトではなく、レヴァナントが正しかった。
ボスのレヴァナントは手になにも持っていない。肉弾戦での戦闘になりそうだ。木の棒を持っているボクよりもボスのほうが腕が長い。接近戦でどうにか立ち回って攻撃しないといけない。
「まずは軽いジャブ」
木の棒に魔気を3、身体に1を纏わせて走る。能力値を上げた弊害で思った以上に近づいていた。
「あっ、しまっ……っ!?」
「グルッ」
急ブレーキはできない。ボスは近づいた敵を排除しようと長い腕を振ってきた。木の棒で受けると、魔気が消滅した。
「はぁ!?」
その時点で魔気の保有量が同等かそれ以上ということがわかった。
「くっ……」
ボスの腕の力に押し負けて後ろに押される。魔気だけでなく筋力もボスのほうが上手だった。力負けしたからといって諦めない。体勢を立て直して前を見ると、ボスの姿がない。
「どこいっ……うっ!?」
気づいた頃にボスが真横にいた。身体が宙に舞った。自由落下して地面に叩きつけられる。ピンボールのように飛ばされた先にはボスがいる。どれだけのスピード差があるんだ。抵抗する間もなく一方的に蹂躙される。
「くっそ……こんなの負けイベントでしか見たことないって……!」
トドメの一撃は流れ作業のように行われた。身体が光りに包まれると、ボスエリアから強制リタイアさせられた。
気が付くと、視界いっぱいに空が見えた。波の音がする。横を向くとどこまでも海が広がっている。反対側も同じだ。ここはどこなんだと、起き上がると、その先も海だった。
「はぁ?どこぉ!?」
振り向いた先は見覚えのある景色だった。そこは滅びた国の玄関口。船が停止したあの石畳の桟橋の上だった。
「……ここか」
あのボスは予定されていた負けイベントではなかった。ボスの戦力差を知れたことでも十分なのか。自分が弱すぎることに気づけてラッキーと思うべきか複雑だ。
あまりに一方的な敗北に誰もが口を閉ざした。重たい空気の中、最初に口を開いたのは配信者のボクではなく、長年視聴してくれている人参太郎さんだった。
人参太郎:『心折れたか?』
「いや?ボクって雑魚だったんだなって」
余裕かましてなにもできなかったのはさすがのボクでも来るものはあった。
人参太郎:『俺も余裕なんじゃないかって思ってたけど、このゲームの難易度は普通じゃなかったな』
こうも励ましの言葉をもらうと元気が出てくる。配信者の心の支えが視聴者の人も多い。ゲームしてて心配してもらえるのって配信者くらいのものだ。友達だったら煽られる。そんな関係の人が多い。
「これも学びだよ。何度でもいけそうだし、もう一回行ってみるよ」
人参太郎:『好きなだけやってくれよ。俺達は楽しんでるからよ』
「わかった。とことんやらせてもらうよ。絶対勝ってみせるから見てくれよな!」
拳を上げて宣言する。夢も希望も言葉にするだけで勇気がもらえる。
安全圏の港を抜けて廃墟の森に着いた。ここからは警戒する必要がある。死に戻りしても倒した分はそのままなのか、それとも死に戻りすれば元通りになるか、このゲームではどうなることやら。
慎重に進んでいくと、コボルト改めレヴァナントがいた。さっきは物陰に潜んでいたら出てきたのに、今回は最初から出てきている。そしてその手にはウサギを持っている。
「回復アイテム持ちか。慎重に行き過ぎると回復されるから、ここは先手必勝だ!」
気づかれる前に物陰から飛び出して接近する。回復アイテムを奪えることを想定して今回は攻撃にすべての魔気を込める。防御は捨てて生身で受ける。
「せいっ!」
「グギャッ?……グギャァ!?」
走って近づいたおかげでレヴァナントに奇襲できた。気づくのが遅い。渾身の一撃が頭部に直撃する。振り抜いた木の棒をさらに左から振って、レヴァナントの顎を叩く。
頭と顎に衝撃を与えたレヴァナントはフラつきながら膝から崩れ落ちた。無防備な頭にもう一度木の棒を叩きつける。
「よし、これで討伐完了!」
1匹目で手に入れたものはレヴァナント1匹とウサギ1羽だ。棍棒は持っていなかった。所持品を確認すると、戦利品は全部残っていた。死に戻りのペナルティに所持品が含まれていないということになる。
「敵が復活することを含めてもプラスだな」
せっかく攻略したのにもう一度となると、嫌になる人もいるが、なんの対価もなしにもう一度遊べると考えると悪くない。特にレベルアップができる関係上、敵のリポップがあるのは非常に助かる。
敵を探してみると案外たくさんいた。周囲を徘徊する者や焚き火でウサギを調理する者、昼寝する者。攻略するエリアだから敵を探しているのかと思っていたが、どちらかといえば、日常に急に現れた侵入者に近い。
「ゲームの詳細ってほとんど載ってないから、このゲームがオープンワールドなのか、それとも自ワールドを持ってる系なのか不明なんだよね」
ルート分岐があって、戦争をしていて、月1でリセットをしている別ルートとは根本的に違う気がする。隠しルートなだけあってプレイヤーと出会える確率はないに等しい。そのうちの3人が釣りに行ってるから絶対に会えない。
「進むたびに知りたいことが増えてくな」
探索を始めて10匹以上のレヴァナントを狩った。そのおかげでレベルが7になった。
ーーーーーー
【嘉六のステータス】
名前:嘉六
レベル:7(+2)
称号:【天空竜の祝福】
体力:17/40
魔気:3/5
筋力:11
速力:11(+2)
知力:6(+4)
能力値+0(+6−6)
お金:380リン
ーーーーーー
知力を上げると考える時間ができる。あの速度に対応するにはこうするのが最適だと考えた。まだこれでも足りない。あの速度は尋常じゃなかった。
「もっとレベルを上げたいけど、もういないのかな?」
廃墟の森を練り歩いてみたが、敵に遭遇しなくなった。エリア内には出現する敵に限りがあって討伐するだけだとリポップしない仕様なのかも。
「やっぱボス倒さないとだめかな?」
人参太郎:『あの水晶を叩き割って一度アルカナに帰るのもありじゃねぇか?』
「あー、魔気を上げるのに帰る必要あるよね。うわぁ……どうしよ。ボスに殺されてリポップさせるのもありじゃない?」
人参太郎:『死ぬなら抵抗してくれ』
「悪役みたいなこと言われても……」
帰るか死ぬかの2択に迫られていると、聞き覚えのある音がした。
「ブォーン」というラッパの音。
「あれ、なんで接敵してないのに?」
人参太郎:『死体放置しただろ』
さすがに十数匹倒しているから途中からレヴァナントの死体はその辺に廃棄した。それが見つかったようだ。
「結局このラッパってどういう意味か知らないんだよね」
音の意味を知るために音源のもとへ向かう。すると、またラッパの音がした。何度も吹かれることで緊急性を表しているのか。
「なんで何回も?」
音を出していたのは指揮官のレヴァナントだった。どうやら今回も存在してたらしい。見つけた瞬間に、指揮官はラッパを捨てて逃げ出した。向かう先はボスエリアだ。
「追いかけたらまたボス戦が始まるのかな?……ん?」
指揮官が落としたのはラッパだけじゃなかった。
「綺麗な石?」
拾ってみると、その石は普通の石ではなく、宝石のように綺麗だった。よく見ると、中に文字が書かれている不思議な青い石だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます