第2章 貿易都市ローレリア
第13話 冒険の始まり
1時間かけてハゼを合計80匹納品した。ミーティアは大喜び。冒険者ギルドもボクもホクホクでお互いに利益しかない取引ができた。
お金が一気に入った分で最新鋭の疑似餌とレベル5で必要になった高価な魔石を購入した。
ーーーーーー
【嘉六のステータス】
名前:嘉六
レベル:5(+1)
称号:【天空竜の祝福】
体力:30/30(+5)
魔気:5/5(+1)
筋力:10
速力:5
知力:2
能力値+5(+3)
お金:12380リン
+2万リン(ハゼ)
−5000リン(魔石)
−1万(最新鋭の疑似餌)
ーーーーーー
収支プラスだったからこそできた買い物には満足している。これでいざ新しい魚とのバトルに勤しめるわけだ。
「嘉六さん、今レベルいくつですか?」
キタキタ。このタイミングで話しかけられるということは新しい魚の情報をもらえるということ。心して聞く。
「レベル5になりました!」
「おめでとうございます!」
祝われるとなぜか照れくさい。
「嘉六さんには冒険者ギルドのランクアップに挑戦できるようになりました!」
続けてミーティアが言ったことには理解が追いつかなかった。
「え?あ、え?……ランク?」
「はい!あれ?」
「らんくってなに?」
ボクは冒険者ギルドのことを魚の納品場所ということしか知らない。冒険者ギルドにランクシステムがあったなんて知らなかった。
「え?あれ、説明しなかったっけ?」
「聞いたことないです」
「あれぇ?」
アホみたいな顔して焦るミーティア。後ろにいるリックも冷たい目で見ている。叱られそうな雰囲気を察してミーティアは振り向かずに謝罪から入った。
「すいません、説明してなかったみたいなので改めて……」
冒険者ランクというのは、ある一定のレベルごとに試験を受けることで上がる階級のこと。ランクが上がると依頼の量と質が上がり、それに伴う難易度と報酬が変わる。
今回はランク0からランク1に上がる試験で、特別な試験を用意してるとのこと。その試験の参加資格はレベル5であること、そして竜と悪魔のコインを所持してること。
コインを取り出してミーティアに見せる。
「このコイン?」
「それ!今いくつある?」
「えーっと2枚……かな?」
「十分ね。そのコインを船着き場のヒューズに渡せば、試験会場に送ってくれるわ」
「これを?」
「準備は鍛冶屋に行けば良いようにしてくれるから」
「わっかりました」
突然の知らせだった。だからといってあたふたすることはない。ずっと変化が欲しかった。釣りをして下処理をして売るだけのゲームは、やりたいゲームとは大きく違っていた。楽しくないかと言えば嘘になる。
釣りにハマりすぎて困るぐらい楽しんでいた。今ならクルシュの気持ちがよくわかる。自称アルカナ一の釣り好きを名乗りたくなる。
今から本当の冒険が始まるのかもしれない。冒険には準備が必要だ。まずは鍛冶屋に行って武器を揃えなくては。
こんな朝は開いてなくても今なら開いてそうだ。遠目から見ても鍛冶屋の看板はOPENになっている。
「いざ入ろうと思うと、店の外見も気になってくるな」
鍛冶屋も薬屋と同じで煙突がついている。看板にばかり目がいっていたけど、鍛冶屋も特徴的な形をしている。
火を扱うお店だからなのか、どの店よりも頑丈な造りをしている。扉以外は岩石を固めて造られていて、煙で壁が少し黒くなっている。年季の入った扉を開くと、中は落ち着いた雰囲気で壁には武器がいくつか飾られている。
飾り気のない木製のカウンターは平らで職人技が垣間見える。店の奥から時折金属がぶつかる音がする。人はいるみたいだ。鍛冶場仕事は危険を伴う。無闇に近づかずに待つことにした。
人参太郎:『嘉六はどんな武器使うんだ?』
別人格:『あ、それ気になってました』
「うーん、特に決めてないけど剣はだめだめだよ。別ゲーで使ってみたけどセンスなかった。まだ殴るほうがマシ」
人参太郎:『あのチート武器はどうするつもりだったんだ?』
別人格:『没収されたやつ』
「あー、あれのこと?高値で売れないかなって……」
使えないものを持ってても仕方ない。売った路銀で自分に合う武器を買うほうが幾分かマシだ。慣れない武器を持って戦場に行くのは馬鹿がやること。
人参太郎:『売るくらいなら没収されるほうがいいな。あれは最高だった』
別人格:『面白かったですよ』
「マジでふざけんなってなったよ。でも地下労働エンドとかじゃなくてよかった」
綿密な計画を練ったのに、イレギュラーな行動をしたせいで一瞬で誤算が発生したのは悲しい思い出。そのおかげで結果的には隠しルートに来れたから良いこと?なのかもしれない。
連れて行かれたあのシーンは演技でもなんでもないありのままの姿だった。いわば隠しルートからの辱めを受けたとも言える。
「お、話してる間に仕事が終わったみたい」
奥から金属音がしなくなった。今なら邪魔にならないはず。
「すいませーん」
遠くから「あ?」という少し恐そうな返事が聞こえた。待っていると奥から熊みたいな大男が現れた。茶髪の頭にゴーグルを被り、手には重そうな金属のハンマーを持っている。
顔のまわりに髭を生やした姿は紛れもなく熊だ。熊耳でもあればより熊っぽくなるのだが、彼は熊ではなく人間だ。
「なんだ?冷やかしか?」
彼はじろじろと見定めたあと、そう言った。
「あ、いえ、冒険者ギルドのミーティアさんにランク1の試験を受けるならここで準備するようにと」
「やっぱ冷やかしじゃねぇか!」
「ええっ!?」
「どうせあれだろ?お前もアジと物々交換に来た蒼汰とかいうあのガキと同じだろ?」
蒼汰の名前が挙がった。冒険者ギルドだけでなく、鍛冶屋でも名前を覚えられるほどのことをしたらしい。レベル5だからそれなりにお金は稼いでるはずなのに。どうして。
「い、いや、お金なら少しあります!」
「あ?いくらだ?いくらか言ってみろ!」
「1万リンです!」
「なんだよ、お客様じゃねぇかよ!いらっしゃいませぇ〜!」
急に態度が変わって声が柔らかくなった。
「1万でどんな武器買えますか?」
「あ?木の棒だよ」
「え?」
「木の棒」
「……冷やかし?」
「んなわけ」
鍛冶師の大男は店の奥に行くと、木の棒の武器を持ってきた。木の棒は和太鼓のバチをさらに長くした大きさをしていた。触ってみると意外に硬い。太さはちょうど握れる程度で長さはチート武器よりも少し短い。
「これは剣と同じサイズですか?」
「そうだな。標準的な剣の長さだな」
「うーん、ボク剣苦手」
「慣れだ、慣れ」
「これ半分に切ってもらうことできますか?」
「だはっ…はっはは……お前すげぇな!そんな注文してきたやつ初めてだぜ」
鍛冶師の大男は吹き出して笑った。
「長いからぁ…」
「いや、いいぜ。面白いからその注文受けてやるよ。その代わり加工料金はいただくな?」
「いくらですか?」
「全財産はいくらある?それで決めてやるよ」
「12000あります」
「買値と加工料金で12000だ。それでいいな?」
「はい!」
「ちょっと待ってろ。すぐに加工してやるから」
そう言って鍛冶師の大男は店の奥へと向かった。
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