第8話 魔気の効果

 無事に冒険者ギルドを脱出することに成功した。蒼汰も危うく説教モードに突入しそうだったが、釣ってきた魚の精算を行ったことで怒りが収まった。


「いやぁ、ミーティアさんは相変わらずおっかないなぁ」


 聞こえないことをいいことに蒼汰は思っていることを口にする。後ろから音がしてビクッと飛び跳ねた。蒼汰は振り向いて誰もいないことを確認すると安堵のため息を付いた。


 怖いなら言わないほうがいいのに。蒼汰はリスク管理が甘いようだ。


「それで……嘉六さんはそのさ、どれをやったの?」


 興味津々の蒼汰にやったことを説明すると、大爆笑だった。


「あははははっ!パルクールに釣りって僕と一緒じゃん!」

「釣りは俺と一緒だな」

「海水浴はしなかったんやな!」


 蒼汰とは一緒で、クルシュは釣り、剛鬼は海を泳いだらしい。全員共通していたことは、生還しなかったこと。そしてミーティアに説教されたこと。新人には碌なやつがいないらしい。


 ちょっとした共通点が生まれたことでいつの間にか蒼汰は砕けた喋り方になっていた。これくらいフラットなほうが気軽でいい。仲間意識が芽生えるのも悪くない。


「まぁでも、最初はみんなするよね。やってないのは七瀬くらいだよ」

「七瀬?」

「うん、1番目に来た人だよ。いつもフードを被ってて顔は見てないけど、悪い人じゃないから、会ったら挨拶するといいよ」

「あー、もしかして焚き火にいた……かも?」

「もしかして死ぬとき見られたの?」

「うん……ばっかじゃないのって言われた」

「あはははっ……ホント嘉六さんは話題が尽きないね」


 蒼汰のツボを突きまくりだ。さっきから笑いっぱなし。


 程よく4人で集まれる場所に移動した。それがさっきアジと死闘を繰り広げた焚き火だった。丸太の長椅子に座って焚き火を囲う。


 焚き火にたむろするのはオンラインゲームの醍醐味って感じがする。ここで時間を気にせず雑談をするのだ。なんだかんだ楽しい思い出が詰まっている。


「ここが嘉六さんが死んだところか」

「蒼汰はどこで死んだの?」

「桟橋だよ。心臓一突きだったね。今ではいい思い出」

「急所だと即死なの?」

「うーん、正確にはちょっと違ってて。一撃が深い場合は出血するんだ。それで出血死ってわけ。このゲームって持続ダメージ最強だから」

「なるほど、だから火に燃えて……」


 焚き火をよく見ると、魚の形をした灰があった。先に死んだのは結局どっちだったのか。ステータスを確認すると、レベルに変動はなかった。


「あ、そうだ。質問があるんだけどいい?」

「なんでも聞いて」

「能力値って最初はどれに振ったらいいかな?」

「こういうのは自分の勘でやるのが一番だよ。でも聞かれたなら答えるけど、僕は猪突猛進なところがあるから、筋力と速力に4ずつ、知力に2振ったよ」


 クルシュと剛鬼も答えてくれた。クルシュは釣りしか頭になかった構成だった。考えるより先に身体を動かしたい一心で筋力3速力6知力1にしたそうだ。おかげでわずかな食いつきにも反応できるようになったとか。


 剛鬼は考えることが苦手だから知力を高めに設定したそうだ。筋力2速力3知力5という見た目に似つかない割り振りをしていた。


「嘉六さんは釣りのこと考えてる?それとも戦闘面?」

「ボクは戦闘かな」

「なら、今までのゲームを参考に割り振るといいよ。根幹システムは一緒なわけだしさ」

「そっか!そうだよね。だったら……」


 蒼汰の助言を下に筋力3速力5知力2に設定した。回避行動を得意としていることから、速力を一番高くしてその次に筋力、最後に知力を割り振った。どれも重要だからこそ、今考えられる最善を導き出した。


「嘉六さんはそうしたんだ。ふーん、どういうゲームから出したのか気になるところだけど、嘉六さんは初日みたいだし、積もる話はまた今度で!」


 喋りたい欲求を抑えて蒼汰はなにもない空間から紫色の水晶を取り出した。


「これが魔石だよ。これを吸収することで魔気が使えるようになるってわけ」

「これが魔石……!」


 手渡しされた魔石を太陽の光に当てて眺める。光を取り込んで魅惑の反射をする石に感動さえ覚える。


「で、これをどうやって吸収するの?」

「食べる」

「へ?」


 驚くことにクルシュも剛鬼も頷いている。やり方に間違いはない。


「い、いただきます!」


 3人がそばで見守るなか、魔石を口の中に放り込む。おばあちゃんに変なものを食べちゃいけませんと習ってきたボクには少し抵抗がある。紫色の氷と言われてもその輝きが食べ物ではないと拒否反応が出る。


 舌の感触では本当に氷みたいでコロコロと転がしているといつの間にか飴玉のように溶けてなくなっていた。


「なくなっちゃった」

「味がしない氷みたいでしょー、僕も最初は変な感じしたんだよね」

「これで魔気が……ある!」


 蒼汰の言った通り、ステータスに魔気が出現していた。


 ーーーーーー

【嘉六のステータス】

 名前:嘉六

 レベル:1

 称号:【天空竜の祝福】

 体力:10/10

 魔気:1/1

 筋力:3

 速力:5

 知力:2

 能力値+0

 ーーーーーー


 体力と同じで分母がある表示になっていた。項目が増えるだけで疑問がたくさん生まれる。それに全部答えてくれるとは思わないが、聞いて損がないから遠慮はしない。


「この魔気ってどれくらいで回復するものなの?」

「体感30秒だよ」

「ぜ、全回復?」

「ううん、1回復するのに」


 攻守の両方を補うことのできるエネルギーとの説明だった割に回復までの時間が長い。切れた瞬間、即死するんじゃないかと考えていると、クルシュがわかりやすく教えてくれた。


「魔気で生成したものに持続時間ってのは存在しないんだ。壊れるか自主的に消す以外で消滅しない」


 蒼汰は手に青い魔気を纏わせてた。しばらくしても魔気は消えることなく、その場にあり続けた。クルシュも魔気を纏わせるとお互いに腕を引いてぶつけた。すると、魔気は同時に消えた。


「この魔気っていうのは足し引きのじゃんけんなんだ。僕が2、クルシュが1でぶつけると……」


 クルシュは先程と同じ1の魔気を纏わせて殴りかかる。対して蒼汰は2の魔気でぶつける。すると、クルシュの魔気だけ吹き飛ばされ、蒼汰の魔気だけ残った。


「こうなるんだ。で、この残ってる魔気は1になる。防御もぶつかり合うと同じ現象が起きるんだ。これで魔気の使い方はわかったかな?あとは工夫してみるといいよ」

「めっちゃ勉強になったよ……」

「これさえわかればあとは実践あるのみ。がんばってね」

「ありがとー!助かる!」


 おかげで疑問は全部解けた。いつまでも拘束するのは悪いと解散した。


「またなにか質問があったら次会ったときに尋ねるよ」

「うん、いつでも聞いて。ではでは〜」

「俺にも相談してくれ。またな」

「ワイも!」


 3人はまた釣りに行くそうだ。本当に釣り好きだ。


「ごめんね、相談したのにさらっと決めちゃって」


 放置していた視聴者に話しかけると、寂しそうにしてる様子はなく、視聴者同士で討論していた。


 雲行き綾憂:『攻撃防御だけならず、足場にもできるんですかね?お気になさらず〜』

 人参太郎:『魔気の使い道がありすぎるな。こりゃあ研究が捗るな』

 雪城:『気にしてません。ですがもっとかまってもいいんですよ』

 別人格:『パルクールにも使えそう』


 冒険者ギルドのパルクールに使えないことを別人格が残念そうにしている。こっそりやってみたい気持ちがある。ミーティアに直接怒られるのがボクだけだからやらない。


「魔気か……使うのに慣れたらアジにリベンジするよ」


 アジへのリベンジを誓い、魔気を使うイメージトレーニングを始めた。

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