第5話 冒険者ギルド
冒険者ギルドはアルカナで一番大きな建物で、看板には剣と盾の絵が描かれていた。建物に入ると、正面に受付がひとつ、左に依頼掲示板があり、右に宿屋の看板があった。
「こんにちは」
受付には小柄な女性が一人と、眼鏡を掛けた青年がひとりいた。
「あ!新人さんですか?」
「あ、はい。そうです」
「やった!新人さんだって!リック」
リックと呼ばれた青年は嬉しそうに笑う女性とは違い、冷たい目をしている。
「何度も言ってますが、ここに来る人はなにかしらの問題を抱えた人しか来ないんですよ。はしゃがないでください」
「ええー、もう!仲間が増えたって正直に喜べないかな?」
一方的に詰められることはなく、彼女は反抗する。
「ごめんね〜、彼も悪い人じゃないんだよ。あ、自己紹介が遅れてたね。私はミーティア。このギルドの受付を担当してるの〜」
ミーティアはこのギルドがなんたるかを説明してくれた。ギルドの役割は住人、あるいは商人や国からの依頼を受け、必要な魔物の素材の討伐や採取する冒険者を手配する派遣会社の役割を担っている。
冒険者に仕事の仲介をする代わりにその手数料を受け取り、圧倒的な人脈で必ず利益をもたらすことを生業としている。
そして冒険者が成長するための手伝いをしてくれる。まさに至れり尽くせりである。
「ギルドに関してはこんなところかな。それでこのギルドに入る方法だけど、あるものを手に入れて欲しいの」
「あるもの……?」
「そう!このアルカナにしかないもの。それを手に入れたってことはなにかしらの貢献もしくはここで好感が持たれたっていう証明になるの!」
「つまりどういう……?」
「……人柄の調査だ」
沈黙を貫いていたリックが答えをくれた。振り向いて微笑むミーティアにリックは嫌そうな顔をした。
「ふふん、リックはこうみえて優しいところもあるんだ」
「黙れ」
「ふふ、人柄がいいってことはたとえ秘密を抱えていたとしても、敵対してなければ、見返りをくれるでしょ?私達はね、遊びでやってないのよ」
ミーティアはおっとりしているように見えて、実のところしっかりしている。人と接する仕事をするだけある。
「えーっと、もしかしてこれですか?」
ここに来て、ここにしかないものと言えば、酒場でもらったコインだ。
「え、もってるの?」
ミーティアは驚いた表情でコインを確認した。
「ふふっ、ただの新人じゃない、期待の新人ってところね!ところで誰にもらったの?」
「酒場のアイゼンさんです」
「アイゼンね。彼、いい人に弱いのよね」
肘をついて物思いにふけるミーティアに、メガネをくいっと直してため息をつくリック。悩みのタネなのか。
「ま、通過儀礼は問題ないみたいだし、おめでとう!ようこそ、冒険者ギルドへ」
「わーい」
冒険者ギルドに入ったことで身分証として首飾りのタグをもらった。これには討伐した魔物の魔力を記録する機能がある。他にも遠くの人との通信する機能もある。
「へぇ、便利なんですね」
「そうね。ギルドに入って一番の特典とも言われているわ。あとそれにはステータスを見る機能もあるのよ」
「そうなんですね」
早速メニューからステータスを見てみた。すると、ステータスにはレベルと能力値が割り振られていた。ステータスはシンプルなもので、名前と種族と体力、筋力、速力、知力の4つの能力しかなかった。複雑さはないからこそのわかりやすさがある。
ーーーーーー
【嘉六のステータス】
名前:嘉六
レベル:1
称号:【天空竜の祝福】
体力:10/10
筋力:0
速力:0
知力:0
能力値+10
ーーーーーー
ステータスをみているとミーティアが話しかけてきた。
「わかってるから言うと思うけど、あなたレベル1よね?」
「あ、はい」
「能力値については『冒険者の基礎』の本に書いてあるから、しっかり読んでから割り振りなさいよ」
親切に本がある場所を教えてくれた。
『冒険者の基礎』には能力値についてと特殊な能力値について書かれていた。まず体力は人としての丈夫さを意味する。ゼロになると死ぬ。この世界の住民は竜の加護を得ているため、寿命以外で死ぬことはない。それはNPCもしかり。犯罪はすぐに足がつく。という脅しがあった。
次に筋力については、人の構造を強化するものと記されていた。筋力が高ければ、肉体が強くなる。数値が高ければ見た目もそれ相応に変化する。つまり小太りの剛鬼は筋力が低い。
速力は反応速度と察するまでの感覚の鋭さが変わる。魔物の接近に気づくことができれば、行動も早く移すことができる。たとえ奇襲を受けても避けるだけの反応速度があれば、状況の悪化を防ぐことができる。
知力は頭の回転速度を意味するものだ。思考する時間は平等ではない。知力が高いものほど、結論を早く出すことができる。真意はおそらく時間の流れを遅くできるという意味だ。
戦いにおける知力の重要性に続き、別の利点もある。人の記憶には限界があり、蔵書にも限度が存在する。拡張するには知力は大切とあった。コンテンツ強化を図ることができる。そしてある一定のラインを超えると、ゾーンと呼ばれる神秘の力を解放できるかもしれないという余談があった。
「うわっ……どれも重要そう」
読めば読むほど能力値を振り分けるのに悩む。ページをめくり、次の内容を確認する。特殊な能力値は『気遣いのできる秘訣』で見たものばかりだった。
「本を読み終えてわかったことだけど、どうかな?これってわかる?」
悩みは視聴者に相談する。理由はいたって単純。わからないものをいくら考えたってわからないから。
人参太郎:『俺だったら、全部2で残りは保留かな』
雲行き綾憂:『様子見で1ずつ振って死んでから考える』
雪城:『さっきの3人に聞いてみるのはどう?』
常連の3人はすぐに返事をくれた。
「うーん、全部に均等がいいのか。でも、雪城さんの言う通り、3人に聞くのはありだね」
頼もしい答えに頬がゆるむ。一度振ったらリセットはできないかもしれない。やり直しが効くかはわからない。そんな状況で気軽に振るのは愚策。ひとまず受付の人に保留することを伝える。
「ずいぶん慎重ね。それくらいがいいかも。一応言っておくと振り終えるまでは依頼を受けることはできないから、そのつもりでね」
自殺志願者を進んで冒険に行かせるのは組織として終わっている。冒険者ギルドがちゃんとしている組織だということがわかった。
「あと最初の依頼は魚釣りだから」
「え?釣りですか?」
「ええ。ここは港町だから、常設で魚の買い取りをやってるのよ」
「そうなんですね。だから釣りに」
「あら、彼らと会ったの?」
「はい、ここを紹介してもらいました」
「そうなのね!だったら、この釣り竿を贈呈するわ」
渡されたのは木の棒に糸と疑似餌がついた簡単な仕掛けの釣り竿だ。聞くに彼らが初心者のために用意してくれたものらしい。あとで会ったらお礼を言っておこう。
ミーティアが彼らが帰って来る時間を通信で聞いてくれた。すると1時間後くらいには帰ってくるそうだ。
「そうなんですね。じゃあボクは辺りを散策しています」
「ええ、いってらっしゃい。釣りは能力値を上げてからだからね〜」
「わかってますよ〜」
冒険者ギルドを出たあと、ボクは忠告も聞かずに釣りに行った。
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