第八話 暴風雨
時は少しさかのぼり、千草と夕が羅刹のもとへたどり着く数刻前。羅城門の前ではまだ激しい攻防が繰り広げられていた。
「ふぅ、二人は順調に羅刹のもとへ向かっておるようじゃの。」
千代婆が千里眼で二人を見守りながらこちらの戦況も確認している。
“羅刹陣営の主な戦力は朱鬼と蒼鬼。残りは雑兵共じゃ。対するわしらの陣営は風鬼と雨鬼。そしてこのわしじゃな。“
“次々にやってくるこの雑兵共の相手でわしは手が離せぬが、どうやらあやつらは両者互角と言ったところかのぉ。体格差に押されて風鬼と雨鬼が徐々に劣勢になっておるようじゃが、まぁ心配は要らんじゃろう。“
朱鬼と蒼鬼の重たい一撃を金棒で受け止め、風鬼と雨鬼は同時に後方へと押し飛ばされる。
朱「どうした!急に距離を取りおって!やはり体格差には勝てぬか!」
蒼「劣等種はおうちに帰っておネンネしてなってなぁ!ケケケ!」
風「そうだな。体格差ではお前達に勝てぬだろう。だが、我ら一本角族の強さは純粋な力だけではない!…刮目せよ!」
風鬼が天に向け手を掲げる。
雨「へっ!ようやくか兄貴!待ちくたびれたぜ!」
雨鬼も呼応して天に向け手を掲げる。
すると、上空には暗雲が立ちこめ、たちまち暴風雨が羅生門一帯を襲う。風鬼と雨鬼は武器を金棒から背中に担いでいた薙刀に持ち変えた。
生前、温羅が薙刀を使っていたこともあり、一本角族は代々薙刀を使うことを得意としている。
「ゆくぞ弟!」「おうよ兄貴!」
「烈風刃!!!」「流水刃!!!」
まさに渾身の一刀。二人が力を込めて薙刀を振るうと、風の刃と水の刃がそれぞれ朱鬼と蒼鬼へ飛んでいく。
暴風雨の中、二つの刃は周囲の雨や風を取り込み、急激に巨大化していった。
それを受け止めた朱鬼と蒼鬼の金棒は耐えきれず真っ二つになっていた。当然、朱鬼と蒼鬼自身も大きな傷を負い、苦しみの声を上げその場に倒れ伏した。
しかし、風鬼と雨鬼もその場に座り込む。
風「千代殿!申し訳ないがあれを頼む!」
雨「ハハ…しんどいぜ…」
「全く世話のやける鬼どもじゃ、こっちはもうあらかた片付いたわい。」
そう言いながら駆けつけた千代婆は片手で念動力を発動させ雑兵を捻り潰し、もう一方の手で風鬼と雨鬼に治癒の術をかける。
その時だった。島の中心部の桃の巨木付近で眩い閃光が走る。
少し間をあけて轟音が鳴り響いた。
雷である。
その瞬間、その場にいた皆が、その落雷の方向から尋常ならざる気配を感じ取っていた。
「千草と夕に何かあったようじゃ。風鬼、雨鬼、動けるかい。」
「ああ。」「いけるぜ。」
三人は雨の降る中、急いで桃の巨木をめざした。
倒れ伏していた朱鬼と蒼鬼も、この尋常ならざる気配に何かを感じ、動かぬ身体を何とか互いに支え合い、三人の後を追う形で桃の巨木へと歩みを進めるのだった。
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