第七話 悪鬼羅刹
石畳の階段の両側には石でできた燈籠が並んでおり、神々しささえも感じられる。階段を登り終えると遠くに赤い門が見えた。門の名は羅城門といった。
後の時代、大和国で同じ名の門が建立されることになるが、それはこの島の門の名が由来だとかそうでないとか。
この羅城門を抜けなければ島の中央区画へは入れない。夕達は一直線に門を目指した。集まってきた二本角達を突破して羅城門に差し掛かった時、朱鬼と蒼鬼という二本角の鬼が群れを連れて現れた。
朱鬼が口を開いた。
朱「ここは通さぬぞ。」
続いて蒼鬼も声を荒げる。
蒼「ケケケ!お前らはここで全員死ぬからなァ!!」
朱「おい蒼鬼、全員殺してはならん。」
蒼「あ!いっけね!そうだったそうだった!女とババアは生け捕りだったなァ!」
風鬼と雨鬼より一回りはでかい。一筋縄では行かなそうだ。
蒼「オラ死ねぇ!」
蒼鬼が金棒を振りかぶり雨鬼に襲いかかった。
金棒同士がぶつかり合い火花が散る。
雨「ははっ!重てぇな!!…兄貴!こいつは俺が相手するぜ!」
風「そうか弟!ならば俺はこっちだな!フン!」
風鬼も負けじと金棒を振りかぶる。
重く鈍い金属音が再び鳴る。
今度は朱鬼が受け止めた。
朱「なかなかやるようだな。だが貴様ら一本角は所詮劣等種。この体格差が見てわからんわけではなかろう。」
風「やれやれ、世の中そんなに単純じゃないってことを脳筋共に教える必要があるようだな!」
金棒同士を激しく打ち合う轟音が二箇所で鳴り響く。
「おやおや若者はげんきじゃのぉ。ならばわしが雑兵共の相手をしようかの。」
そう言って千代婆は千草と夕に目で合図を送り、早く行けと言わんばかりに手をひらひらと振る。
二人は千代婆の言わんとすることをすぐさま理解し、走り出した。
「あ!オイ!待ちやがれクソがァ!」
二人の後を追おうとした蒼鬼に、雨鬼がすかさず金棒を叩き込む。
雨「おっと!お前の相手は俺だって言ったよなぁ!」
蒼鬼もすぐさま反応して受け止める。
蒼「チッ、こいつめんどくせぇ!」
一方の朱鬼と風鬼も互角の戦いを繰り広げる。
朱「まぁいいだろう。どうせあやつらではお頭には敵うまい。」
風「フッ、ならばお前たちを今すぐ倒して追わねば心配だな!」
そうして羅生門一帯は、乱戦となるのだった。
千草と夕は何とか羅城門を抜けていた。
「千草!羅刹の居場所は分かるか?」
「うん!今やってる!」
千草は走りながら千里眼で羅刹の居場所を探った。
「みつけた!」
羅刹の居場所はすぐにわかった。
しかし次の瞬間、千草の背筋が凍る。
千里眼で捉えた羅刹の視線もまた、こちらを捉えてニヤリと笑っていたのである。
「み、みられてる。」
「…そうか、あいつも神通力を使えると考えた方が良さそうだな。」
「でも場所はわかった!」
「よし、急ごう千草!」
二人は羅刹の元へと走った。道中幾度も二本角族の鬼に襲われたが、修行の成果もあってか何とか二人で切り抜けることが出来た。
“逞しくなったなぁ、最初にあった時はやせ細ってて怪我だらけで、あんなに弱そうだったのに。“
今、千草が見つめる背中は、出会った頃の弱々しさは微塵も感じられない、頼りがいのあるものだった。
もう間もなくだ。羅刹のいる島の中心部へ近づくにつれて、冷や汗の出るほど禍々しい気配がどんどん濃くなってくる。
「安心しろ千草。俺が絶対に守る。」
「いいえ、夕、二人で闘うのよ。」
にっ、と笑ってみせる千草。それにつられて夕の口の端も少し緩む。
「あぁ、そうだな。頑張ろう。二人で。」
二人は覚悟を決めて決戦の地へと足を踏み入れた。そこには桃の巨木がそびえ立っていた。燃やされてもなおその神々しさは健在だ。
そして、その手前に人間の女を何人も侍らせている黒い鬼に目が移る。
羅刹である。
その巨躯は夕の三倍はあるだろうか。圧倒的暴力の権化。千草と夕は身震いした。
突如、上空に暗雲がたちこめる。
夕立ちだろうか、ぽつぽつと雨も降ってきた。まるでこの先の戦いの行く末を暗示しているかのような空模様だった。
羅刹が、侍らせていた女どもに下がれと命じて話し始めた。
「よく来たな。…ほう。片角の小僧に、神通力使いの娘か。のこのこ喰われに来るとは手間が省けたぞ。親が馬鹿なら子は大馬鹿ときたもんだ。カッカッカッ!娘、お前の両親は霊力が高くて格別に美味かったぞ!」
ニタニタと嘲笑している。
「………なさい。」
「ん?なんだその反抗的な目は。」
「黙りなさい!!!!」
千草が両手を前方にかざすと、辺りに落ちていた無数の瓦礫が雨粒とともに羅刹に向かって飛んでいく。
────ピタリ。
羅刹の目の前で全ての瓦礫が、飛んできた雨粒と共に動きを止めてしまった。羅刹は、千草と同様に右手を前方にかざしていた。
「残念だったなぁ小娘。お前の両親を喰らってからというもの、その力は我にも使えるのだ。」
すかさず夕が懐に飛び込み金棒を叩き込む。しかし羅刹はその巨体からは考えられない速度で反応し、ひらりと躱す。夕は逆に背後を取られてしまった。
一閃。羅刹の放った拳が夕に直撃する。腕で頭部は守れたものの、軽い脳震盪が起きているようでフラフラしている。
“強い。強すぎる。だが、身体はまだ動く。“
すぐさま体勢を整え追撃する。しかし、再び返り討ち。夕は何度殴られようとも果敢に飛びかかる。千草の神通力が相殺されてしまう以上、そうせざるを得なかったのだ。
しかし、羅刹は本当に強かった。生まれてこのかた、喧嘩から殺し合いまで一度も負けたことがなかった。
荒くれ者の多い二本角族を武力だけでまとめあげた彼の実力は半端なものではなかった。
「もういい。貴様は期待はずれだ。」
ふらついている夕に羅刹の放った鋭い蹴りが直撃する。
重く鈍い音が鳴ると共に、建築物の壁もろとも吹き飛ばし、桃の巨木へと叩きつけられる。
「興が冷めた。お前からさっさと喰らおう。」
羅刹は動けずにいる千草に歩み寄り、手をかけようとした。
しかし千草は羅刹を睨み返す。千草は動けずにいた訳では無かった。動かずに力を溜めていたのだ。
“夕は私がたすける!どうか力を貸して!お父さんお母さん!“
千草は強く祈った。
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