第六話 鬼ヶ島
翌朝、二人は太郎を一本角族の長老に預けることにした。死地へ愛する我が子を連れていくことは出来ない。これが最後の別れになるかもしれないのだ。
千草は籠の中ですやすやと寝ている太郎に、母から貰った桃の首飾りをかけてぎゅっと抱き締めた。
「…太郎は人の子として育てて欲しい。」
夕が長老に言った。
「任せておけ、一本角族は
長老がそう言うと、夕は深く頭を下げた。
「ほれ、これを持っていけ。」
長老はそういって夕に大きな薙刀を渡した。
「温羅様が使っていたと言われておる薙刀じゃ。」
受け取った薙刀はずしりと重く、その重さに改めて気が引き締まるのだった。
「ありがとう。」
夕は長老に再び感謝した。
そうして準備を整え、千草と夕、千代婆は一本角族を連れて桃源郷、いや、鬼ヶ島を目指して海へ出るのだった。
一行は一本角族が用意していた舟で、鬼ヶ島の南側近海へ来ていた。そこは入江がゴツゴツとした岩で入り組んでおり、潜入するにはうってつけの場所だった。
千代婆の合図で夕が旗を掲げる。これは後続の舟への合図だ。ここから先は千代婆と千草が神通力で隠形の術を使うので、できるだけ密集するようにという、船出の前に決めていた合図だった。
そしてついに、密集陣形で何艘もの舟が鬼ヶ島へ上陸した。隠形の術はある程度の目くらましにはなるが、気配を完全に消すことは出来ない。
故にここからは隠形の術を解いて一気に中心部へ攻め上がる手筈だ。
しかし二本角の鬼達も島の南側はしっかりと警戒していた。林の中に櫓をこしらえ、見張り番の鬼達は一行が上陸するのを捉えていた。
「一本角の連中がお出ましとは驚いた、しかも神通力持ちが二人もいやがるぜ。おい、急いでお頭に報告しろ。」
見張りの鬼が奴隷の人間を遣いに走らせる。
羅刹達は連れてきた人間を繁殖させ、食料兼労働力にしているのだ。
「お頭様!南方より一本角の鬼達が奇襲をかけてきたとの事です!その中に神通力使いなる者も二人ほどいる模様です!」
見張りに遣わされた人間が大急ぎで島の中央へ鎮座する羅刹のもとへやってきた。
知らせを聞いた羅刹はすぐに戦力を送り込む。
「
朱「御意。」
蒼「あいよー。」
千草と夕達はというと、見張りの鬼達と交戦中だった。周りからもわらわらと二本角族の鬼達が集まってきている。
「ここは俺達に任せろ!先に行け!」
一本角族の鬼達は率先して足止めを買って出てくれた。
「恩に着る!」
夕はそう返して、千草、千代婆と先を急いだ。
雨「俺達も行くぜ!なぁ兄貴!」
風「おうよ弟!この先に強者の気配を感じるからな!」
後方から風鬼と雨鬼の声がする。
“ついてきてくれるのか。心強い。“
一行は急いで石畳の階段を駆け上がるのだった。
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