34.休暇二日目(イーサン)
今さらではあるが、いや、今になってやっと、なのだろうか。
妻が可愛い、とイーサンは思う。
少し前にイーサンの妻となったリンは、女ながらルーナ国の第二騎士団長を務めており、普段はとにかく男らしい妻だ。
何なら、漢らしい。
妖艶な様子や可憐な仕草は皆無で、物腰はきびきびとしていて柔らかさもない。
舞踏会でドレスを纏った際は美しかったが、立ち姿はやたらと凛々しく、気高く誇り高く、可愛さはなかった。その時の甘い笑顔は、そそるものがあったので、妖艶さは少しあったかもしれない。
そんな妻が可愛い。
片鱗はあったと思う。
王都の外れの小屋の点検に行った時、雨に降られた後に頭を振って髪の毛の雫を払う様は子犬のようで可愛いかった。
抱きしめたくなるくらい可愛かった。
だから片鱗はあったのだ。
しかし、ここまで可愛くなるとは聞いていない。
新居へとやって来たのは、3日間の休暇の前日の夜だった。
既に住み込みで働いてくれているメイドのベラが遅い時間にも関わらず迎えてくれて、簡単な荷ほどきをして夕食を摂り、主寝室に落ち着く。
求婚を受けてもらってからは、何かとバタバタしていたのでこうして2人きりで過ごすのは、あの結ばれた夜以来だ。
結婚を強引に進めてしまった自覚はあるので、何か言葉をかけなくては、と考えているとそこでリンがぎゅうっと抱きついてきた。
「今日からいっぱしの夫婦だな、よろしくな、イーサン」
雄々しい妻が抱きつきながらそう言って、嬉しそうにぐりぐりとイーサンの胸元に顔を擦り付けてくる。
え?
なんだこれ?
突然の事に固まっていると、見上げられて「頭を撫でてくれ」とせがまれた。
え?
なんだこれ?
びっくりしながらも、撫でてやると、リンは、えへへ、と嬉しそうに笑う。
「プライベートでは、甘えるタイプなのか?」
思わず聞くと、
「嫌か?嫌なら控える」
と返ってきた。
「控えなくていい」
即答するとリンは満足そうに、イーサンに引っ付いてきた。
甘えるタイプらしい。甘え方は女というより子供のようだが。
可愛い。
その後、荷物の中から部屋着を探しだして交代で風呂に入った。
リンは風呂上がりには、イーサンの髪の毛を拭きたがり、好きにさせるとご満悦だ。
自分の髪は「これで乾く」と言って以前のようにふるふると頭を振った。
思わず抱きしめて、そこからは存分に可愛がることになる。
翌朝は翌朝で、リンの方からイーサンに引っ付いてくるので、ベッドから出たのは昼過ぎになっしまった。
まあいいか、せっかくだしこの3日はだらだら過ごそう、とイーサンは決める。
せっかくのやたら可愛い妻なのだ。しっかり堪能しよう。
昼過ぎに起きたせいで、夕方の変な時間に昼食を食べてしまい、夜になっても腹が減らなかったので、その晩は部屋で簡単な夜食を用意してもらった。
リンは当然のようにイーサンの足の間に自らの体を入れて座る。
ソファに深く座ることになり、テーブルの遠くなったイーサンの為に、時々オリーブやらチーズやらを口に運んでくれた。
そして運ぶ度にキスをせがんでくる。
本人はいたって自然体で、これは素のようだ。
可愛い。
啄むようなキスをすると、オリーブの酢漬けを口に入れられた後だったので「しょっぱいな」と顔をしかめている。
なんだこれ、可愛い。
ワインを口移しで飲ませると、「相変わらず、エロいなあ」と言われた。
「お前が煽るからだろう?」
抱きしめてキスを深くし、そこからは大体昨夜と同じだ。
そうして迎えた休暇二日目の朝、イーサンは今朝もだらだら甘く過ごそうと思っていたし、今朝の妻もやたらと可愛かったので、かなりその気になったのだが、妻には拒否されてしまった。
残念だ。
でも、朝食を美味そうに食べている妻もやたらと可愛い。
これはこれでいいか、と思うイーサンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます