16.剣術大会

「剣術大会」

リンは総帥の言葉を繰り返す。

合同訓練よりずっとスケールが大きくなった。


「こちらの王都には大きな屋外闘技場もありますしね」

目に見えてウキウキしてくるルミナス総帥。


「殿下のゴーサインが出たので、昨日は徹夜で日程や参加人数、試合形式にトーナメントの組み合わせなんかを考えました。見た目通り、そういうの得意なんですよ。

ワクワクしますね。強い方同士はシード枠で調製して、最後の方にあたるようにしましょうね。

昨晩は脳内で勝手に対戦させて大興奮でした。

元々、戦争が終わった事を祝い、新しい国の体制を受け入れてもらう為のイベントはそろそろすべきだったんですよ。

貴族向けには、3ヶ月後に城で大規模な舞踏会を開くのですが、民衆も楽しめるようなものもしたいな、となっていたのでもってこいでした。観客席は貴族席と一般席を設けて、料金は分けます。

いやあ、楽しみですね。私は少年時代は、とにかく騎士に憧れていましてね、そんな憧れの騎士達の剣と剣のぶつかり合い、何度も言いますがワクワクしますねえ」


今やうっとりしているルミナス総帥。

元々寡黙な人ではないが、めっちゃ喋る。


憧れの騎士達って、あんたも騎士だよ。そしてくどいが、この国の騎士団のトップだぞ。

そこをどう突っ込んだらいいのか、全然分からないリンだ。


そして、剣術大会?

ライアン殿下の了承も得ているようだし、本当にするのだろう、先程からの情報量が多い。


リンは頭の中で情報を整理した。

まず、自分は3ヶ月の減給で、謹慎はなし。

リンが第三団の騎士達と派手にやり合った事で得た不思議な尊敬により、総帥は剣術大会を思い付いた。

思い付いてすぐに総帥はライアン王子に進言。

貴族や民衆の心を掴むイベントを模索していた王子からは、あっという間にゴーサインが出た。

2ヶ月後の大会の開催が決定。

屋外闘技場は、大昔、剣闘士奴隷が合法だった頃の産物で、開戦事にはそこで大規模な見送り式も行われた。観客の収用人数がかなり多い会場だ。

つまり、総帥も王子も大規模な剣術大会を考えているのだろう。


よし!

何とか話に追い付いた。

とりあえず、戻ったら第二団から誰を出すか考えておこうと思うリンだ。


「さて、ネザーランド団長にはもちろん参加していただきたいんです。あなたの剣なしの大会なんて興ざめもいい所でしょう。という訳で、謹慎なんてとんでもないです」


「えっ、私、参加なんですか?」

まさか自分も出るとは思っていなかったので、リンはびっくりする。


御前試合ならともかく、こういうトーナメント式の大会は若手の腕試しの場なので、完全に裏方気分だったのだ。


「当たり前です、何なら命じます」

総帥の目が据わっている。ちょっとキャラが変わってきたルミナス総帥。


「えーと、自分で言うのも何ですが、私が参加したら面白くないですよ、勝つので」

慢心をするつもりはないが、今のルーナの騎士の中で自分に勝てる者はいないと思う。


「今回は人材発掘や育成の大会じゃないんです。娯楽の為のイベントなんですよ、強い方が出ないと盛り上がりません。団長達は精鋭揃いなので、強制的に参加してもらいます」

「なるほど」

「大丈夫です、ばっちり面白くなるように私が対戦を組みます。

ふふふ、サンズの騎士もなかなか手強いんですよ、なめないでいただきたい」

もはや、むふふな顔のルミナス総帥。


「確かにサンズの方とは手合わせはほとんどしてませんね」

「ええ、ルーナに来ている中では、ランカスター団長が一番でしょうが、他もまあまあ腕の立つのがいます」


リンは辺境伯の城で手合わせしたイーサンを思い出す。

イーサンは強かった。感覚的には何とか勝てそうに思うが、こればっかりはやってみないと分からない。

あの赤獅子と本気でやってみたい気もした。少し、体がうずうずする。


そして、第三団と第四団の団長達もタイプによっては面白いかもしれない。

リンの瞳がきらりと光る。


「ふむ……」

「楽しみでしょう?楽しみですよねえ。本日これから王子殿下、宰相殿と日程を詰めて、今週中には大会の概要を発表します。誰かとこのワクワクを共有したくてうっかり話してしまいました。発表までは内緒でお願いしますよ」

今や、むふふ眼鏡となった総帥は、そっと口元に人差し指を立てた。





***


リンが総帥に呼ばれた4日後、ライアン王子が剣術大会の開催を公表した。


2ヶ月後の開催で、今回参加できるのは国の王都に駐在する6つの騎士団の騎士に限る(今回の大会の様子によって次回があれば、参加対象を広げる事も考える)。


参加枠は200人で、6つの騎士団より1人ずつシード枠を出す。参加枠の200も6つの騎士団で均等になるように分ける。

賞金はベスト16から与えられ、優勝者には賞金とは別にサンズの王家の所有する名剣が授与される。


6つの騎士団には、二週間後までに参加者をまとめるように、とお達しがあった。


大会の発表と共に騎士団は色めき立つ。

もちろん、賞金も魅力だが、無名の若者達にとっては名を上げるチャンスだ。

リンは発表と同時に殺到した参加希望者を整理し、誰を出すのか頭を悩ます事になった。


そして通常の参加枠に悩みながら、シード枠についても考える。

総帥にああ言われたし、自分の参加は決定のようだったが、シード枠で、とは言われていない。

リンはせっかく参加するなら、シード枠ではなく通常枠で参加したかった、面白そうだから。


なので、「シード枠どうしようかな、せっかくだし、第二団だけで勝ち抜き戦やってもいいかなあ」なんて楽しもうとしていたのだが、それを団員達に相談すると、「誰が団長差し置いてシードで出られるんですか!新手の苛めですか!」と必死に止められた。

ルミナス総帥からも「シードで出てくれないと、魅せる対戦が組めません」と、まあまあの圧で凄まれたので、シード枠参加になった。残念だ。

どの団もシード枠は団長らしいし、仕方ないと諦めた。


さて、騎士達だが、観客入りの剣術大会なんて、もちろんどの騎士も気合いが入る。

皆、鍛練により真面目に打ち込むようになり、正当な理由なく喧嘩した者は出場資格を剥奪される為、ルーナもサンズも2ヶ月後に向けて無用なつっかかりをしなくなった。




「喧嘩がなくなったな、ファビウス」

剣術大会まであと1ヶ月を切ったある日。

リンは食堂で、従兄弟の近衛騎士団長の優男と昼食を摂っている。


「ああ、しかも最近、団員達の集中力が高い。前は御前試合ならあったけど、あれは参加者が限られてたし儀礼的な要素が強かったからな。こういう実力一本勝負は燃えるんだろうなあ」


「だろうなあ、って他人事だな、お前は燃えないのか?」

「昨日張り出された組み合わせ表じゃなあぁ、見ただろ?俺は頑張った所で、すぐに準々決勝でリンとあたるんだよ、頑張る意味なくないか?自慢じゃないが、俺はお前に勝てた事ないんだぞ、子供の頃から一度も」


“子供の頃から一度も”と言ったファビウスが珍しく遠い目だったので、リンはわざと意地悪く聞いた。

「手加減してやろうか?」

「うっわっ、絶対にすんな、馬鹿」

「はは、じゃあ本気でやろう」

リンが笑うとファビウスも「そうしてくれ」と笑う。


「まあ、せいぜい俺で肩慣らしでもしろよ。順当に行けば、決勝のお前の相手はランカスター団長だ」

「だろうなあ。あれ、絶対、わざとそうなるようにしてるよな」

総帥の嬉しそうな笑顔が目に浮かぶ。


「決勝がつまらないと盛り上がらないからな。サンズの貴族も観戦に来るらしいぞ。貴族席を広げるようだ」

「そうなのか?」

「ああ、結構大がかりな大会だから、盛り上がっている。最終日はサンズの第二王子も来るらしい」

「げっ、私、そこでイーサンと試合するのか?」

「お前が勝ち進めば」

「ファビウス、私は勝ち進むよ」

「だろうな……苦労するぞ」

「だろうなあ」


サンズの貴族に王族まで来るのかあ、さて、どうしようかな。

リンは少しぼんやりしながら残りの昼食を食べた。




***


そして、日々は流れる。

剣術大会の開催の発表により、諍いの減った騎士団だが、対戦表の張り出しにより、更なる変化があった。


初戦であたる騎士同士での、訓練外での自主的な練習試合が増えたのだ。


初戦の100試合はほとんどが、ルーナとサンズであたるように組まれていた。

互いによく知らない者同士なので、組み合わせによっては、相手を知り、本番に備えるための練習試合が増えた。


これにより、よく分からない絆を育む者達が出てきた。

剣術大会の開催直前になると、

「お前、なかなかやるな、本番ではよろしくな」

「ああ、お互い悔いの残らないようにしよう」

みたいな熱い握手が多々交わされるようになる。


大会前に早くも、剣と剣を付き合わせた事で分かりあっていく単純な騎士達。


すでに当初の目的は達しつつある中、そして盛り上がりも最高潮の中、リン達は締めくくりの剣術大会初日を迎えた。




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