消えた結婚
天川裕司
消えた結婚
タイトル:(仮)消えた結婚
▼登場人物
●稲井一人(いない かずと):男性。40歳。独身サラリーマン。かなり奥手。
●川上詩織(かわかみ しおり):女性。35歳。一人の同僚。抜群の美人。
●蹴手繁瑠亜(けてしげ るあ):女性。30代。一人の理想と欲望から生まれた生霊。
※「一人(かずと)」と「1人(ひとり)」は表記で区別してます。
数字で「ひとり」の時は「1人」、人物名の時は漢字で「一人(かずと)」としてます。
▼場所設定
●某IT企業:一人達が働いている。一般的なイメージでOKです。
●Transparent Happiness:お洒落なカクテルバー。一人と瑠亜の行きつけになる。
▼アイテム
●『Presence』:瑠亜が一人に勧める錠剤。心の栄養。これを飲むと恋愛に強くなる(特定の人だけに対して)。
●『Presence of Transparency』:飲んだ人を透明にするカクテル。でも透明だからこの世のあらゆる物体に触れる事も出来なくなる(人間にも飲食物にも)。瑠亜が一人に勧める。
NAは稲井一人でよろしくお願い致します。
イントロ〜
皆さんこんにちは。
ところで皆さんは、純粋な片想いをした事なんかありますか?
その人のそばに居られるだけで良い…
その人の気配を感じてるだけで幸せ…
もし純愛がこんな気持ちを芽生えさせるなら、
少し注意したほうが良い事もあるようです。
メインシナリオ〜
ト書き〈会社〉
一人「はぁ…良いなぁ、詩織さん。あんな人と、少しの間だけでも付き合う事ができたら…」
俺の名前は稲井一人。
今年40歳になる独身サラリーマン。
俺は今都内のIT企業で働いてるが、
生まれて初めて、心の底から恋をしていた。
(トイレやいろんな所で)
一人「はぁぁ〜詩織さん詩織さん!あの人と付き合えたら…!」
1人になれば、想うのはあの人の事だけ。
隣の部署で働いてる川上詩織さん。
本当に美人で可愛らしく、気立ても良くて気品もあって、
今まで見てきた女の中で最高の美女。もろタイプの人だった。
一人「はぁ…」
こんな歳になって初恋みたいに溜息ばかりつき、
出遅れた自分の人生を嘆く毎日。
周りの奴らはほとんど結婚してる。
俺だけだ。
俺は昔からどうしようもない奥手で、
女とまともに付き合った事など1度もなく、
この先の人生、本当に独身で貫く覚悟をしていた。
でもあの人が目の前に現れてから、
俺のその自信はぐらつき始めたのだ。
ト書き〈会社帰り〉
そしてその日の会社帰り。
一人「はぁ。今日はちょっと、どっか飲みに行こかな」
となり、俺はいつもの飲み屋街へ足を向けた。
すると、全く見慣れない新装のバーがあるのに気づいた。
一人「『Transparent Happiness』?ふぅん、なかなか良さそうな店だな。入ってみるか」
中はとても美しく綺麗で、
何か透明感のある壁やカウンターが心を惹いた。
そうしてカウンターで1人飲んでいた時…
瑠亜「こんばんは♪お1人ですか?よかったらご一緒しません?」
と1人の女性が声をかけてきた。
彼女の名前は、蹴手繁瑠亜さんと言った。
都内でメンタルコーチやヒーラーの仕事をしていたそうで、
その少し変わった名前もペンネームの感じで付けていたと言う。
しかも彼女が専門にしていたヒーラーの分野は恋愛で、
俺はそのとき恋に悩んでいたから、
何となく自分の悩みを彼女に打ち明けたくなった。
と言うのも、彼女には不思議なオーラが漂っていたからだ。
何となく「昔から一緒に居てくれた人…」
のような感覚が漂ってきて、一緒に居ると心が安らぎ、
自分の事を打ち明けたい衝動に駆られてしまう。
気づくと俺は、あの詩織さんの事を話していた。
瑠亜「へぇ?珍しいですね♪これまで長らくヒーラーのお仕事をしてきましたが、あなたのような純粋な方は初めてですよ」
一人「え?あは、そうですかwいやぁでも…ほんと、実際まいってるんです。こんな歳になってまだこんな事に悩んで、他のヤツはみんな結婚して立派に家庭を持って、僕とは全然違うんですから…」
瑠亜「稲井さん。他の人と比べちゃいけませんよ?他の人は他の人、自分は自分。この線引きをちゃんとしていなければ、本当に幸せがやってきた時でも、その幸せに気づく事は出来ないものです」
一人「え?」
瑠亜「あなたにとって最良の幸せがやってきても、つい他と比べて向こうが良く見えてしまったら、あなたはその幸せを自分から捨てる事になり兼ねません。『隣の芝は青く見える』とも言います」
一人「で、でも僕は本当にこれまでまともな恋愛した事がなくて、自分のこんな性格にほとほと嫌気が差してるんですよ!」
俺はそれから散々愚痴った。
酒が適当に回っていたせいか。
その時はいつもより口が流暢に動いた。
でも彼女はずっとその愚痴に付き合ってくれ、親身になって聴いてくれた。
そして…
瑠亜「すみません、失礼な事を言ってしまったようで。お詫びと言ってはなんですが、あなたのお力にならせて頂けませんか?その詩織さんという彼女との間柄、もっと上手く行くように私が取り計らって差し上げますよ?」
と真剣な眼差しで言ってきたのだ。
一人「え?」
そして彼女は手に持っていた
バッグから錠剤のような物を取り出し、
それを俺に差し出してこう言った。
瑠亜「これは『Presence』という精神を強くする為のお薬で、まぁ心の栄養剤のようなものと思って頂いて構いません。これを飲めばきっとあなたは恋愛に強くなり、特定の人に対してアプローチする力が漲ってくるでしょう」
いきなりそんな事を言って微笑んだ。
一人「は、はあ?」
瑠亜「稲井さん。信じる事が大事ですよ?何事も信じなければその夢は成就しません。今のあなたにとって失うものは何も無い筈です。でしたら、勇気を持って新たな一歩を踏み出す事が、今のあなたにとって大事な事ではないでしょうか?」
やはり彼女は不思議な人だ。
そんなこと普通に考えて、信じられる訳もないのに、
彼女に言われると信じてしまう。
俺はすっかりその気になって、彼女からその錠剤を受け取った。
ト書き〈数週間後〉
それから数週間後。
俺はすっかり変わっていた。
一人「ねぇ詩織さん♪今度ドライブ行ってさぁ、その帰りに三ツ星レストランでディナーでもどう?」
詩織「わあ素敵♪ええ、ぜひ♪」
一人「(やった…!やった!)」
俺はあれから詩織さんに何度もアプローチして、
ついにデートの約束まで漕ぎつけたのだ。
本当に信じられなかった。
確かにあの薬を飲んでから、
俺の心はこれまでのような奥手じゃなくなり、
特定の人…詩織さんに対してだけは
自分の気持ちを正直に伝える事ができていた。
そのせいか詩織さんもすっかり心を開いてくれて、
俺と一緒に居るのを本当に喜んでくれていた。
一人「こ、このまま行けば、もしかしたら…結婚…?♪」
これまでの人生で俺は最高に幸せになれ、
何が何でも彼女を手放したくない!
その気持ち1つで新しい未来へ向かって歩いていた。
ト書き〈婚約〉
そして…
一人「詩織、俺たち結婚しないか?俺、本当に君のこと愛してるんだ。出来たらこのままずっと一緒に居たいと思ってる」
詩織「…ええ、その言葉、待ってたわ♪喜んで」
付き合い始めてから僅か2ヶ月後、俺と詩織は婚約したのだ。
(バー)
そしてある日の帰り。
俺は又あのバーへ立ち寄った。
すると前と同じ席に座って飲んでいる瑠亜さんを見つけた。
瑠亜「あら?稲井さん♪」
一人「いやぁ〜またお会い出来るなんて♪」
それからまた少し話が弾んだ。
俺は彼女に心からお礼を言い、詩織と婚約した事を彼女に伝えた。
瑠亜「あ、そうなんですか?それはおめでとうございます♪」
一人「いやぁ〜ホントにどうも有難うございます!瑠亜さんがあの時僕にくれた心の栄養が僕に勇気を与えてくれて、こうして明るい未来を掴めたような気分です♪みんな瑠亜さんのお陰ですよ♪」
満面の笑みでそう言うと、瑠亜さんも
少し照れ笑いしながら一緒に喜んでくれていた。
でもこの時、彼女は少し気になる事を言ってきたのだ。
瑠亜「そうそう、前にお話しするのを忘れていたんですけど、あの錠剤『Presence』はひと瓶限りなんです。あの薬は少し依存性の強いところがありまして、長く使用するには少し危険な所がありますので。でもここまでくれば、もう稲井さんもご自分の手で幸せを掴み、詩織さんと一緒に末永く幸せにやっていけますよね?」
一人「え?あ、あは、いやぁ、まぁそうですね♪」
とは言ったものの、少し心に引っかかった。
実は少し今後も、あの薬に頼ろうとしていた正直な心があったのだ。
彼女に言われて今瓶を見れば、あと3粒しか錠剤が無い。
1日に一定だけ飲んでいたからあと3日。
そのあとは自力で精神を強め、詩織の心をちゃんと自分で掴み、
明るい未来を本当に自分の力で歩いて行かなきゃならない。
まぁこんなこと誰にとっても当たり前の事なのだが、
俺の場合はこれまでの経験がモノを言い、
その事に少し自信がなくなってしまっていたのだ。
ト書き〈 4日後〉
そして4日後。
一人「ハァハァ…なんだろ、なんだか心が騒いで…何も手につかない…!く、くそぅ!」
これはあの薬の副作用だったのか。
俺は以前に増して何も手がつかないようになり、
その理由はおそらく何事に対しても自信が無くなっていたから?
詩織と一緒に居れば治るかと思ったが…
詩織「ど、どうしたの、か、一人さん?」
一人「ハァハァ…ご、ごめん!ちょっと…」
と言って詩織を置き去り、トイレに駆け込む始末。
詩織の顔を見ていると余計に苦しくなってしまい、
恋どころか結婚に自信を持てない自分が出てきてしまい、
しっかりしなきゃいけないと思えば思う程、
自分で自分の心を苦しめてしまう。
一人「ダ…ダメだぁ…!クソウ!!」
俺はまるでパニック症にでもなったかのように苦しくなって、
その日は少し無理を言って会社を早退した。
そしてその足で又あのバーへ向かい、
「か、彼女なら…瑠亜さんなら今の自分を何とかしてくれる!」
そう一途に思い込んで店に飛び込んだ。
なぜそう思ったのか?今でもよく解らない。
ト書き〈オチ〉
すると彼女は居た。
一人「る…瑠亜さん!」
俺は彼女のそばへ飛んで行き、今の自分のこの状態と
あの薬に代わるものが何かないか!?
それを無心した。
一人「お、お願いです!助けて下さい!あ、あれが無いと僕もうダメなんですよ!あれに代わる薬か何かありませんか!?」
でも瑠亜さんの答えは変わらなかった。
瑠亜「大丈夫ですか、どうか落ち着いて」
そう言うのだが、俺の心は暴走するだけ暴走して行き、
彼女の言葉が入ってこない。
すると彼女はそんな俺を見兼ね、不憫に思ってくれたのか。
瑠亜「お勧めはしませんが、別の方法であなたを助けて差し上げる事はできます」
そう言ってカクテルを1つオーダーし、
今度はそれを俺に勧めてくれた。
一人「こ、これは…!?」
瑠亜「それは『Presence of Transparency』という特製のカクテルでして、それを飲めばおそらく今のその苦しさからは救われるでしょう。それに詩織さんのそばにずっと居る事もでき、生涯、その場を離れる事もないでしょう」
一人「ほ、ほんとですか!?あ、あははw…ぼ、僕、本当は彼女のそばに居られるだけで嬉しかったんです!本当に一緒に居られるだけで最高の幸せでした!また…前のあの時の薬みたいに、その夢が叶えられるんですね!僕はもう彼女のそばに居られるだけで幸せなんだ!」
瑠亜「ですが稲井さん、その幸せを得る代わりに、あなたはこれまでの生活を失う事になるんですよ?これまで通りに生活できず、ただ彼女と一緒に居られる事だけに幸せを思う。その幸せに浸り続けられる覚悟があるのなら良いですが、もう1つ覚悟して頂かなければならない事が…」
彼女は延々喋ってたようだが、
「詩織とずっと一緒に居られる」
この言葉を聞いた瞬間、もう俺の心は決まった。
彼女から奪うようにそのカクテルを手に取り、
俺は一気に飲み干した。
瑠亜「あ、飲んでしまいましたか。もう1つだけ、覚悟の程を確認させて頂かなきゃならなかったのに…」
飲んだ瞬間、俺の体は消えてゆき、そこから無くなった。
でも俺は生きている。
そう、詩織のそばで、今でもずっと生きて居るのだ。
ト書き〈詩織が住んでるマンションを見上げながら〉
瑠亜「結局、一人は透明人間になってしまった。あのカクテル『Presence of Transparency』はね、その名の通り、人を透明にして生き長らえさせ、この世の全てのしがらみから遠ざけるものだったのよ」
瑠亜「でも透明だから、この世のあらゆる物体に触れる事はもう出来ない。詩織に触れる事も詩織を抱く事も出来ず、それだけじゃない。物に触れる事すら出来ないのだから、飲み物にも食べ物にも触れる事が出来ない。触れようとすれば、その体は透き通るわ…」
瑠亜「最後に聞こうとしていた覚悟はその事。透明人間になって彼女のそばに行けるのは良いけれど、一人はもう自分の衰弱していく姿を見ているしかない。飲まず食わずでどれだけ生きられるのか。恋愛や結婚どころじゃなく、そっちのほうが問題になってくるでしょうね」
瑠亜「私は一人の理想と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。本当は他の人と同じ様に幸せな人生を歩んで欲しかったけど無理だったわね。恋愛を成就させるにも、まずは自分が強くなる必要がある。一人はそれをおざなりにして結果だけを望んだ。その結末がこれだったのよ。まぁそれでも自分で選んだ人生だから、彼なりに幸せだったのかしら」
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=biAptBGYQKg&t=66s
消えた結婚 天川裕司 @tenkawayuji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます