第1章 魔王領が出来るまで
第1話 魔王との出会い
魔王さまと出会ったのは、私が二十五歳の時だ。
当時の魔王さまは冥王のもとで頭角を現し、私よりひと回りほど上だけの若さながら、すでに冥王庁で魔導師長と宰相を兼任しており、事実上の冥界ナンバー2の座にあった。
私は地方都市の出身で、中流より少しましな家庭に育ち、名門と言われる魔法学院を出た。
雇ってくれた地元の領主のもとで研鑽を積み、魔法使いとして一人前となった矢先、大規模な地震に見舞われて主家が倒れ、あえなく解雇となった。
ツテをたどって冥界に活路を求めた私は、冥王庁の採用試験を受けた。
石造りの城の奥深くにある小部屋で面接が行われた。
厳しい表情の試験官が数人、テーブルを隔ててずらりと並んでいた。
出生地と経歴の確認に始まり、魔法使いとしての得手不得手、給料の希望など、紋切り型の質問に答えさせられた。
およそ半刻ほど経って、遅れて現れたのが魔王さまだった。
魔王さまは他の試験官と違って、私の経歴には目もくれず、ただ一言こう訊いた。
「どういう魔法が好き?」
たぶんこういう時は技術的難易度の高い大規模攻撃魔法や華麗な典礼魔法を挙げるべきなのだろうと思ったが、あいにく少しも心得がない。
仕方なく、私は正直に「地味な生活魔法が好きです。その分野の魔道書を読むのも大好きですね」と答えた。
彼は微笑むと、周囲の試験官に向かってこう言った。
「この人は私が部下にもらおう。もう合格でいいね」
誰も反対しないのを見届けると、そのまま彼は立ち上がり、私を促して城外に誘った。
そして、その足で彼の行きつけの酒場へ連れて行かれ、それから数時間にわたって二人で酒を飲んだ。
緊張していた私は次第に打ち解け、身の上や悩みをもらしたが、魔王さまは静かに酒を飲みながら笑って聞いていた。
かなり酔いが進み、突然「酒が好きか?」と訊かれて焦った。飲み過ぎだ、ととがめられたと思ったのだ。
魔王さまは焦った私の顔を眺め、くすくすと笑った。
「酒が強いのを誇ることは、バカのやることだ。だが、酒が好きなのは悪いことではない。少しピッチが早いようだから、気をつけてゆっくり飲むように」
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