ホームズと屋敷の怪人モリアーティーアイリーンを添えてー
たかてぃん
第1話
「美味しそうだな」
これが俺と1羽のオウム、アイリーンとの出会いだった。
とある日、俺は1人キャンプに来ていたが、急な大雨と強風でタープもテントも全て吹き飛ばされ、暗い森の中で1人安息の地を探し求めていた。
YouTubeで流れてきて、簡単そうだったからやったのに、、、もう二度とキャンプなんてやるか。
そう思った。
横殴りの雨に打たれ、心が折れかけたその時、目の前に1つの屋敷が現れた。
窓からは仄かな明かりが見え、誰かがいるようだった。
門を潜り、屋敷のドアの前に立つと入口の屋根が雨と風から俺を守ってくれた。
体の水分を出来るだけ払い、ドアを3度ノックする。
しかし、中から何も反応は無かった。
周囲を見渡しても、インターホンも無くノック以外の手段が見当たらない。
しかし、今は緊急事態。
混乱と焦りから、屋敷のドアを勝手に開け、中に入ってしまった。
「すみません。雨に降られてどうしようもなくて、どなたか居ませんでしょうか。」
その問いに答える声は無かった。
屋敷の中を見渡すと明かりは付いているから、誰かは居るんだろう。
俺は勝手に屋敷の中を散策した。
屋敷は想像以上に広く、高価そうな装飾品で飾られていたが、どこか寂しい雰囲気を感じた。
しばらく探索した所で、明かりが漏れている部屋を見つけた。
俺の足は自然とその部屋に歩き出し、ドアを開けた。
そこには、女性の部屋と思われる家具が並べられていて、とても綺麗に掃除もされていた。
そして、部屋の中央にはとても綺麗な女の子の肖像画がかけられていた。
肖像画の女の子は18位の少女で、人生で初めて、いや、生きていく中でこんな綺麗な女の子がいるのか?と思うほど綺麗な肖像画であった。
俺が息をするのを忘れるほど見入っていると、後ろから声が聞こえた。
「どなたかしら?」
焦って後ろを振り向くと1羽のオウムがそこにはいた。
「君は、、、」
「あら、人に名前を聞く時は自分から名乗るのが礼儀ですよ?」
「いや、君から聞いてきたから、、、」
「確かにそうね、私はアイリーン」
オウムは俺の近くまでやってきて、自己紹介をした。
オウムは真っ白で綺麗な羽で、俺の目はそのオウムに釘付けになっていた。
「美味しそうだな、、、」
咄嗟に口から出てしまった。
オウムなど食べる趣味は無いし、本心でもない。でも何故か口から出てしまったら、
「あなた!失礼じゃない!あと、私は名乗ったからあなたも名乗りなさいよ!」
アイリーンは短い足で頭を叩いてきた。
「ご、ごめん!違うんだそういう意味じゃなくて!」
謝るとアイリーンはふんっと鼻を鳴らし、蹴るのをやめてくれた。
「本当にごめん。俺はホームズ」
「ふぅん、で、ホームズさんは何をしにここにやって来たのかしら」
ご最もな質問だ。
俺はここまでの事を事細かにアイリーンに話した。
「なるほどね。つまりあなたは馬鹿ってことね」
馬鹿とは失礼な。流行りに敏感な男の子なだけだよと、内心では思いつつもぐうの音も出なかった。
「まぁいいわ、ホームズ、あなたここに来るまで誰かに出会わなかった?」
「いや、会ってないけど」
「それなら良かった。男が来る前に今すぐこの屋敷から出なさい」
「あの男って、、、」
俺が話終わる前に、外から人の足音が聞こえた。
「来てしまったわ、早くどこかに隠れて!」
アイリーンは俺の服をくちばしでつまみ、部屋にあるクローゼットの中に隠した。
クローゼットの少し空いた隙間から外を覗いていると、外から1人の男が現れた。
「あぁ、愛しのアイリーン、、、何かあったのかい?」
「何も無いわよ」
「そうか、この部屋から君以外の匂いがしてね、気になって来てしまったんだ。」
「こんな所に誰が来るって言うのよ」
「確かにそうだね。でも私は心配でね。私の愛しアイリーンに何かあっては心配で夜も眠れないよ」
男は泣き真似をしつつ、アイリーンに近付いていく。
アイリーンもその男の態度に冷たい対応をしていたが、いつもこのような感じなのだろうか。
「何も無ければそれでいいのだよ。アイリーンではおやすみ」
男は部屋から出ていったが、しばらくの間、クローゼットで息を潜めた。
足音も気配もなくなり、一安心してクローゼットから出る。
「アイリーンあの人は」
「あいつは、モリアーティ。私をここに、、、」
「アイリーン?」
アイリーンは、悔しさと悲しさに溢れた顔をしていた。
俺はその表情を忘れる事はないだろう。
静かな部屋、雨音が響き渡る部屋で俺はアイリーンと2人。
その扉の前にモリアーティが聞き耳を立てていたとも知らず。
突然現れた屋敷。
意思疎通のできるオウムのアイリーン。
謎の男モリアーティ。
この屋敷の謎は深まるばかり、何の関係もない俺は逃げても誰も咎めないだろう。
それでも俺は探偵だ。
この屋敷の謎を解いてやる。
第2幕
雨音だけが響き渡る部屋の中、俺は疑問をアイリーンに問いかける。
「モリアーティあいつは誰なんだ?アイリーン君はなんで僕と喋れるんだ?」
アイリーンは少し迷った顔をしたが、少し間を置き、口を開いた。
「そうね、私の事からまず話しましょうか。
気づいているとは思うけど、私は元々人間よ、あの男モリアーティにオウムにされるまではね」
「うんごめん、全く気づいて無かった」
気まずい時間が無情にも流れてゆく。
アイリーンが誤魔化すかのように咳払いをして続ける。
「ま、まぁいいわ、私は元々捨て子でモリアーティに養子にされたの。最初は優しかったわ。でも、今思うと見せかけの優しさね。
アイツは私に薬を飲ませてきた」
と、その時だった。
扉が大きな音を立てて開かれた。
「あぁ、そうだよ、アイリーン!」
「モリアーティ!」
「ホームズと言ったね、お初にお目にかかります。私はモリアーティ、突然で悪いが死んでもらおう」
モリアーティは懐から薬を出し飲み始める。
するとみるみる、体が肥大化し人とは思えない異形の形となった。
本能でマズいと直感した。
「アイリーン!逃げるよ!」
「私は行けないわ、ホームズあなただけでも!わぷっ」
アイリーンが何か言っていたが無視をして、抱き抱え一目散に部屋の外へ逃げた。
屋敷の玄関を通り過ぎ、一旦先程と離れた部屋に逃げ込んだ。
「ここからどうするか」
「どうするかじゃないわよ!なんで外に逃げなかったの!」
「ん?だって逃げた所でアイリーンは人間に戻らないじゃん」
「なんで、、、」
息が整い改めて周りを見渡すと、そこには古い女性の写真が飾られていた。
そして、その横に置いてある日記を手に取り読む。
『親愛なるミランダ
ひと目見た時から君の瞳に魅了されてしまった。富と名声もいらない。私は君と共に少し共に老いて行きたい。それが私の望む幸せ。』
『あぁ、ミランダ
なぜ、君は私を見てくれないんだ。隣にいる男は誰だ。私以外に君の隣に立つ男が必要なのか!』
『ミランダ、君の隣の男は排除したよ、アイツに騙されていた可哀想なミランダ。もう誰にも騙されないように君を迎えにゆくね』
『ミランダ、何故逃げようとする。君は私と居ることが幸せなんだ。』
『ミランダが動かなくなってしまった。でもこれは君がいけないんだ。君が言う事を聞かないから。でも大丈夫、私はが君を生き返らせるよ』
『ミランダ、ハッピーバースデー、君を生き返らすのは、まだ先になりそうだが、あの薬ができたよ。僕と共に歳を取ってくれミランダ!』
『薬の作成の副産物だった、人を変態させる薬、あれはいい。物好きな金持ちが道楽で金を出してくれる。飽きたら人間に戻して奴隷にすればいい』
日記はここで終わっていた。
「狂ってやがる、、、」
でも、手掛かりはあった。
「ホームズ!何呑気に日記読んでるの!あいつが来る!」
部屋の外からは大きな物音が近づいてくる。
その音は扉の前まで来ると一際大きな音が鳴り響いた。
「ホームズモウニゲルノハヤメタノカ?」
扉をぶち壊して、化け物が入ってくる。
「探す手間が省けたよ。待ってたよ。モリアーティ」
「コノヘヤニハイッタノカ。私の大事な部屋ニィィィ!コワスコワスコワスコワスコワス!」
化け物に成り果てたモリアーティは暴れ狂う。
地面を叩き割り、地下へ落とされる。
落とされた先には薬が所狭しと並んでいた。
「ホームズ!大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ、それよりアイリーン、君に頼みがある」
アイリーンに耳打ちをする。
ホームズの頼みを聞いたアイリーンは、驚きつつも了承する。
耳打ちが終わる頃、モリアーティはゆっくりと下へと降りてきた。
「コワスコワスコワスコワスコワス」
もはや人では無い。
モリアーティは見境なく攻撃し始める。
扉を壊し、壁を壊す。
全てをギリギリで躱す。少しでも見謝れば死ぬ。
「ホームズ!見つけたわ!」
「ナイス!」
アイリーンは足で掴んだ薬をホームズに落とす。
野球で鍛えたコントロールで化け物のでかい口にぶち込んでやる。
アイリーンから薬を受け取ったホームズは、薬をリリースする。
ホームズの右手から離れた薬は綺麗な直線を描き、モリアーティの口の中に飛び込む。
「ウォォォォォ」
けたたましい叫びと共に、モリアーティは人間の姿に戻ってゆく。
「よう、モリアーティ、気分はいかが?」
「ホームズ、貴様、、、」
「いやぁ、お前がバカ真面目な科学者で良かったよ。几帳面に薬の名前をちゃんと書いてるんだもんな。弱化の薬とかそれっぽすぎて笑っちゃったよ」
「ふ、お前、これで勝ち誇っているのか、運良くミランダの部屋を見つけ、運良く薬を見つけた位で!私にはまだ、、、」
モリアーティの話に言葉を被せる。
「運?運でここまでやったと思ってる時点でお前の負けだ!モリアーティ!」
「負け惜しみだ!」
「俺はホームズだ!探偵のホームズ探偵。が何も無くあの部屋に入ると思うか?あの部屋の扉だけドアノブがヘタレていた、そして、床がすり減っていた。つまり、お前がよく入っていた証拠だ。
あの部屋に何かがあるのは明確。そして、この屋敷の床はよく響く。地下室が有ることの証明!お前の日記を読んで全てが繋がった!アイリーン!」
「見つけたわよ!」
アイリーンは先程モリアーティが壊した壁の奥から姿を現した。
「貴様!何故それを!」
「モリアーティ、お前は身勝手に殺したミランダを生き返らせ、自分と同じく年老いさせようとした!
お前が日記で書いた薬はこれの事だろ?」
俺は薬をチラチラとモリアーティに見せながら言う。
「この薬はこの部屋じゃなくて、厳重に保管したんだろうと推測したんだよ。だから、俺はお前に壁を壊させるように誘導した。まぁ、どこにこの薬があるかわからんから、アイリーンに探して貰ったんだけどな。モリアーティ、俺の勝ちだよ」
「ホームズゥゥゥッ!」
モリアーティが凄い勢いで迫ってくる。
薬を持って振りかぶる。
「この舞台から退場しろ!モリアーティィィィィィ!」
再び投げた薬はまたしても綺麗な直線を描き、モリアーティに当たる。
「あ、ああ、、、」
薬がかかったモリアーティは次第に体が老けてゆく。
「ミランダはお前の事が好きではなかった。だから逃げられた時ように、飲み薬ではなく、触れただけでも良い薬を作った。残念だったなストーカーさん」
「…」
モリアーティの息は途絶えていた。
「さてと、アイリーン君の事もし無いとだね」
俺は懐から薬を取り出す。
「アイリーンこれを飲んで」
「これは、、、」
「これは人に戻す薬、日記を読んでこの薬がある事は確信してたから、見つかって良かったよ」
アイリーンは、薬を持つホームズの手をそっと見つめる。
ホームズの手は切り傷だらけで、ボロボロになっていた。
足もそうだ、ズボンから血が滲んでいた。
「ホームズ、、、ありがとう。」
アイリーンは、薬を器用に飲む。
すると、大きな白い光に包まれた。
光がスゥっと消えるとそこから現れたのは、アイリーンの部屋にあった肖像画の少女だった。
「ホームズ、こんなになるまで、、、本当に、、、」
アイリーンはホームズの手をそっと包み込む。
そして、頬には大粒の涙がこぼれる。
「いいんだよ。っとっと、少しだけ休ませてくれ笑」
俺はそっと、地面に座る。
「足大丈夫?」
「大丈夫だけど、もう探偵は引退かな?引退して、小料理屋でも開きたいな、名前はもう考えてるよ」
「なんて名前なの?」
「ん?愛燐って名前」
「何それ笑、焼き鳥出すなら、タレは嫌よ?塩で焼いてね?笑」
ホームズの長い長い一日は幕を閉じた。
この続きはそうですね、またいつか、どこかでお会い出来たら。
ホームズと屋敷の怪人モリアーティーアイリーンを添えてー たかてぃん @takatin1020
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