第二話 アイドル
Kさんという会社員の女性から聞いた話だ。
Kさんがかつて学生時代に交際していた男性に、M君という人がいた。
同じゼミの学生で、性格はおとなしく、とても知的で真面目な男子だった。Kさんは、M君のそんな部分に強く惹かれていた。
ところが――そのM君がある時、突然アイドルにはまり出したという。
何というアイドルかは、分からない。聞いても教えてくれなかったからだ。
ただ、ライブには頻繁に通い、CDやグッズも片っ端から買い集めていた。
当時M君は一人暮らしをしていたが、そのアイドルの追っかけのためなら生活費を切り詰めるのも
当然Kさんにしてみれば、許し難い変わり様だった。
いや、容姿だけの問題ではない。一緒に話していてもアイドルの話題しか口にしないし、デートに誘ってもライブ優先で断られるばかり。こうなると、すでにM君の気持ちがKさんに向いていないのは、一目瞭然だった。
だから――Kさんはついに堪りかねて、M君に別れ話を切り出したという。
「どこのアイドルだか知らないけど、そんなにその子の方がいいなら、もうずっとその子のことだけ見てればいいじゃん。……別れよう?」
Kさんのその言葉にM君は、にまぁ、と、喩え様のない笑顔を見せたそうだ。
Kさんは、思わずぞっとしたという。
……M君はそれ以来、音信不通になった。
電話やメールが通じないどころか、大学にも姿を見せない。そのうちに彼のご両親からKさんの方に連絡が来て、M君が行方不明だが何か知らないか、と尋ねられた。
そんなこと、答え様がなかった。
結局M君の行方は知れないまま、年月が流れ、やがてKさんは大学を卒業した。
卒業式の日、Kさんのスマホに、一枚の写真が送られてきた。
……M君からだった。
写真は、どこかの廃墟と思しき場所で撮影されたものだった。
暗く荒れ果てたがらんどうの中、すっかり骨と皮ばかりになったM君が、満面の笑みを浮かべ、中央に写る。
まるでミイラのような彼の周りには、何人もの若い女が、並んで立っている。
皆一様に、黒い長髪を両肩からだらりと垂らし、真っ赤な制服を着て、ぱかっと大口を開けて――おそらく、
女達は、どれもまったく同じ顔をしていたそうだ。
Kさんは言い知れぬ
それからすぐにM君をブロックし、以降彼の行方は一切考えないようにしている、ということだ。
*
『絵本百物語』に曰く、夜な夜な男の精血を吸い、ついには死に至らしめる美女を、「
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