第4話

 珍しくスロットで少しだけ勝った帰り道、こういう日は贅沢をする。といっても、コンビニ弁当を買って帰るだけ。世間一般からしらた、贅沢でもなんでもないかもしれないが、僕にとっては立派な贅沢であり、勝ったことへの褒美でもあった。

 「いらっしゃいまーせー」

 元気な声で出迎えてくれる。今日日コンビニで仕事するのもやること多くて大変だろうなぁ。そんなことを思うと同時に、自分自身の仕事のことも思い出しそうで首を横に振り、少し早足で弁当コーナへ行く。たまに勝った日に現実のことなんて考えたくないから。

 僕は唐揚げ弁当とジュースをカゴの中に入れレジへ向かう。その途中、ふとスイーツのコーナーで足が止まる。

 「ケーキ!まろ、スイーツ好きやねん!」

 どこからかそんな声が聞こえた気がして、僕は普段なら買うはずもないだろうショートケーキもカゴへ入れた。

 家までの帰り道、どこかいつもより気持ちが高ぶっている自分がいた。それはきっとスロットに勝ったからだけではなかった。袋の中にショートケーキが入っていたから。

 「ただいま。留守番ありがとう」

 今日もまろは、律儀に出かけたときと同じ姿勢で玄関で僕を待ってくれていた。

 「ちっち、もしや今日勝ったでぶね」

 その言葉に僕は驚いた。

 「なんでわかったん?そんな嬉しそうだったか?」

 「それもあるけどな、ほら袋。ちっち今日コンビニの袋持っとるでぶ」

 確かにいつもは格安ドラッグストアの袋持ってるけれど。そんなとこから気づかれるなんて恥ずかしいというかなんというか。

 僕はいつものようにまろを抱きかかえ、頭をたくさん撫でてリビングへ行った。

 「一緒に食べようや」

 唐揚げ弁当よりジュースより、まずショートケーキを取り出してまろにどや顔してみた。

 「はにゃ!ケーキ!ケーキ!ケーキ!」

 コンビニのケーキでこんなに喜んでくれるなんて。

 誰かに喜んでもらえる、そんなのいつ振りだろう、まろを見ているとそんなことが頭を過ぎった。ずっと自分のためだけに生きてきていた気がするから。

 「ちっちイチゴ食べんしゃい」

 「まろイチゴ嫌いなんか?」

 「ちっちが勝ったおかげなんやから、まろイチゴは我慢するでぶ!」

 「あほ。こちとらまろに喜んでもらいたくて買ってきたんや。イチゴまろが食べんさい!」

 「ぐすん。ぐすん。ちっちー!ありがとう!」

 ありがとうを言われたのも、一体いつぶりだろうか。コンビニやドラッグストアで買い物したときの「ありがとうございます」とは全然違う。

 よくわからないけれど、まろと一緒にいることで、これまでひとりぼっちでは忘れていた大切なことを、少しずつ少しずつ思い出せている気がしている。

でも、こんな自由気ままな?暮らしもいつまでも続くはずはなかった。

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