第3話

 まろと一緒に暮らし始めて数日が経った。寂しさは多少和らいだけれど、僕のやっていることはこれまでと何ら変わりなかった。

 「ただいま。留守番ありがとう」

 まろはパチンコ屋から帰る僕を玄関で待っていてくれる。まぁ、僕が出かけるときに無理やり玄関に連れて行っているのだけど。

 「ちっち、今日は勝ったかぁ?」

 いつしかまろは僕のことを「ちっち」と呼ぶようになっていた。きっかけは、一緒にサッカーを見ていたときに、日本と対戦していた国の選手にやたらと「○○チッチ」という名前が多くて、まろのなかで僕も「ちっち」になったらしい。

 「一回も当たらず三万負け。ありゃなんかいんちきしとるで。まじで」

 「はにゃあ……」

 まろから深いため息が溢れる。これも毎日のルーティンになりつつある。

 僕はまろを抱きかかえ、軽く頭を撫でつつリビングへ連れて行く。リビングといってもこれが唯一の部屋、6畳のワンルームでもちろんユニットバス。住み始めて何年になるだろう。これが僕の、いや僕とまろの城である。

 「掃除しといてくれたら、ちっち泣いて喜ぶのに」

 「はにゃあ……そこまでまろせんでぇ」

 そりゃあそうだと思いつつ、テーブルにそのままになっている、昨日のカップラーメンとジュースのペットボトルをとりあえずゴミ袋に入れる。今日はここまでにしとこう。というより、日々これの繰り返し。

 「ちっち、今日もカップラーメンか?」

 まろが少しニヤニヤしながら尋ねてくる。

 「そうですよ。別に負けたからとかじゃなくて、ちっち食べ物とかなんでもええねん」

 それは別に強がりではなかった。特に食に興味がなく、そのせいか知らないが175cmの身長に対して体重は43キロしかない。もちろん、他人にはよく心配されるが特に気にしない。まぁ、ただ、その痩せすぎの見た目にコンプレックスが全くないかというとそんなことはないけれど。

 「まろなぁ、たまには美味しいもんが食べたいでぶ」

 カップラーメンづくりに勤しむ僕に、まろはそんな失礼なことを言ってくる。

 「日本のカップラーメンは十分美味しいでしす」

 海外のカップラーメンを食べたことはそんなにはないけれど。

 「じゃあ聞くけど、まろが食べたい美味しいもんってなんやねん?」

 3分待つ暇つぶしにでもと思って僕はまろに尋ねた。

 「ケーキ!まろ、スイーツ好きやねん!」

 あまりの即答に暇つぶしにもならなかったが、まろがスイーツが好きなことをこのとき初めて知ったのだった。

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