馬の筋肉、筋肉の質を問う

 初めに断っておくが、馬の筋力や筋肉については未だにどう判断するか、私自身が模索している最中である。それを理解した上で以下の文に目を通していただきたい。



 いくら可動域や柔軟性に富んでいてもパワーが無ければ速く走る事は出来ない。いわゆる筋肉の質という物が重要になる。

 可動域や柔軟性は歩様動画を見ればある程度は判断する事が出来る。より詳しくとなれば繰り返し再生、スロー再生をすればじっくり精査する事が出来るだろう。しかし、筋肉の質感はそう簡単ではない。

 まず初めに、馬体や歩様診断でよく出てくる筋肉の質という言葉は何かという事を考える必要がある。筋肉が柔らかい、締まっている、これらの筋肉の質を表す言葉は便利に使われるが、なぜそのような判断を下したのかを明確に説明する者は多く無い。

 よく筋肉の質の話で聞くのは、歩く際にトモの筋肉が柔らかく揺れている、歩く際に筋肉の筋が浮かんでいる、脚を伸ばし切った際に力が入っているのが分かるといった言葉である。活躍馬を見ると、上記の事柄が当てはまる馬は多い。だが、歩く際に筋肉が柔らかく揺れる未勝利馬も、筋繊維が分かる位パンパンの筋肉を搭載した未勝利馬もいる。


 では、筋肉の質は意識してもあまり意味はないのかと言われればそうではない。馬を見る際に様々な観点があり、それらを複合的に判断しなければならない様に、筋肉の質という物も複数要素の組み合わせである。ただそれは言語化しづらく、感覚的な言葉に頼りがちになっているだけである。

 筋肉の質という言葉は何かというと結局の所、様々な観点で見た総括をしっかり細部まで言語化せずに、感覚感情で語っただけの物である。これに反論する者もいるだろうが、アインシュタイン等の数学者が生み出した数式を感覚感情的だとは言わないだろう、数学的、論理的だと言うだろう。ところが、それらの数式を数学者は感覚的に理解したと答える。その感覚を明確化したものが数式となる。あくまで感覚も理論の上に成り立っている、世のあらゆる事象が論理的に成り立っている様に、我々人間ですら細胞というメカニズムの集合体であるのを忘れてはならない。


 話が逸れたが、まずは良い筋肉について考える事とする。冒頭にも述べたが正直、判断基準がおぼろげな状態で色々と模索中である。柔軟性であれば、関節の曲がる角度などを測る等の方法が取れるが、筋肉はそうではない。良い筋肉を持つ馬は角でも生えるか、鬣が金色にでもなってくれればわかりやすいがそんな事はない。

 良い筋肉で上がる言葉は柔軟性、伸縮力または筋肉の締りの2つが主に思い浮かぶ。柔軟性は文字通りに筋肉の柔らかさである。伸縮力、締りは筋肉の弛緩と緊張に対する言葉であろう。

 1つ目の柔軟性は歩様の回でも記述したが、歩幅等を見ればわかるだろう。人間同様に固い筋肉、固い体では大きく体は動かせない。

 問題は2つ目の伸縮力、筋肉の締りである。かなりとらえどころのない言葉だと私は考えており、経験による直感に近い物でこれを判断していると考えている。

 この問題の締り、言い換えるとパワーのある筋肉という物を馬ではなく人間でまずは考える。人間で言うと弛緩と収縮の切り替えが速い、バネのような筋肉と言われる。モハメド・アリ選手が有名だが、プロスポーツ選手の筋肉は非常に柔らかい。その十分に弛緩した状態から収縮する事で大きな力を素早く生み出すそうだ。

 これを馬に当てはめると、蹴り切る前後と飛節の切り替えしで判断が可能ではないだろうか。

 地面を踏み込む際にパワーが足りずに、脚が振れていないか。蹴り切る最後に、蹄がスナップを効かせて地面を蹴っているか。蹴りきった後に素早く飛節が戻っているか。

 上記の項目を意識する事で筋肉の締まり、パワーの有無をある程度推測する事が可能になるかも知れない。

 そして、冒頭で羅列したよく聞く歩く際にトモの筋肉が柔らかく揺れている、歩く際に筋肉の筋が浮かんでいる、脚を伸ばし切った際に力が入っているのが分かるといった言葉を再度ここで考える。

 1つ目の柔らかく揺れているだが、これは弛緩と収縮の観点で見れば、十分に弛緩して収縮への切り替えが早い可能性を示唆している。よい筋肉の条件の一つを満たしていると言える。もちろん、揺れているからと言って確実によいとは言えない。弛緩と収縮が重要なので、収縮に課題があれば筋肉が柔らかく揺れていても意味はない。失礼な言い方をすれば豆腐みたいな筋肉となる。必要なのは弛緩と収縮のバランスが取れたバネの様な筋肉である。

 また、ダート馬と芝馬では後者の方が柔らかく、血統等も考慮に入れて多角的に見なければならない。

 2つ目の筋肉の筋は、筋肉量と皮膚引いては脂肪の厚みと考える事が出来る。筋肉量は多い方が良いが、1つ目の弛緩と収縮の観点も考慮する必要があるだろう。皮膚と脂肪の厚みは代謝の観点で見ることが出来る。健康で内臓や各組織が十分に働いていれば代謝は上がり、太りにくくなる。皮膚の薄さは健康面を推測できるだろう。

 3つ目の力が伸ばし切った際に入っているのが分かるは、これも弛緩と収縮の観点で収縮力が強い、パワーがある事を示唆している。力が入っているというのは前述したスナップが効いているか等であろう。


 筋肉は当然、直接見えないので筋肉が動かす手脚を見て判断せねばならず、難しい要素である。しかし、馬を見る以上は避けて通れない道である。この文章を作成した私自身、どうすれば判断出来るかを常に模索している身ではあるが、閲覧者の方々の参考になれば幸いである。

 最後にこの文章に目を通して頂いた方は、良ければ我流でも何でも馬の見方についてコメントして頂けると、私の知見が広まるだけでなく、他の閲覧者様の参考にもなるかと思います。思う事があれば是非どうぞ。

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