第4話 イケメンには逆らえない


 怖かった〜。

私が囮になるなんてなんでそんなこと言ったんだよ、

女帝ミア本人でもないのに。


「終わったか」


  そう言えば、シド様の凄まじい活躍があったって言ってたけど、

この人なにもしてなくない?

むしろ、射撃兵たちの超活躍で勝ったんですけど。


「おい、お前ら! 全部俺の手柄だってことにしてくれ!」


 え……?


 うわー……ダセー……

シド様のこんな所見たくなかったけど、多分シド様に「抱かせろ」って言われたら、身体許しちゃうんだろうな……

イケメンってずるい。


「デルツに戻るぞ! お前ら!」


「おおおぉぉ!!」

 

◇ ◇ ◇


 デルツ帝国の中心国、デルツに戻った三百の兵——


「お前らは宿舎に戻れ!」


 そう言ったシド様は、私を豪華な王宮へと連れて行ってくれた。


「ミア様、シド様、お帰りなさいませ!」


 王宮に戻ると、メイドと使用人らが私とシド様の生還を歓迎してくれた。

自室らしい部屋に連れて行かれた私は、そこで少し休憩した。


 汗、めっちゃかいたわぁ……まあ冷汗なんですけどね。

コスプレの衣装がもうべっちゃべちゃだから、一回全部脱ぐか。

金髪のこのカツラもめっちゃ濡れてるけど、

また誰かに呼ばれるかもしれないし、とりあえずは付けとこう。


 ミア様って一応、デルツの国王様だから綺麗なドレスとかいっぱい持ってんだろな〜。

ちょっと、クローゼット覗いてみよ、うふふ。


 ガサガサ。


「え……」


 ドレスが一着もねえ……

流石、ワイルドな女帝ミアだぜぇ。

ドレスなんて可愛らしいもんは着ねえってか。



「おーーい、ちょっとこっち来い」


 ドア越しにシドが話しかけてきた。


 え?

シド様?

なんですか?

もしかして、これはイヤらしい展開になる系のイベントですか?


 ぜひ行きます、

いや、行かせてください。

でもその前に服を着させてください。


 っていうか、このクローゼット……服が一着も入ってないんですけど!


「入るぞー」


 シド様がそう言った直前に、先ほど脱いだ汗びっしょりのコスプレ衣装を着た美亜は、

急いだせいか余計に汗をかきながら、シド様を迎え入れた。


「ど、どうしましたか?」



「あのな、言いづらいんだが、実はお前のことが気になってて……」



 え?

あ、はいー!

こういう展開待ってました!! 

「な、何が気になる?」


「お前の……」


 うん!


「お前の……その……」


 はい!


「お前の傷が気になってて……」


「え?」


「恥ずかしいから、何度も言わせんな!」


 何、恥ずかしがってるんですか……

あと、傷って何?


「お前、後ろから切りつけられてたけどなんか平気そうだし、大丈夫なのかなって」


 あー、なるほど。

これも確か、「アニメドュ」で中三の時に学んだ。


 女帝ミア率いるデルツ軍はヨリントンの戦いの当初、九百の兵数がいた。

ただ、女帝ミアが戦場で気を失っていた2日の間で

六百の兵が戦死したという。


 なるほど、なるほど。

だからシド様はずっと私のことを不安そうに見てきていたのか。


「まあ、平気ならいい。暇なら、剣技練習に付き合え」


 はあ?

大丈夫だってわかった瞬間に、

剣技練習に付き合えって人の使い方荒すぎやしません?

仮にも私はあなたの上司なんですけどっ。


 まあ、シド様のお誘いを断るはずがなかった美亜は、デルツ軍宿舎に向かった。


「よろしくお願いします! ミア様!」


 え?


「私、シドとやるんじゃなかったの?」


「ああ、違う違う。こいつをビシバシ鍛えて欲しくてさ」


 おいおいおい、そろそろふざけるなよ。

私の乙女心、大切にしていただけやしませんか??


 とりあえず、剣を渡されたけど、これめっちゃ重いじゃん。

ちゃんと持てないし、地面に引き摺るのでやっとなんですけど。


 対面したデルツ軍のテレル中将は、ちゃんと剣を両手で握りしめて、

こちらを睨んできていた。


「はじめっ!」


シド様の美しい声と共に、テレル中将は剣を構えながら、こちらに向かってくる。


「行っちゃえ、行っちゃえ!」


 シド様のドS発言と共に、

私はそのまま重い剣を引き摺りながら、相手の方に向かう。


 流石に、身は守らないとと思い、剣を持ち上げようとするが、やはり少ししか上がらない。

すると、なぜかテレル中将はこちらを見て、おぞましい表情を浮かべていた。


「あッ。これがッ引き摺り剣術かぁっ……」


 え? ……違いますけど。

ただ重くて持ち上がらないだけですけど。


「きゃああ!!」


 女々しく叫びながらテレル中将は走り去ってしまった。


 そしてなんと私、片岡美亜は人生初めての対人戦で剣を持ち上げることなく勝利してしまった。


「ったく、だらしねえ奴だな」


 シド様が言う通り、あれがデルツ軍の中将なのは少し心配だけど……


◇ ◇ ◇


 テレル中将の剣技の練習相手になった後、シドと美亜はデルツ軍の宿舎内に話しながら入っていった。


「そういえば戦で鎧が汚れてしまって、別のが欲しいんですけど……私の鎧ってどこに置いてあるんですか」


とシド様に尋ねてみる。


 流石にプラスチック素材で作った私のコスプレ衣装で、これから戦に出ても、

普通に即死だと思うんで……


「ミア、お前鎧は一着しか持ってなかっただろ。あと汚れたくらいでなんだってお前がいつも言ってたじゃねえか」


 くっ。


 ミア様、ワイルドでかっこいいけど……

今回ばかりは、ちょっとムカつく。



「仕方ねえ、俺が貸してやんよ」


 え?


 これってつまり、好きな人に上着を貸してもらう陽キャスペシャル特典なのでは?

私みたいな陰キャがそんなことを体験していいんですか!?

しかも、リアコのシド様と!?



 ただ、上着が鎧ってだけで?そう大して変わらな——





………………………………ああ。全然違うわ。



 まあ一生に一度の出来事なので一応、着てみよ。


「ガッシャンッ!!」


 って。

え、なにこれ。

めっちゃ重いんですけど。

一歩も歩けないんですけど。


「シド様、これってもしかして筋トレ用に重りとかつけてます?」


「あっはっははは…………」


 と満面の笑みで微笑んできたシドは、呆れた様子でこちらを睨んできた。


 ですよね……あはははは……はぁ


「やっぱ、いらないですこれ……」

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コスプレした私は最推しの女帝ミアに成り代わっちゃった ハチニク @hachiniku

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