第2話 天才戦術家
いや、意味わからなすぎる。
そもそも本物の女帝ミアはどこにいるのよ。
それが謎すぎるわ。
っていうかなんで私が女帝ミアって呼ばれてんの?
もしかして私がミア様だと思われてる系?
コスプレの精度が高すぎて?
当時の人々も見分けがつかなくなった系?
え、何それ……
………………照れるんですけどおおおぉぉ!!!!
「指示を出してくれ、ミア」
え、え、え。
じゃあ冷静に考えたらこのシド様のコスプレした男の方は
……シド様本人!?
これって絶対叶わないはずの恋が叶っちゃうかもしれないってこと!?
「何ジロジロこっち見てんだよ」
正直カッコ良すぎて、話が頭に入ってこない。
抱かれたいとか煩悩の塊みたいなことしか考えられないんですけど。
思考が思春期の中学生みたいでっ……悔しいッ。
いや、でもまだこのシド様もただのレイヤーさんかもしれないし。
「念の為、念の為」と言ってシドの鎧をツンツンしてみる。
カンっカンっ
本物の鎧だべえ!!
ふざけていたら、シド様がついにブチギレだして「指示はぁぁ!!」
と怒鳴られた。
すいませんでした、シド様。
でも指示を出すって言っても私ただのレイヤー兼オタクなんですけど。
とりあえず何か考えてますよ感、出しとけばいっか。
「考える人」銅像みたいな感じで考えるが、
やはりただのレイヤー兼オタクなので、指示なんか何一つ出せなかった。
ってあれ。
なんかこの場所、どこかで見たことある。
確か、中三の冬に〔デルツ帝国〕の歴史の授業を受けた時にアニメで出てきた場所。
確か地名は……
〔ヨリントン北部〕
じゃあ今ってもしかして……
「シド……さん? 今って何年の何月何日ですか?」
「どうしたよ、そんな堅苦しい言葉使って。今日は1682年4月16日だ。ちゃんと集中しろよ」
……やっぱりだ。
まだ女帝ミアがヨーロッパの頂点に圧倒的戦力で君臨した八年前、
そして彼女が初めてデルツ軍、総督として戦場に出た戦。
間違いない、これはヨリントンの戦いだ。
——ヨリントンの戦い——
デルツ軍とヨリントン軍の争いによって引き起こされた戦。
デルツ帝国が長年、険悪の仲とされていたヨリントンの国とのぶつかり合い。
ヨリントンの兵力は圧倒的なものでありながらも、女帝ミアの戦略によって彼らは歴史的敗北を期した。
これ以降、女帝ミアの伝説が各地に広がり、勢力を上げていく始まりの戦が、まさにこのヨリントンの戦いなのだ。
絶対そうだ。
だって、この戦い、中三の頃に習ったから。
たしか一千人の兵力を持つ相手を三百の兵数で圧倒的に捩じ伏せた戦い。
学んだんなら……私もしかしたら、できるのかな。
って……できるわけないやろ!!
相手は本物の軍隊。
そして本物の指揮官がいる。
それに対して私は、ただの女レイヤー。
こんな不利な戦いはないよ、シド様〜。
「早く指示を!」
ううっ。
仕方ない。
こんな状況に置かれた限り、この場を何としても凌がないと……
最推しの女帝ミアの名にかけて!!
(金〇一少年みたいで恥ずかしい……)
でもこの戦い、
確かミア様は一度も戦闘を行わなかったらしく、
シド様の活躍が凄まじかったと、アニメでは言ってた気がする。
まあ、アニメ内での女帝ミアの一挙一動を全て再現したら何とかなるっしょ。
よしっ、堂々としておこう。
確か、まず馬鎧が一番豪華な馬に跨って、三百の兵に語りかけていた。
って馬ってどうやって乗るの……
まあ、とりあえず何とかやってみるか。
馬によじ登ろうとするが、全くもって乗る術を知らないので、もちろん乗ることができない。
だが、なんと言えばいいのだろうか。
女帝ミアのコスプレをしていた美亜は、自分は女帝ミアなんだと強く思い込んでいるらしく、変に湧き出たパワーで何とか、本当に何とかして馬に乗ることができた。
馬に乗ると、シドがこちらをまた呆れた顔で見てくる。
「ミア……それ、俺の馬……」
シドへの好感度が下がった所で、
彼女は馬からそっと目立たぬように降りて、近くに置いてあった数本かの木樽の上によじ登った。
「なんか女帝ミアってこんなダサかったっけ?」
とコソコソ話をしている兵がいた。
顔を赤くし、恥じらいを見せていた美亜は、覚悟を決めた表情で、
「静粛にッ!!」
と言い放った。
えっと、ここからなんだっけな。
あ、そうだ。
「諸君ッ! これは決して負け戦などではない。私はこの圧倒的に不利な状況を、反対に有利と考えている」
えー、それでなんて言うんだっけ。
「有利だと考えれば、有利であって、不利だと考えれば、我々は不利となる……だから私の下についていればそこに勝ちしか道はない」
そして、後に天才戦術家と称される女帝ミアの戦術は、
美亜を通してデルツ軍勢へと伝えられた。
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