川釣り

「あはは、川だぁ〜!」

「ちょっと、ユウリ!?川に入る前には準備運動しないと。」


川を目前にしたユウリは姉の静止を聞かずに川へと飛び込む。

先程、姉の忠告を聞かないで他人に迷惑をかけたばかりなのに本当に学ばないなとオリヴィアは頭を抱えるのだった。


ここはグレース川

街から徒歩20分程にある川で様々な川魚が生息しており上流に行くと釣り人が数人糸を垂らし獲物を探している。


そんなグレース川は暑い気候のこの地域では大人から子供まで水浴びをして体温を下げていた。


「あ〜!、たくっ!お姉ちゃんも行くからそんなに進まないで。……クレーちょっとユウリを連れ戻して来るから待ってて。」


オリヴィアはサンダルを脱ぎ捨てると浅瀬で水浴びしているユウリの元を駆け寄る。


その間クレーはこの川に来る間に収穫した【大豆】とオリヴィアとユウリが脱ぎ捨てて散らばったサンダルをかき集め綺麗に並べて2人が帰って来るのを待つ。


「こら〜、さっきも言ったけどお姉ちゃんの言うことは聞きなさい。」

「うぅ〜、だって川だもん。いっぱい泳ぎたい。」

「だからそれはしっかり準備運動をしてからでしょ」


ユウリに川や海などに入る前に行う準備運動の大切さを熱弁した。

そんな姉とは裏腹にユウリはいち早く川へダイブしたい気持ちであった。


そんな2人を見ていたクレーが急に「くすくす」と口を手で隠しながら笑い始める。


「何笑っているの?」

「あはは、ごめんごめん!…つい昔の事を思い出してね。」

「昔?」

「そう、オリヴィアも昔は川に入るのが楽しみすぎて準備運動をしないで入ろうとしたらオリヴィアのお母さんに怒られてたなぁ〜って」


過去の出来事を思い返す。


オリヴィアが5歳になる前の事。

オリヴィアとクレーはルィーダに連れられこの川へと遊びに来たことがあった。

その際も今の状況と似たことがあり準備運動もしないで川へとダイブして母親にお叱りを受けた事があった。


そんな過去の思い出がフラッシュバックした。


「そんな事あったっけ?」

「あったよぉ〜。本当に2人は似た者姉妹だね。」


似た物姉妹と言ったクレーの言葉に何故か幸福感を受けたオリヴィアであった。



◆◇◆◇◆◇


「にへへ。気持ちいい。」


準備運動を終えた、ユウリは姉と共に川で熱った体を冷やす。


「クレーは入らないでいいの?」

「うん、私は足を水につけるだけでいいよ」


ユウリとオリヴィアは服を脱ぎ中に着ていた水浴び用の真っ白なワンピースの様な服を身に纏って川遊びを楽しんでいた。そんな2人とは違いクレーは私服のまま、靴と靴下を脱ぎスカートが濡れない様に縛り丈を短くし水に濡れないようにしていた。


なぜ川に入って泳がないのか?

服が汚れると言う理由もあるが別にオリヴィアの家で2人が着てる様な水着を借りる事も出来たがクレーはそれを借りないでいた。

クレーが川で泳がない理由は単純な物でオリヴィアの口から証言された。


「……そうか、クレーカナヅチだもんね。」


クレーはカナヅチ、すなわち泳げないであった。

別に泳ぐ練習をしていない訳ではない。

この地域の人は水浴びを日常的に行う為に泳ぐのが得意な人が多い。

まだ3歳のユウリでさえ、少しは泳げるし水に浮かぶことは出来る。


しかし、クレーは泳ぐと言う行為に対しては何故か分からないがうまく出来ないでいた。

いくら手足を水中で動かしても進む事が出来ない。

水に浮かぼうとしても水死体の様になってしまう。


そのため、クレーは川に来ても浅瀬で足をつける事ぐらいしかしないのであった。


「そうだよ!、泳げないよ!。自分が泳げるからって得意げに言って。」

「得意げって。……ここら辺に住んでいて泳げない人の方が珍しいよ?ユウリですら泳げるよ?」


『ユウリですら泳げる』

この発言はいけなかった。


クレーは3歳児と比べられた事。

3歳児でもできる事を出来ない事実。

そんな、自分と3歳児と比べたオリヴィアに対して怒りを覚えたクレーはオリヴィアにその怒りをぶつける様にクレーは川の水を手で掬う様にオリヴィアの顔目掛け勢いよく水をバシャーンとかける。


「そんな事言う、オリヴィアはこれでもくらえ!」

「ブフッ、……やったなぁ〜」

「ちょっと。服が濡れちゃう。」

「先にやったのはそっちだから文句は言えないよ……えい!」


オリヴィアは仕返しの様にクレーにやられたように川の水面に手をつけるとクレーの顔目掛けて水をかける。


「ねぇね達だけズルい!ズルい!ユウリも混ぜて。」


水しぶきが宙を舞い太陽の光によってキラキラと輝き光り輝いき、少女達の楽しげな笑い声が交差する。


そんな少女達の楽しい空間を壊すようにある男の怒号が響き渡る。



「おいガキども静かにしろ!」


オリヴィアは声のする方向を振り向くと大人よりも大きな背の高い岩の上に立つ男の姿が見える。


ギラギラ光る太陽が逆光となり男の正体が分からないでいた。

目を窄め、太陽光を手で遮るとようやく男の姿を確認出来るようになった。


大きな麦わら帽子にタンクトップと短パンの格好のオリヴィアよりも歳が5個ほど上の青年であった。


その青年は長さ2メートルほどもある渓流竿を川に垂らしていた。


「げぇ!ロッド。」


オリヴィアは声をかけた人物の正体を気がつくと顰めっ面をしながら嫌な物をみた様な態度を取る。


青年は川に垂らしていた糸を引き上げると岩の上から飛び降り、オリヴィアの元へと近づく。


オリヴィアは心の中で『こっちに来んな。』と思っていたがその思いは届かないでいた。


「おい!人に対して“げぇ”は無いだろ。まるで黒光虫を見たような反応しやがって。」


彼の名前はロッド。

街1番の釣り名人と言われる父を持つ。

街の普通の釣り好きな青年である。


「それは黒光虫に失礼よ。」


そんな青年をなぜオリヴィアは毛嫌いるのか?

それには明確な理由はなく。

単純に生理的に無理と言う理由であった。


「……それより、そこのチビは誰だ?」

「私の妹よ。お願いだから関わらないで。」

「………お前、俺の事嫌いすぎだろ。」


2人の会話を聞き不思議そうな顔をするユウリにクレーは耳打ちをする様に『二人は仲が悪いの』とささやくように説明した。


「あぁ~……とりあえずだ、俺は今釣りをしているから静かにしてくれるか?」

「ふっ・・釣りをしても魚が釣れないくせに良く言うわ。」


ロッドは釣りをこよなく愛す青年。

父は町一番の釣り名人幼少期より釣りに対する英才教育を受けて来た………が彼には釣りの才能が皆無であった。


「クソっ!?……見とけよデカい魚を釣り上げて見返してやる!」


ロッドは川に向かい釣竿をふる。

川の流れに釣り糸の先に付いたウキが揺れる。


1秒……5秒……10秒……30秒……1分……5分………

魚がかかるのを待つが一向にウキが沈む気配はない。


「お兄ちゃん?お魚まだ?」

「待て待て。釣りとは辛抱だ!」

「ふっ………どんだけ待ってもアンタは魚はつれないわ。」


オリヴィアは鼻で笑いロッドをバカにした。

一方ユウリは待つのが飽きたのかクレーと共に川へと遊びに行く。


「私が手本を見せてあげるわ。竿を借りるわよ。」

「おい、勝手に」


オリヴィアはロッドの言葉を無視し近くにあった、ロッドの釣竿を借りると借りた釣竿を川に向かい振り下ろす。


(へぇ、そんな簡単に魚が釣れるか。)

ロッドは釣りを甘く思っているオリヴィアを軽蔑した。


1秒……3秒……5秒。

待つとウキがピクピクンと動く、その瞬間大きく釣り糸が引っ張られオリヴィアの握る釣竿が川の方へと吸い込まれる。


オリヴィアは釣竿を力いっぱい引き上げると、川から一匹の魚を釣り上げる背中は青みがかったオリーブ色をしており全体的に銀白。

スイカやキュウリの香りが特徴的な魚の名前は【鮎】


オリヴィアは一匹のアユを釣り上げるとそれを勢いに一匹また一匹とアユを釣り続ける。

その状況にロッドは悔しい気持ちでいっぱいであった。

そのロッドの気持ちを汲み取ったオリヴィアはプライドを刺激するように得意げにドヤ顔を向ける。


「へへっ。魚を釣るなんて簡単よね””ロッドくん。”」


オリヴィアの煽りに腹を立てたロッドは今の現状でな言い返す事が出来ず、せめてもの抗いとして舌打ちをした。


「ただ。運がいいだけで調子に乗りあがって。」

「運ね………でも、こんなに釣れる私のそばで釣りをしているロッドが一匹も連れないのはどういう事かしら?………それに私よりあっちの方がすごいわよ。」


オリヴィアは指を指した方向には川で遊んでいたユウリと見守り役のクレーがいた。

そしてユウリが長細いく黒い魚を握りオリヴィアの方に手を振った。


「ねぇね、ウナギ捕まえた!」


ユウリが手に持つ魚の正体は【ウナギ】

ぬるぬるとした表皮で素手で掴むのは少し手を掛けるがそんなウナギを手づかみで捕まえた。

熊も驚きの捕獲能力である。


「ユウリちゃん、ウナギなんて良く捕まえれたね。」

「にへへ、クレーお姉ちゃんも持ってみる?」


ユウリは笑顔でウナギをクレーに手渡す。

クレーは最初は断ろうとも思ったがユウリの笑顔を見たら断る事も出来ずにウナギを受け取る。

予想以上に掴みずらい表皮に戸惑う、これを泳いでる中素手で捕まえたユウリに関心していると手の隙間からウナギがヌルっと飛び出る。

逃げ出したウナギは川の中に逃げるのではなく、クレーの着ていた服の中に入る。


「きゃあ~!服の中に………って!ちょっと!あははは。くすぐった」

「クレーお姉ちゃん!」


ユウリはクレーの服に入ったウナギを取ってあげた。

それの一連を見ていたオリヴィアは『一体、何をしてるんだろう』と呟く。


呆れたオリヴィアとは反対にロッドは青い顔をして絶望感していた。


「ウソだろ……あのウナギを手づかみで………」


落ち込むロッドの釣竿がピクピクと動く。

ようやく、獲物がかかった様子であった。


「ロッド、竿引いてるわよ。」

「くそぉ~、せめて一匹釣り上げないと親父に合わせる顔がない。」

「もぅ、すでにズィーガーさんに会わせる顔がない気が」

「うるさい!」


ロッドは力いっぱいに竿を引き上げる。

今までにない強い引きに大物が釣れたろ確信した


(これはデカいぞ!アヤメか?イワナか?……いやこの引きはニジマスかもな!とりあえず大物には違いない………いまだ!)


タイミングを見てロッドは獲物を川から引き上げった。

ロッドが釣り上げった物は



【サンダル】であった。


「あはは!すご~い!大物だぁ!」


オリヴィアはロッドが一生懸命に釣った獲物を大笑いしながらバカにした。

そんなオリヴィアの反応にロッドはいい年して泣きそうになっていた。


そんな2人の間に一人の女性がユウリと同い年ぐらいの子供を連れて走ってきた。


「すいませ~ん!こちらに娘のサンダル流れてきませんでした?」

「あぁ!これですか?」

「あ!そうです!ありがとうございます」


ロッドは釣り上げたサンダルを女性に手渡した。

そして、女性は腹を抱えて笑ってるオリヴィアを不思議そうに見ながら上流の方へと帰っていった。


「だははははは、お、お腹痛い。あははは」

「お前はいつまで笑ってる。」


オリヴィアは思いっきりスッキリした顔していた。


「あはは、いやぁ~笑った!………お礼に私が釣った鮎半分あげるわ。」

「お前は俺のプライドをどれだけ気付付ければ気が済むんだよ。」


と言いながらもロッドはアユを渋々受け取った。


オリヴィアは川で遊ぶユウリに『ユウリ!帰るよ!」と声を掛ける。

ユウリは不満な顔をしながら川から出てオリヴィアの元へと駆け寄った。

そしてクレーは息を切らせ疲れた顔をしていた。


「クレー大丈夫?」

「はぁ、はぁ。死ぬかと思った。………それに服も汚れちゃった。」

「あちゃ~、どうする?一度私の家によって行く?服貸すけど?」

「う~ん、お言葉に甘えようかな?」


こうしてユウリ達は家へと戻った。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「はい!お待たせさま!ユウリが食べたいと言ってたパンケーキよ!」


ユウリ達の前にパンケーキが2,3枚乗ったそばに果物が乗せられたフルーツが彩るパンケーキプレートが机に並ぶ。


クレーもオリヴィアの服を借りてルィーダの作り過ぎたと言うのでお昼もご馳走になる事になった。


「「「いただきます」」」


三人は仲良く手を合わせた。


ふわふわのパンケーキをナイフで切りハチミツに浸して一口食べる。


ふわふわの食感に甘さを抑えたパンケーキがハチミツに浸す事により程よい甘さになり、くどくなく何口でも口に運ぶ事が出来る。


「みんな、おいしい?」

「「「うん!」」」


三人は笑顔で答えた。

ちなみにパンケーキとホットケーキの二つの名前がありますがこれは何で区別されているのか?


その答えは生地の厚さです。

生地が薄い物をパンケーキ、厚い物をホットケーキと言います。

今回パンケーキは小麦粉と卵で作ったもので生地を膨らますベーキングパウダーの代わりに卵白をメレンゲにして作った物でした。



3人はあっという間にパンケーキを食べ終えるとクレーは店のお手伝いで家に帰った。

そしてユウリは長椅子の上で母親に膝枕をしてもらいお昼の時間であった。


オリヴィアはユウリの寝息を心地よく聞きながら本を読んでいた。

しかし、オリヴィアはある事に気が付き読む手を止めた。


「そういえば、お父さんは?」


オリヴィアは父親の姿がない事に気が付く。

いつも仕事で店頭に居たり作業室にこもって魔道具を制作してたりと日中は基本的にはいないがいつも昼食には姿を見せるが今はその姿もなく一体どこへ行ったのか心配になった。


「あぁ!ポルドなら今は教会に行ってるは」

「教会?……なに?お父さん悪い事したの?」

「違う違う、ユウリの件である人を迎えにってるの?」

「ある人?」

「そう!三日目の家族会議で話したでしょ。あの人が来てるの!」


オリヴィアは三日前の家族会議の内容を思い出した。


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一流シェフの私が生まれ変わった世界は料理と言う概念がない世界でした。 トマト天津飯 @kinoko0813

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