パンを焼こう
「かぁか、ただいまぁ〜」
「あら、お帰りなさい!……ってユウリだけ?」
黄金広場で脱穀した小麦を袋に入れ、街までの十数分の道のりを歩いて帰ってきたユウリは家に入るとユウリ達の帰りを待っていた母親のルィーダが出迎えてくれた。
が、
ルィーダはユウリと共に出かけたオリヴィアの姿が無いことに訝しむ。
ユウリにオリヴィアの居場所を尋ねる。
「ねぇねはまだ広場にいるよ!」
「えぇ!ユウリ1人で帰ってきたの?」
ルィーダはユウリの1人で帰ってきた事に驚きを隠せないでいた。
ユウリが1人で帰って来たことは言わずもながらオリヴィアがユウリをたった1人で家に帰らすのは日々の重度なシスコ……
妹思いの姉の言動からは信じられない行動であった為信じられずにいた。
「違うよ!ユウリは1人で帰ってきてないよ!」
ユウリは自分が入ってきた玄関の方に指をさすとタイミング良く、それこそ狙ったようなグットタイミングでオリヴィアより一回り小さい女の子のでオリヴィアの大親友のクレーが家の中に挨拶して入ってくる。
「お邪魔します」
「あ、クレーちゃん!…じゃあ、ユウリをここまで見守ってくれたのは」
「そうだよ!クレーお姉ちゃんがユウリの面倒を見てくれたんだ!……えっへん!」
「なぜ、ユウリはそんなに自信げなの?」
お世話になったハズのユウリが何故か自信たっぷりに事の経緯を説明した。
その説明をルィーダは少し呆れる様に聞いていた。
「それはともかく…クレーちゃんもユウリの面倒で疲れたでしょ?早く中に入って休みなさい」
「はい、それではお言葉に甘えます。」
言葉に甘えクレーは家の中にお邪魔して、小麦が入った麻袋を広場からユウリの家まで運ぶので疲れた体を休めるように椅子に腰掛ける。
「クレーちゃん、靴を脱いでくれる?」
「………へ?、いいですけど。」
クレーはルィーダの言う通り靴と靴下を脱ぐと一切日焼けしていない真っ白な素足が現れた。
素足になると蒸れた足が外気によって冷まされる感覚がある。
気温が高いこの地では良くある事だが足が比較的に蒸れやすい、ユウリはそれが嫌だからいつも素足にサンダルを履いて行動をしていた。
クレーは心の中で『臭くないかな?』と少し心配な心もあったが決して匂うから靴を脱げと言ったわけではない。
仮に匂うとしたら靴を脱がせる行為は逆効果である。
ルィーダが靴を脱ぐように指示した本当の理由はこれである。
「はい!…氷水を準備したから少し足を冷やしなさい。」
「わぁ~!ありがとうございます。」
氷水で足を冷やす為であった。
クレーは蒸れた足を氷水に入れると熱された足が急激に冷やされる感覚が体を巡る。
足は第二の心臓と言われる程大切な部分です。
足の疲れを取ると体中の疲れも軽減されます。
「ふぇ~、気持ちいぃ。」
(ふふっ、ふぇ~って。この子本当に可愛いわ。」
クレーもオリヴィアと同じ年の10歳であり3歳のユウリよりは体力があるとは言え普通の女の子、オリヴィアみたいに剣術を習ってるとは言え、付き合いで習っているため、それほど真面目に稽古を受けていない。
その為に体力はそれ程ないのでここに来るまでに持ち合わせていた体力のほとんどを奪われたようで疲れを顔に出していた。
それを見たユウリは台所に向かい一昨日に作った疲労回復の為の【ハチミツ入りレモネード】を作りお世話になったお礼と言いクレーに手渡した。
最初は未知の飲み物に不信感を持っていたが喉も乾いていたのでそんな不信感を無視しユウリの作った飲み物を一口様子を見るようにゴキュと音を鳴らし飲む、
酸っぱくて甘い不思議な味と爽やかでスッキリの飲み心地に美味しさを感じるとクレーは一口、また一口とゴキュゴキュと喉を鳴らし乾いた喉を潤すように飲み続けるとあっという間にユウリから貰った飲み物を飲み干した。
足を冷やし、おいしいドリンクを飲み疲れを取る。
まさしく常夏気分であった。
「にへへ、美味しかった?」
「美味?……あぁ!うん、すごく美味しかったよ。ありがとうユウリちゃん!」
クレーは先ほど教わった【美味しい】と言う未知の言葉に一瞬どんな意味だったか考えるがすぐに先ほどのオリヴィアの説明を思い出した。
この美味な飲み物を作ってくれたユウリに『ありがとう』と感謝の言葉を言うとユウリは嬉しそうに笑いながら父親の元へと向かった。
リビングから父が経営している魔道具屋の店頭の方に向かう廊下をテクテクと小さな歩幅で歩くと地下へ続く階段が現れる
その階段を転ばないように慎重に
一段…二段…三段…と一段ずつ降りていくと階段の終わりの方に一つのドアがあらわれる。
そこの扉にはある事が書かれていた。
まだユウリには読めない文字も沢山あって読む事ができないが父親になんと書いてあるか意味を耳にタコが出来るほどに聞いていたので内容は分かった
ーーーーーーーーー
〜作業室〜
危険な為に入る際はノックをする事
ーーーーーーーーー
ユウリは注意書きの通りドアをコンコンと2回ドアを叩きノックをすると部屋の中から父親の返事が聞こえた。
数秒待つと父親が部屋から出てきた。
「とぉと!来たよ!」
「おぉ〜!来たな!お望みの物は出来ているぞ。丁度上に持っていこうと思っていたんだ。先に上で待っといてくれるか?」
「えぇ〜、久々にとぉとの残業室見たいのに」
「作業室な!?残業室って嫌すぎるだろそんな部屋……でも悪いが今は他の魔道具の制作品もあるからユウリはまだ入れられないんだ。」
ユウリはおねだりをするように片足の親指を地面にクリクリとこすりながら両手をモジモジいじり上目使いで甘える様におねだりをする。
(うわ~、なんかすごく中に入りたがっているな………でもな今は危険な物もあるからな、下手したら町一つ吹き飛ぶからさすがに入れる訳にはいかないな。)
が今は他の魔道具の制作もしているようでユウリを作業室に入れることは出来ないと断った。
それを聞いたユウリは不満そうな顔をしながら降りた階段を一段一段上り戻って行った。
その悲しげな娘の後ろ姿が少し可哀想でまた今度作業室に入れてあげようと思い、作業室にあるユウリから制作を頼まれていた魔道具を持ちユウリの待つ元へと向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇
「おぉ!すごいすごい!ユウリのイメージ通りだぁ!」
ユウリはピョンピョンと跳ねながら全身で喜びを表す。
目の前にあるのは父親に制作を依頼していたもの、大きさにして身長が90センチ前後のユウリが持つには少し難しいぐらいの大きさの魔道具で形は上の方に口が大きく開き下に行くほど絞れている漏斗状の部位が付いており、その下の丸み形のした所に落ちていく形状になっていた。
さらにその部分の先には出口があり何かが出てくる形になっている。
そう、ユウリが作ってもらったのは【製粉機】である。
「いやぁ〜今までに無い構造で作ってて楽しかったよ。ありがとうユウリ。」
「ううん。お礼を言うのはユウリの方だよ。とぉとありがとう」
「いいだよ、また欲しいものがあったら作ってやるから言えよな」
ユウリは『うん』と元気よく返事をする。
そしてクレーがルィーダと共に先ほど持ってきて小麦の入ったら麻袋を持ってきた。
「ユウリちゃん持ってきたよ。」
「ありがとう!…じゃあさっそく小麦粉を作るよ。」
ユウリはクレーが持ってきた小麦粉に手をかけたその時ポルドから待ったの声がかかる。
ユウリは手を止めた。
「なぁ〜に?」
「まずはこの魔道具についての説明を聞いてくれるか?」
「いや。」
ユウリは即答で拒否した。
理由は簡単である。
純粋に話が長い。
無口な方でいつもは話す内容も端的にまとめて話してくるポルドはなぜか魔道具の話になると我を忘れて話す為に一度話を聞くと最低でも30分以上は話を聞く事になる、
ユウリは何度かその災害に会っているために父親の面倒な話をスキップしようとした。
しかし、ポルド本人は話を聞いて欲しそうにこちらを見てくる。
そんな時に自らその解説地獄に飛び込む猛者が現れた。
それが
「私はその話気になります!」
「おぉ!さすがクレーちゃんだ。」
クレーであった。
「いいぞ!話は長くなるから向こうで座りながら話そう。」
「はい!勉強させて下さい」
クレーとポルドは向こうの椅子に座り解説をはじめた。
なぜ、クレーは自ら面倒な事に足を踏み入れたのか?
同じ技術職の娘として技術に関心を持ったから?
今となっては最先端の魔道具技術者のポルドの魔道具の技術が気になったのか?
いや、そんな純粋な思いはなくもっと不純な考えであった。
(やった〜、へへっ。ポルドさんとお話できる♪。私、全く魔道具は興味ないねけどポルドさんと2人で喋れるならなんだっていいや。)
そう、ポルドと話す為であった。
実を言うとクレーはポルドの事が大好きであった。
この好きは恋愛にも似た感覚である。
こう見えてポルドとルィーダは美男美女夫婦として町で有名であり、ポルドは様々な女性からモテる。
ちなみにこの容姿の良さは子供達にも引き継がれていた。
オリヴィアは綺麗よりの顔立ちでありユウリは可愛らしい容姿をしていた。
姉妹二人で道を歩くと様々な人からおこぼれを貰ってくる事など日常茶飯事である。
クレーもそんなポルドの魅力にやられた1人であり、クレーの中ではアイドル的な存在であった。
そんなポルドと30分以上の2人で話が出来るのだから断る必要はない。
むしろお金を払ってでも聞きたい。
もしも、この村でポルドと30分間2人きりで話せるチケットを売り出せばプレミアム料金になるだろう。
「いいか、今回作った魔道具はな、風の魔法石と岩の……」
「始まっちゃたね。」
「そうだね。……かぁか、こっちも小麦粉を作ろうよ。」
「そうね。あっちは長くなるしやりましょうか。……と言いたいけどお母さんはこの魔道具の使い方は知らないわ。」
「そこはユウリに任せて、作り方を教えたのはユウリだから使い方もわかるよ。」
ユウリは製粉機の漏斗状になった部分に脱穀した小麦を入れるとスルスルと円形になった部分に吸い込まれる。
そして円形の部位の先にある出口の位置にボウルを置き準備完了。
「じゃあ、行くよスイッチオン。」
ユウリが魔道具の電源スイッチを押すと道具内部でギュインギュインとまるで機会が動くような音と風の音がなると魔道具から小麦の粉末化【小麦粉】がパラパラと出てくる。
「おぉ!凄いよ、本当にできた。」
「へぇ、すごいわね。……しかもこの魔道具って魔力蓄石式って。無駄に高性能ね。」
魔力蓄石式とは文字通りの意味で普通の魔道具は増石を通り最小限の魔力を注ぎ込む事により魔道具が動くがこの魔力蓄積式は魔力を溜め込む石【蓄石】と言う魔法石に魔力を貯めることにより魔力を使わないでも使える魔道具である。
簡単に言うと【電池式】である。
「でもいちいちこんな魔道具を作らないと小麦を粉にできないの?」
「ううん、石臼って言う物で挽いても小麦粉は出来るけどユウリには重くて使えないからとぉとにお願いしてユウリでも使えるように製粉機を作ってもらったんだ……とこんな物でいいかな?」
ユウリは次々と小麦を製粉して行くとボウルに大量の小麦粉が出来上がった。
ユウリはその小麦粉の入ったボウルを落とさないように慎重に持ち上げるとついにパン作りが始まる。
「よぉ〜し。じゃあ、さっそくパンを作ろう!」
「お母さんも手伝うから作り方教えてくれる?」
「うん、いいよ。作り方は簡単だからすぐに覚えると思うよ。……ちなみに今回作るのは全粒粉パンだよ。」
「全粒粉?」
ユウリは今回【全粒粉パン】を作るようです。
全粒粉とは小麦の表皮、胚芽、胚乳全てを粉にしたものであり、普通の精麦をして胚乳のみ粉にした白い小麦粉とは違い少し茶色い色をしていた。
しかし、全粒粉は小麦粉に比べて栄養価が非常に高い上に太りづらいのでダイエットでも重宝されています。
「へぇ〜、小麦粉も色々な種類があるのね。」
「うん、…でも全粒粉だと保存が難しいから使う分だけを粉にしたんだ。……また、とぉとに製麦機を作って貰おうと。」
「へっしゅう!」
「だ、大丈夫ですかポルドさん!?」
「あぁ、すまんな………で話の続きだが。」
ユウリのたくらみにポルドは勘付いたのかくしゃみをした。
「パンの作り方を簡単に説明すると小麦粉に水を入れて、こねて、生地を発酵して、焼くだね」
「………え?それだけ?」
「うん、それだけ。」
パンの作り方は非常に簡単で手軽です。
パンの本場フランスでは小学生ですらパンを焼けると言われる程簡単です。
日本では米が一般的な主食な為にパンを作る機会があまりありませんがもし日本の主食がパンになったらもっとパン作りが身近な物になっていたでしょ。
パン作りを始めたユウリは小麦粉に【塩、砂糖、水】を加えてある程度生地がまとまるまでひたすらと混ぜる。
ある程度まとまり生地になると今度は台の上に乗せ体重をかけて一生懸命コネコネとこねる。
「あはは、おててベタベタ。」
最初はベタベタの生地も10分間ほどこねる続けるとグルテンが生成され幕が出来る事によりベタつきがなくなり生地ができる。
「よし。パン生地ができた!……後はこれを発酵させて焼けばパンができるね。」
「ちなみに発酵ってどれぐらいやるの?」
「う〜んと、この気温だと大体5ー6時間ぐらい?」
「えぇ、そんなにかかるの⁉︎」
「うん、酵母を使わないで発酵するからどうしても時間がかかるんだ。」
基本的にはパンを発酵させる際には【ドライイースト、生イースト、天然酵母】を使う必要があります。
しかし、そう言った酵母はレーズンなどの果物から作るとしても1週間程度かかってしまいます。
その為今回は何も酵母を使わずにパンをこねました。
しかし、酵母がパンに含まれていなくても土や空気などあちらこちらに酵母は生息しています。
そのため外に生地を置いとくだけでパン生地は発酵する事が可能です。
その代わり時間はかかりますが。
(酵母も作らないとダメだなぁ〜、他にも色々な調味料を作りたいし、またねぇねに手伝ってもらおう)
〜同時刻 黄金広場〜
「へっしゅ。……風邪かな?」
「おいおい、オリヴィアが風邪とか無いだろ。逆にオリヴィアの体に入った風邪菌の方が体調崩すだろう」
「あははは……しねぇぇぇ〜」
同時刻ユウリの企みに反応したオリヴィアはくしゃみをした。その反応に対して決闘中のロイドがオリヴィアを挑発。
その挑発に乗るように殺意を込めて木の棒を振り下ろす。
〜ユウリの家〜
「えぇ〜、5時間も時間があるなら丁度お昼時だし何かお昼を軽く食べて……ユウリはお昼寝しましょうね。」
「えぇ〜、昨日お風邪で一日中寝ていたから今日はお昼寝無くても平気だよ。」
「じゃあ、一度ご飯を食べてからお昼寝したくなったらお昼寝するでいいかな?」
「別にいいけど。…ユウリ絶対に寝ないよ。パンが膨らむまでクレーおねえちゃんと遊ぶんだから。」
〜4時間後〜
「すぅ〜…すぅ〜…にへへ。」
「あれだけ起きているって言ったのに……」
ユウリは母親に膝枕をしてもらいながらスヤスヤと寝息をしながら気持ちよさそうに夢の世界に入り混んでいた。
「おぉ…ユウリは寝たか?………ってクレーちゃんも寝ているのか?」
ユウリの隣で肘をつきながらクレーは眠っていた。
ユウリの睡魔が移ってしまったのでしょう。
「もぅ、二人ともぐっすりよ。………あ!そうだポルドに一つユウリからお願いを頼まれているの。」
「俺にユウリからお願いか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
~作者コメント~
小説の区切りが分からずに小説を書いていたら1万字を超えてしまったのでここで終わりました。
そのために同時刻に2話同時に小説を投稿させていただきました。
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