家族会議。
「お母さん。ユウリ寝かして来たよ。」
オリヴィアは自室の自分のベットの上にユウリを寝かしつけ、両親が待つ居間に戻ってきた。
寝かしつけると言っても、
もうすでにユウリは寝落ちしていたので眠るユウリをベットに寝かし、布団をかけて来ただけであった。
「いつも、ありがとう。」
「だから、頭を撫でないでよ。もう、子供じゃないだから。」
ルィーダはオリヴィアの頭を撫でてあげる。
妹の面倒を率先して見てくれているお礼だろう。
しかし、オリヴィアはその頭を撫でる行為は嬉しい反面、子供の様で恥ずかしい気持ちもある為に嫌がっていた。
ポルドはそんな2人の姿を微笑ましく、いつまでも見ていた気持ちがあったが今日はユウリについて話し合いがあるので気持ちを押し殺し『2人とも家族会議を始めるぞ。』と一言かけた。
ポルドの声がけに反応する様に2人は席に着く。
いよいよ、家族会議が始まった。
「まぁ〜、さっきも言ったが今日の議題は【ユウリ】についてだ。…オリィ、あまり緊張しないでくれ。そこまで深刻な話はするつもりは無いから。」
オリヴィアは【ユウリ】の名前が議題に上がった瞬間に体をビクッと震わせ体を硬直し下を俯き始める。
完全に緊張状態であった。
ユウリは最近……いや、
厳密に言えば昨日から様子がおかしい。
その件についての議題であるのだから、今回の会議で自分の妹に何か良からぬ事が起きるのではと考えてしまう。
オリヴィアのそんな姿を見たポルドはオリヴィアの心情を読み取り、安心する言葉をかける。
「うん…、分かってるけど。」
「もぉ〜、ポルドは言葉足らずだからダメなのよ。【ユウリ】の事について家族会議をするって聞いたら。オリヴィアは緊張するに決まってるじゃないの!」
「そうか。すまない、端的にまとめ過ぎた。…それじゃあ、改めて今回の議題を説明する。今回の議題は【ユウリと今後の接し方について】家族会議をしよう。」
「ユウリと今後の接し方?」
「そうだ。…2人も気づいてると思うがユウリはおそらく変革者だと思う。」
変革者とは…
この世界に変革をもたらす者を指す。
この世界ストレジは文明が進化してまだ400年程しか経っていな。
そんな、文明が発展するキッカケになったのが変革者であり、これまでに6人の変革者が文明を発展させてきた。
まず現れた変革者は3人。
【指導の変革者】【建築の変革者】
【技術の変革者】
指導の変革者が主軸になり、他の変革者と人々の力により、建物が立ち、規則ができ。
そして国が出来た。
次に現れた変革者が
【教育の変革者】
教育に長けた変革者により人に物を教えるやり方、人に物を教える大切さが世界中に行き渡り。
教育がない時に比べて犯罪率が減った。
さらに次に現れた変革者が
【魔法の変革者】
彼により、この世界の住人は魔法が使える様になった。
この世界の住人は魔力を所持をしていたが操れる者は限られていた。
彼が生まれるまでは魔法は3000人に1人が使える特別な物であったが彼の作った魔道具によってどんな者でも魔力を込めるだけで魔法が使える様になった。
そして最後に現れた変革者が
【医療の変革者】
彼女の知識によってこの世界に医療が広まった。
こうして400年と言う短い時間で文明は急成長した。
「変革者かぁ…」
オリヴィアがため息混じれに言葉を吐く、その言葉からは悲痛感が感じ取れた。
オリヴィアは続き話を始めた。
「でも、私が知ってる変革者とユウリは少し違う気がするよ?」
「そうだな…ユウリには他の変革者と違い前世の記憶がない。」
変革者には一つ大きな特徴がある。
それは【前世の記憶】である。
変革者は全員、この世界とは全く違う世界の住人の生まれ変わりであった。
その前世の記憶を元にこの世界を進化させて来たのであった。
「しかし、料理と言うこの世界にない技術に関する記憶はある。この謎の技術はユウリの思い付きの産物ではない。それはオリィも今日でわかっているだろ?」
「……」
「沈黙は答えだな。ユウリの料理の知識は原理を知った上で行っている行動だ。…これは他の世界の技術と言うしか説明できない。」
「なら…ユウリもいつかは他の記憶も思い出すの?」
「他の記憶を思い出す可能は0ではない。オリィは変革者についてどれぐらいは知ってる?」
「まぁ、一般教養程はあるけど。」
「なら、前世の記憶を取り戻した者がどうなるかも知っているか?」
「知らなかったら、……こんなに悲しい気持ちにはならない。」
「……オリヴィア。」
今まで黙って話を聞いていたルィーダは俯き不安感に駆り立てられるオルヴィアを優しく抱きしめる。
「…そうだよな。オリィにとってユウリは大切な妹だもんな。」
「ポルド!私たちにとっても大切な娘よ。」
「そうだな。」
ユウリと他の変革者の違いは……前世の記憶があるかないかであった。
確かにユウリは前世の【料理に関する記憶】は思い出しているがその他の記憶はまだ思い出していない。
ここが他の変革者と異なる点である。
残っている変革者の記録によると変革者は幼少期に記憶を取り戻す後天的な人と生まれながらに前世の記憶を持ち生まれてくる先天的な2パターンが存在する。
この場合であるとユウリは後天的に当てはまる。
「後天的に記憶を取り戻した者は数日遅れで前世の記憶を全て思い出す事もある。その場合だと……言わない方がいいか?」
「……いや、大丈夫!ユウリの事では逃げたくない。」
ポルドは下を俯き続けるオリヴィアの心情を思い話す事をやめようかと考える。
オリヴィアに辛いなら話すのを辞めようかと提案した。
しかし、オリヴィアから帰って来た回答は継続であった。
その強い意思にポルドも決意した。
「後天的前世の記憶を取り戻した影響で現世の記憶を無くす者もいる。そうなるとユウリの性格も今までと違って別人の様に感じてしまう。事もある。」
オリヴィアが恐怖に思っていた事は前世の記憶を取り戻す事により現世の記憶……即ち、今のユウリを失う事を恐れていたのであった。
「もちろん、前世の記憶を取り戻したからといい。今の記憶を失うとは決まっていない、むしろ記憶を失わない事の方が多い様だ。……だからと言い記憶を失わない可能性は0ではない。…その場合の事を考えて今回は家族会議を開いた。」
ポルドの話を静かに噛み締め様に真剣に聞いていたオリヴィアが口を開いた。
「もし…。もしもだよ?ユウリが。ユウリじゃ無くなったらお父さんはどうするの?」
「記憶を失い、別人のようになったらかぁ…。王都には変革者を引き取って貰える制度はある。現に今の【医療の変革者】は4歳の時に記憶を取り戻し、それまでの記憶を失ってしまった。家族は苦渋の決断で王都に引き取ってもらったと聞いた。……だが、俺はそれはしたくない。でもこれは俺のエゴの押し付けになる。だから2人とそしてユウリの考えが俺と違う場合はみんなの意思に従うつもりだ。」
「お父さん!」
ポルドに話を聞き、安堵と感謝した様にオリヴィアは父親に飛びかかり抱きついた。
「ありがとう。…私もユウリと一緒に暮らしたい!例えユウリがユウリじゃなくなっても。ユウリは私の妹だから。」
「オリィ…ルィーダはどう思う?」
自分を抱きしめるオリヴィアを優しく撫で、向かいに座るルィーダの意思も確認する為に尋ねる。
ルィーダは今まで閉じていた口を開き自分の思いを語り始めた。
「ユウリは…、昔からお転婆で慌て者で何事にでも興味を示す、笑顔の絶えない可愛い娘よ。オリヴィアとは正反対の子ね。だから私はユウリが今までのユウリじゃな無くなったらどうなるか…今現状では何も言えないわ。その状況になってから私が…ユウリがどうするかはその時に決めたいと思うわ。……でも、私は今日のユウリの料理より家族が好きの言葉を聞いた時に思った事は今のユウリは私達のよく知ってるユウリだって事よ!だから、私はどうなってもいい様に今まで通りユウリに接しようと思うわ。」
「ルィーダ…そうだな。確かに実際にその状況にならないと分からないしな。それに今までの記憶を失ったり、前世の記憶を思い出す確証はない。だから俺らのこの会議は杞憂に終わる可能性もある。……まぁ、それならそれで良いが。今回の会議ではみんなに万一の可能性の為に心の準備をしといて欲しいと言いたかっただけだ。」
「そうね。…じゃあ、今回の家族会議での議決は【ユウリとは今まで通り向き合う】って事でいいかしら?」
「私はいいよ!…先の事を考えても仕方ないし!」
「俺もそれでいい。」
こうして家族会議は皆の見解が纏まり幕を閉じた。
「ふぇ〜、なんか疲れたよ。」
「そうね。…じゃあ、これを飲みなさい。」
ルィーダは木のコップに入った輪切りになったレモンが浮かぶ水を手渡した。
「お母さん、これ何?」
「これはユウリが作った疲れが取れる飲み物【蜂蜜入りレモネード】って言うみたいよ。」
蜂蜜とレモンには疲労を回復する効果がある。
蜂蜜は健康食品としても有名な程に栄養が豊富に含まれているそのエネルギー生成をレモンに含まれるクエン酸活性化させる。
お互いがお互いを高め合う。共闘関係となり素早く体に失われたエネルギーを補填する。
そして、レモンと蜂蜜には他にも利点がある。
それが。
「……わぁ!美味しい!」
純粋に美味しい。
レモンの酸っぱさと蜂蜜の甘味が交わい甘酸っぱいさにとなる。その究極のハーモニーがオリヴィアの手を止める事なくゴクっゴクっと一気に飲み干した。
それに続く様にポルドもレモネードを一口飲み込んだ。
「う、うまいな。」
「ねぇ!…なんか、体の中心から疲れが取れる様な感覚がするね。」
「そうだな……あ、あと言い忘れていたが3日後にガルダが来るそうだ。」
【ガルダ】と言う名を聞いた瞬間にルィーダは飲んでいたレモネードをブハァ〜っと勢い良く吹き出した。
「ちょっと、お母さん汚い!」
「ゲホっ、ゲホっ。ご、ごめんなさい脊髄反射でつい。」
「全く、ルィーダは相変わらずガルダが苦手なんだな。」
「いやぁ〜、過去の事を思い出して。つい、萎縮してしまうの。」
「ねぇ、そのガルダさん?て誰なの?」
「そうね。オリヴィアにはまだガルダ先輩について教えてなかったわね。…ガルダ先輩は私が王都で騎士団をしている時の私の教育係だった鬼より怖い悪魔の様な人よ。」
「お母さんにそこまで言わせる人って…やばばだね。」
「で?なんでガルダ先輩ここに来るの?」
「ガルダはクレス様の護衛で来るだけだ。」
「クレスさまぁぁぁぁ!?」
【クレス】の名を聞いた瞬間に次はオリヴィアが驚く様に大声で叫ぶ。
「こら!オリヴィア。夜も遅いから大声を出しちゃダメよ。」
「ご、ごめんなさい!でもなんで聖女クレス様が…どうやって呼んだの?」
「…おい、オリヴィア俺が元王族貴族だって事を忘れたのか?俺が一声掛ければ聖女様ぐらい来るさ。」
「聖女様をぐらいって……」
ここでポルドとルィーダの過去について話す事にしよう。
ポルド=グラッセ。
【旧姓ゴルズーワッソ】王族直下貴族の家の出であった。
ポルドには昔から魔法の才能があった。
がしかし、基礎魔力が他の物とは少なく魔法を連発したり強力な魔法を放つ事は出来なかった。
そんな中でポルドが才能を開花させたのは魔道具開発であった。
魔法の改革者【マルセオ】によって魔法具の基礎が開作され、魔法具が世界中に広まった。
しかし、マルセオの死去からここ80年間ぐらい、魔道具の新しい開発はされて来なかった。
それほど魔道具は複雑で難しい。
そんな魔法具の歴史を再び動かした人物がポルドである。
ポルドは魔道具開発をして生きる事を決意した。
しかし、王族貴族の規約で国に関わる、政治的な仕事をする決まりがあった。
もし、それ以外の仕事につくのであれば貴族の名を捨てる必要があった。
将来について悩んでる時に出会ったのが騎士団時代のルィーダであった。
ルィーダは当時ポルド直属の護衛を担っていた。
ポルドはルィーダに自身の悩みを相談するうちにルィーダと言う女性に惹かれていった。
それはルィーダも一緒であった。
ポルドはルィーダと結婚する事を決意しそれと共に貴族の名を捨てる事も決意した。
「でも貴族を辞めても貴族特権が使えるんだね?」
「まぁ、貴族の名を捨てたと言っても、状況が状況だったからな。父様も俺が貴族を辞め魔道具作成に専念する事を願っていたらしい。だから昔に比べて制限は掛かったが完全に貴族特権が無くなったわけではない。…それに今回は事が事だから貴族とか関係なく聖女はともかく国は動いただろう。」
「そうなんだ…じゃあ、やっぱり聖女様の目的は【ユウリ】なの?」
「そうだ、今日、通信魔導具で王都と通信した際、変革者に詳しい聖女様がユウリを直々に見に来ると言い出したそうだ。…まぁ、恐らくだが俺の娘を見た事ないから見に来る口実な気もするがな。」
「なにそれ?」
オリヴィアは呆れ顔で答えた。
聖女に名を聞いて萎縮していた自分が馬鹿みたいに。
「まぁ、詳しい話はクレアが教えてくれるだろう。それまでは今まで通り暮らす事にしよう。」
「わかった。……で、話は変わるけどお母さんとお父さんのその昔の話をもっと良く聞かせて!お母さん最初はどんな感じだったの?告白はどっちから?」
「オリヴィアはもう寝る時間だから。また今度ね。」
「え〜、嫌だぁ。聞きたいのぉ〜」
オリヴィアは机に突っ伏し腕を伸ばしバタバタさせながら話す。
珍しく聞き分けのないオリヴィアに頭を悩ませるルィーダ。
オリヴィアも年頃の女の子。
恋愛話にも興味を持ち始める時期なんだと理解をしていたが今から話すと話が長くなって夜更かしになってしまう。オリヴィアは明日稽古があるのあまり夜更かしさせたくなかった。
しかし、頭ごなしに拒否はしたく無いので良い打開案がないか考える。
すると一つ良い案が思いつく。
「ねぇ?そんなに私たちの恋愛話聞きたい?」
「うんうん!聞きたい!」
「いいわ、聞かせてあげる」
「やった〜!えへへ。今日は夜更かしだぁ!」
「ただし、一つ条件があるわ。」
「えぇ?なになに?」
オリヴィアは笑顔で母親の顔を見つめ聞き返す。
反対にルィーダは意地悪な笑みを浮かべオリヴィアの顔を見つめる。
「話をする前にお仕置きを済ませないとね。」
「……へ?」
今まで笑顔で微笑んでいたオリヴィアの顔が【お仕置き】の一言でみるみる内に青く怯える顔に変わった。
彼女はすっかり忘れていた。
自分が今日したイタズラへの代償。
尻叩きのお仕置きを。
「ほら、早くこちらに来なさい。3回に負けてあげたんだし、その分本気で行くわよ。」
「本気?」
オリヴィアが『本気?』と聞き返すとルィーダは怯えるオリヴィアの不安感を駆り立てる為に両手を思いっきりバチンっと大きな音を立て家中に響き渡たらせた。
「お、おおおおお母さん。もう、子供は寝る時間だよ。だからお仕置きはまた今度って事で。えへへ…おやすみ。」
オリヴィアは逃げる様に部屋を出て自室に逃げ込んだ。
そんなオリヴィアの姿を見た両親は顔を見合わせて笑いあった。
◆◇◆◇◆◇
「ふぇ〜、危なかった。あんな魔獣の様な腕力で私のお尻を叩かれたらお尻が2つに割れちゃうよ。」
オリヴィアは自室に逃げ込むと訳の分からない独り言を呟いた。
自室に来るとベットの方で自分の気持ちを知らないでユウリがスヤスヤと寝息を立てて寝ていた。
そんなユウリのそばに近づき頭を撫でてあげる。
するとユウリの顔がにへぇと微笑む様に崩れた。
「全く、この子は本当に可愛いな。…お〜い、今日はユウリのせいで頭使いすぎて疲れたぞ!…全く、気持ち良さそうに寝ちゃって。ふふっ。起きてたら悪戯らしていたよ。」
そう言うとオリヴィアは眠るユウリの首筋を指一本で起きない程度に軽くコチョコチョとくすぐる。
ユウリもそれに反応する様に『にへへ』とくすぐったそうに笑っていた。
その反応が可愛らしくもう少し悪戯しようかとも思ったが起こしたくないので起きたら沢山イジワルしようと決意して、気持ちを飲み込んだ。
「ふわぁ〜、なんかユウリの寝顔を見ていたらこっちまで眠くなってきたな。……寝ようかな?」
オリヴィアも今日は沢山動いたので体力に限界はとうに過ぎていた。
今までは話し合いなどで頭を使ったりして眠気を感じていなかったが落ち着くと急激に睡魔に襲われた。
大人しく本能に従うように部屋の電気を消して、自分のベットにユウリを起こさない様に横に入り寝転んだ。
優里の方を向く様にして体を向けると優里の可愛い寝顔をこちらを向いていた。
この顔を見るとオリヴィアは幸せそうに微笑み頭を撫で、『おやすみ、ユウリ。』と声をかけるとユウリも『ねぇね、大好き』と寝言を一言溢した。
その言葉に喜ぶ様にオリヴィアもユウリに声をかけながら眠りについた。
「ふふっ、ユウリがもしユウリじゃなくなっても私はユウリのお姉ちゃんを辞めるつもりはないからね。…覚悟しなさいよ。大好きなユウリ。」
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