ジャガイモの凄さ。

「かぁか、だだいま」

「こら、ユウリ!もっと静かにドアを開けなさい。・・お母さんただいま。」


ユウリ達は海から30分程の道のりを歩き街に辿り着く。街中を数分進み自宅のグラッセ魔道具店の看板が見える。正面入り口から裏手に周り裏口のドアを勢いよく開け家の中に入る無邪気なユウリ。それを見て姉のオリヴィアは注意をした。


そんな2人の娘達を母親のルィーダは抱きしめ無事に帰ってきた事を喜ぶ。


「かぁか、苦しいよ。」

「そうだよ。ユウリはともかく私はもう子供じゃないんだから恥ずかしいよ」


無邪気に喜ぶユウリと恥ずかしそうに嬉しがるオリヴィア。


この辺は危険な事は少ないので事件に巻き込まれる事はない。その上オリヴィアはしっかり者の姉なので海で事故に巻き込まれる心配も無いとは思うが・・・

それでも、海に子供の娘達2人で行かせる事はやはり母親としては不安感が残っていたらしく、自分の娘達の無事が分かり嬉しくなったのだ。


「いいの・・少し抱きしめさせて。」

「もぅ、今日だけだよ。」

「あはは、かぁか、甘えん坊だぁ!」


元から人と触れ合うのが大好きなユウリは大喜びしていたが反対に姉のオリヴィアは嬉しい気持ちはあるがそれ以上に姉として妹の前で母親に甘えるという行動がはずかしいのか赤面していた。


ルィーダも数十秒抱きしめると満足して2人をはなす。

母親の腕から離れたユウリは今日作ってきた塩を自慢げに見せ始める。


「かぁか、見て。お塩出来たの!」

「あら、本当に出来たのね。白くて綺麗わね・・これ本当に食べれるの?」


初めて見る未知の物にルィーダは不信感を抱く。今まで見てきたどんな食べ物よりも違う、異質の見た目に驚きを隠せない様子であった。

そんな、母親を安心させたのユウリの笑顔である。


「うんうん!食べれるよ!ちょっぱくて、美味しいの。」

「しょっぱいね。」


オリヴィアが舌の回らないユウリの代わりに『しょっぱい』と塩味に関して説明した。


「しょっぱいかぁ・・・お母さんも一口もらってもいい?」

「うん!いいよ・・・って、一口?」


ルィーダはスプーンを持ってくるとユウリが作った塩を一掬いする。

ユウリはそれを見た瞬間に危険を感じ母親を止めに入る・・・


が、しかし!


「かぁか!食べたちゃだ・・ふぐっ」


ユウリは後ろにいた、姉のオリヴィアに口を手で塞がれ声を出せないようにされた。

ユウリはなぜこんな事をするのか疑問に思う。

オリヴィアも塩を大量に接種するのは危ない事だと理解しているハズなの・・・


そんな、ユウリの疑問を解消する様にオリヴィアはユウリの耳元で囁くように話しかけた。


「し〜〜、ここは黙ってお母さんに塩を食べさせよう。・・そっちの方が面白そうだし。」

(うゎ!ねぇね、悪い顔している。・・・でも、それ結構冗談にならないんだよね。だから止めないと。)


姉の悪戯に反対する様に手で塞がれた

口で必死に食べるのを辞めるように説得する・・・


しかし、口を塞がれていて『ふぐぅ、ほぐぅ』としか口からは声が出なく母親に思いを伝える事が出来なく歯痒い気分になる。


「2人とも何してるの?」

「気にしないで最近のユウリは口を塞がれるのハマっているの・・・さぁ、グイッとユウリの手作りの塩を食べちゃって。」

「ユウリやっぱり、変わってるわね・・・まぁ、いいわ。」


ルィーダはオリヴィアの言う通りスプーン一杯ほどの塩を口に運んだ。

その瞬間、口の中に強烈な塩味が襲いかかり、悶絶し始めた。

塩は少量だと美味であるが大量に摂取すると不快であり不味い。


「ふがぁぁ、なにこれ!口の中に巨大な波が入ったようで。痛い」


塩を大量に口に入れると塩辛と言うと思う。

そもそも、辛いは味覚ではなく痛覚である。塩サウナに入った事がある人ならわかるかもしれないが塩を体に塗り、痛いと感じ事はないだろうか?


あれは皮膚の細かい傷に塩が入り込み痛く感じる事がある、それと同じ現象がルィーダの口の中で起きていた。

口にある細かい傷に塩が染み込み、痛みへと変化した。


「大変だよ!かぁか!お水飲んで!お水!」

「あははははは、お母さん面白い。」


ユウリは自分では味わった事はないが、頭の中にある料理に関する記憶の中で今の母親の苦しみを理解していた。その為母親の苦しみを解消術く、水を大量に飲ませる。


そんな心配する、ユウリとは反対に床に転がりながらオリヴィアは笑い転げていた。


大量に塩分を接種するのは大変危険な行為です。

塩分を摂取した事により血圧が急激に上がり、脳梗塞や動脈硬化を起こす事があります。


さらに塩分には水分を引きつける効果があります、野菜を塩漬けした際に水分が出てくるのはこれが原因です。

その効果によって腎臓にも負担がかかります。


しかし、これは大量に塩分を摂取した時のお話しです。

良く聞く話で『醤油を1リットル飲んで自殺した』がありますがこれはあながち嘘ではありません。


その為ユウリは摂取した塩分濃度を薄める為に水分を大量に飲ませたのです。


「ありがとう・・ユウリ。」

「いいよ、ごめんね。お塩は大量に食べたら駄目って教えてあげれなくて。」

「いいのよ!それに悪いのはそこで笑い転げてるあの子だし。」

「あははははは、苦しい!!お腹痛い。」


ユウリの適切な対処により回復したルィーダは近くで笑い転げるオリヴィアの元へ駆け寄り、話しかける。


「はぁ、はぁ、笑ったぁ。・・・お、お母さん?」

「随分と楽しそうですね?オリヴィアちゃん!」

「ひゃい!」


優しく、怒りに溢れる母親の笑顔に恐る様に立ち上がり、背筋を伸ばし。

しかし、恐怖からかオリヴィアの体は萎縮し動かなくなる。


先程の悪戯を企んだ自分を呪うが時遅く、母のルィーダはユウリと相談してオリヴィアにある提案をした。


「お仕置き内容は何がいいかしら?お尻100叩き?それともグランさんに頼んでトレーニングメニューを厳しい物に変えてもらう?」

「ひぇ!どっちも嫌だ。」

「じゃあ、ユウリはどっちがいいと思う?」

「どっちも!」


いつも天使の妹が悪魔になった瞬間である。


オリヴィアは地頭が良く、10歳で12歳で学び終える一般教養を終えていた。

今はやる事もないので一ヶ月程前からグランと言う剣術の師範の元で鍛錬をしていた。


そのグランの稽古は厳しく、週2で通っているが毎回ボロボロで帰って来る。

そんな稽古が更に厳しくなれば・・・言うまでもないだろう。


(やばば、今ここに居るのは非常に危険だ。ここで私が取る最善の選択は・・・逃げるだ。」


オリヴィアは「ごめんなさ〜い」と言い残し、ドアから家を逃げるように出て行った。


「あ、全く、逃げ足は早いんだから。」

「だねぇ・・・お母さんご飯作ろうよ。」

「そうね、作りましょうか。」


姉が居なくなり、母と2人っきりの家で料理を始める。2人であった。


◆◇◆◇◆◇


「それで何を作るの?」

「今日はこれを使って、料理を作るよ。」


ユウリはやる気に満ち溢れていた。

母親に今日作ってもらった。出来立てのエプロンを身に纏い上機嫌であった。


ユウリがまずはじめに取り出した食材は土が付いていて丸く、歪な形をした茶色い物であった。


「ユウリ?なんで、掃除道具を持って来たの?」

「お掃除道具じゃなく、だよ。」


ユウリがまずはじめに取り出した食材は【ジャガイモ】。


この世界ではジャガイモは掃除道具として使われていた。

ジャガイモの皮には「サポニン」と言う成分が含まれており、サポニンには洗剤と同じ効果があり。ガラスや鏡をピカピカにしてくれる。


さらにジャガイモに含まれるデンプンにも研磨剤の効果があり、床の汚れなどを落とす際にも使えます。


「でも、そのジャガイモって食べれないよね。硬いし、私は嫌いよ。」

「そりゃ、火を通さないと美味しくないよ。でも料理次第では生でも美味しく食べれるよ。・・・とりあえず、このジャガイを茹でます。」

「あ〜!、火は私が使うからユウリは鍋を触らないで。」


ルィーダは鍋に触れようとしたユウリの手を止め、ジャガイモを鍋に入れる。


「これはどれぐらい茹でるの?」

「この大きさだと大体25〜30分ぐらいかな?」


ユウリはジャガイモを皮のついたまま鍋で茹でた。

もちろん、カットしてからジャガイモを茹でる方が早く茹で上がるが、皮のまま茹でると栄養素が逃げ出さないメリットがある。そのためユウリは皮を剥かずにそのまま湯掻いた。


「結構、時間かかるね。」

「うん、でもこの間に2つの調味料を作りたいの。」


そう言うと、ユウリはレモンと油と卵を取り出した。


「今からマヨネーズを作ります。」


マヨネーズの作り方は非常に簡単で材料を混ぜ合わせれば出来る。


しかし、今回のマヨネーズは少し一般的な物とは違っていた・・


(本当はお酢を使いたかったけど・・流石にないからなぁ。まぁ、レモン汁でも美味しいマヨネーズは出来るからいいや。)


そう、今回のマヨネーズはお酢を使わない。


この世界にはお酢が無かった。

元々お酢が生まれたキッカケは果物や穀物を蓄えてた際にアルコール発酵が起こり、そこから自然の酢酸菌が作用して酢になったと言われており。


この世界は食材に溢れており、食材を備蓄する文化がありませんでした。

その為、奇跡的に生まれたお酢はこの世界にはありませんでした。


その為、今回はお酢の代わりにレモン汁を使われた。


そもそも、初めて出来た、マヨネーズは【レモン汁、オリーブオイル、卵黄】を使って作られていた。

しかし、保存的な問題でレモン汁からお酢に変わったのである。


「まずは卵の卵黄とレモン汁を混ぜます。・・ある程度混ざったら、かぁか。手伝って。」

「はいはい、ユウリ先生、私はどうしたらいいですか?」

「えっへん!この器に入った卵とレモン汁をずっと混ぜて。・・・うん、ありがとう。じゃあ、ここに油を少しづつ加えます。」


なぜ、マヨネーズが出来るのか?


そもそも、マヨネーズは物理的には完成しない調味料であった。

マヨネーズに入る水溶性お酢脂溶性は混ざり合う事のない油と水であった。


その二つを混ざる様にしたのが卵である。

卵黄に含まれるタンパク質とレシチンにより乳酸化し結合する。

さらにレシチンは卵黄に約70%以上含まれており、卵黄のみを入れた方が口溶けなめらかなマヨネーズが出来上がる。


「ユウリ、油はなんでゆっくり入れるの?」

「レモンさんと油さんは仲が悪いから一気に入れると喧嘩になるの。」


油とお酢一緒に混ぜると分離して混ざり辛くなるので、出来るだけ油を分けで入れる方がマヨネーズの成功確率が上がります。


「よし、マヨネーズ完成!・・・って?かぁかどうしたの?」

「えっ?、何が?」

「なんだか、かぁかのユウリを見る顔がいつもと違う気がしたの?」


ルィーダはユウリの料理の話を聞くうちに徐々に顔に不安の色が出ていたらしく、それをユウリに気付かれた様であった


ルィーダはこれでは”駄目だ“と思い、いつもの様に優しい顔に戻した。

ユウリにも心配させた、お詫びとしてやわかかく、スベスベのユウリの頬ををムニムニと触る。

それに喜ぶユウリであった。


「えぇ?なぁに?かぁか。・・えへへ。ちょっと、くすぐったいけど、楽しい。」

(うん、いつものユウリだわ。安心しろ。私!)


ユウリの喜ぶ姿を見て、心の平穏を無理矢理取り戻したルィーダであった。


ルィーダは気持ちを切り替え、料理の続きを始める。


「さて、次は何を作るの?」

「次はバターを作ります。」


ユウリは牛乳を取り出すと蓋の付いた瓶を取り出し、中に牛乳を入れ、振り始めた。


「ユウリ、牛乳なんて、飲んだらお腹を壊すよ。」


この世界の牛乳は殺菌されていない。

殺菌されていない生の牛乳を飲む事は黄色ブドウ球菌や大腸菌による、食中毒になるリスクがある、危険です。

その為、市販に出るものは全て殺菌されています。


「大丈夫だよ、火を通すし。・・・だぁ、フリフリ疲れた。」

「はい、先生、助手の出番ですね。」


3歳のユウリにしては頑張って振り続けた方だろう。


バターが出来る原理は牛乳に含まれる脂肪分を集めて固めます。

この製造方法は昔から変わっておらず。


生乳に含まれる、脂肪は乳脂肪球皮膜タンパク質【通称MFGMタンパク質】に包まれている。

それを瓶を振った衝撃で壊して脂肪同士を結合させてバターを作ります。


「ユウリ、なんか塊が出来て来たよ。」

「かぁか、それがバターだよ。」


瓶の中に塊が出来始めた。

バターの完成である。


「すごい、これがバター・・・あ、鍋。」


バターが完成すると同時にジャガイモも茹で上がった様である。

ユウリはできたら調味料を使い方今日のジャガイモ料理の調理をはじめた。


「かぁか、茹でたジャガイモの数個残して他のジャガイモは皮を剥いて潰して。」

「了解。」


ユウリは茹でる前にあらかじめ、ジャガイモに切り込みを入れていたらしく茹でたジャガイモを水で冷やし、皮をつるんっと剥いた。


ルィーダは爽快感包まれつつ、

ユウリの言うと入りジャガイモを潰した。


「潰したよ。」

「じゃあ次にきゅうりと人参を切って入れて。マヨネーズも足して。」


きゅうり、にんじんを薄切りにして、ユウリの作ったマヨネーズを加えた。


「できたら、更にこれを切って入れます。」

「これを本当に入れる?」

「うん、アクセサリーにね。」

「それを言うならアクセントね。」


ユウリが最後に何を加えた物は何処にでもある、そして、子供から大人まで人気のある物でした。






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