塩の作り方

塩の作り方は大きく分けて3つある。


一つ目は海に埋まってる岩塩を見つけ出し砕き粉末にする方法。


二つ目は塩分濃度が高い湖を見つけること。


そして三つ目が今回使った方法。

海水を使う事である。


この海水から塩を採る方法が1番主流であるが他の方法に比べて塩の取れる量が限られている。


しかし、他の方法に比べて簡単な上に美味しい塩が出来る。

近くに塩分濃度の高い湖がなく、力も非力で岩塩を見つけ出す体力もないユウリにはこの方法でしか塩が作る事ができないのであった


◆◇◆◇◆◇


「もぅ〜、ねぇね。酷いよ!」

「ごめんね。・・でもお仕置きしてないからチャラだよね?ね?」


ユウリは自分の足を隠すように座り込み姉のオリヴィアを睨みつけ、唸っていた。

まるで肉食動物に追い込まれたウサギの様であった。


塩を作る上で重要な工程をした ユウリだがその行為が姉には悪戯と誤解されて、お仕置きされる一歩手前であった。

必死な弁明でオリヴィアも納得した・・・とは言え、冤罪で処罰されかけたユウリは少し不貞腐れていた。


しかし、今回の塩作りを無償で手伝ってくれた恩を考えれば温情を与える必要があると考えるのだった。


「まぁ、ねぇねは手伝って来れてるから許すけど。でお仕置きだけは嫌だよ。」

「それを言うならね。」


前にも言ったがユウリは成瀬由紀の生まれ変わり。

しかし、ユウリは前世の記憶に関しては料理に関わる事の記憶しか戻っていない。

その為料理に関する知識以外の思考や行動は普通の3歳児と変わらない。

その為、先程の様な言い間違いがある。


「じゃあ、ねぇね。塩作りの続きをしよう。」


気を取り直し、ユウリ達は塩作りを再開した。


まずは先ほどの海水を撒いて塩が大量に付着した砂を採取する。

持って来た薄手の布の上に砂を置く。

そして、その砂の乗った布を鍋の上に置く。


下から鍋、布、塩の付着した砂の順に重ね、装置を自作した。

これで準備完了。

優里は再び海に戻り海水を汲み、先程作った装置の上から海水を流す。


そして海水を上から流す事により砂に付着した塩も一緒に海水と共に流され鍋の中に塩分濃度の高い水ができる。これを【鹹水かんすい】と言う。

そしてこの鹹水を採る事を【採鹹さいかん】と言う。

ユウリは何度か採鹹を繰り返し、鍋を鹹水で一杯にする。


「鍋が一杯になったし。ねぇね。ストンル使ってこれを鍋の水を温めよう。」

「はいはい、」


姉は親から借りて持って来た魔法道具である、ストンルに魔力を流すと道具の中央に火が立ち昇る。その魔法道具の上に鍋を置き、鍋を温める。


ストンルは四角の形状をしており、 一般的には旅先などで寒い場所などで暖を取るために作られた、簡易ストーブである。

しかし、料理に関する記憶が戻ってからユウリはこのストンルがカセットコンロに見えて仕方がない。

現に難しい言葉で説明するよりもカセットコンロを知ってる人ならそちらを想像する方が圧倒的に分かりやすい形状をしていた。


「ねぇね、ありがとうね。」


ユウリは姉に感謝した。

今回オリヴィアを助っ人に呼んだ理由は幾つもあるが特に1番大きな理由としてはこのストンルを使い事にあった。


ユウリはまだ幼く、両親から魔法道具を使う許可は貰えない。それに比べてオリヴィアもまだ子供とは言え、年齢にしてはしっかりしているので魔法道具を使う許可を両親から貰っていた。


その為、今回の塩作りに姉の力は必要不可欠であった。


「別にいいよ。そもそもユウリを1人で海に行かせるなんて・・恐ろしくて考えたくない。」


オリヴィアの頭の中に不吉な考えが溢れて、恐怖に包まれる。


「にへへ。ユウリはねぇねに愛されてるね。」

「もぅ。お母さんの物真似?こっちおいでギュッとしてあげる。」

「やった〜。」


ユウリが嬉しそうにオリヴィアに駆け寄り互いに体を抱きしめる。

ユウリを抱きしめてオリヴィアの中で不安は綺麗に消え去る。


しかし、代わりにある疑問が脳内を過った。

その疑問をユウリに問いかけた。


「でも、なんで態々こんな面倒な事するの普通に海水じゃダメなの?」

「う〜んとね。別にね。海の水をそのまま煮ても塩は出来るんだけど・・量が少ないの」


態々、採鹹をしなくで海水から塩は作る事は可能である。


作り方は

一度、海水を濾過して不純物を取り除き火にかける。

少し煮立てると白い塊が出来るが、これは塩ではなく水酸化ナトリウムなどであるのでそれを取り除き、もう一度煮立てる。すると今度は塩が出てくるので余分な水分を捨てる、さらに水分を飛ばす。

すると塩が出来る。


がこの方法だと一般的な海の塩分濃度では1リットルからだと約25g程度しか採取できない。

その為に一度採鹹して鹹水を煮込む方が圧倒的に量が多く取れるのだ。


「・・・な訳で。って?ねぇね聞いてる?」


自分から問いかけた話題にオリヴィアはユウリの顔を見ているハズなのにどこか遠い目をしていた。


その姿にユウリは姉は自分の話を聞いてないと思い怒った。


「あぁ、ごめんね。聞いてるから。」


オリヴィアは意識を再覚醒させユウリの問いに答えた。


「本当にぃ〜、・・何か別の事考えていたでしょ。」


ユウリはジト目で問いかける

痛い所を突かれ一瞬対処に困るオリヴィア。

ここで緊急脳内会議が開かなれる。


(ま、不味いわね。なんとか話題を逸らさないと。・・うーむ、こんな時はいつものユウリなら。頭を撫でればなんとかなるけど。)

「ユウリちゃん。・・頭ナデナデしてあげる。」

「なんか私の話をそらそ・・・あ、なんで辞めるのもっと撫でてよ。へへ!ねぇねのナデナデ大好き。」


オリヴィアの作戦通り話題を逸らす事に成功した。

オリヴィアはそんなチョロく可愛い妹の姿を見て胸を撫で下ろすのだった。


(うん!、いつものチョロく可愛い。私の大切な妹だね。)


そんな事をしていると鹹水を煮込んでいた鍋から水分が蒸発して水量が減って来た。


「あ、水分が蒸発して来たから混ぜないと」

「あ、こら!ユウリは鍋に触ったらダメ。私が混ぜるから」


ユウリが熱い鍋を触ろうとした瞬間。オリヴィアは危機を察知しユウリの行動を静止させた。


幼いユウリには煮えたぎる鍋に触らせるのは危ないと判断した。

ユウリは不貞腐れながら、鍋から離れた。


(お父さんに言われてるからな。ユウリを絶対に火に近づけないでって。)


煮詰まる鹹水を混ぜる。

すると水分が徐々に蒸発、白い砂のような結晶が現れる。


「この白い砂が・・塩?」

「そうだよ。もうちょっと煮詰めて水分を無くして欲しい。」


水分を無くすまで煮詰める。この行為を【煎熬】と言う。

塩の作り方は大きく2工程に分かれる。

一つ目の工程が先程も説明したかん水を採る【採鹹】。

二つ目が採鹹で採った鹹水を煮詰め水分を無くし、塩を採る【煎熬】である。


「本当にできたね。」

「わぁ!お塩だぁ。」


ユウリは白く輝く砂を見て元気よく飛び跳ねる。今のユウリには塩はどんな宝石よりも光輝いて見えていた。


そんな妹の姿を見てオリヴィアも今までの労働に対するご褒美を貰えたら気になった。


「ねぇね、舐めてもいい?」

「いいよ。でもまだ鍋が熱いから私が取るね。」


オリヴィアは塩が大量に入った鍋から塩を一掴みする。

ユウリの口から溢れる程の塩を手に乗せて優里の口元へ近づけた。

それを見たユウリは顔を青ざめ、驚愕した。


「ユウリ・・ねぇねを怒らせる事した?」

「え?なんで?」


ユオリヴィアは驚く、ユウリが食べたいと言うから沢山食べさせて上げようと大量に取ってあげたのに何故かユウリは怯えている。

それを見て疑問に思うオリヴィアだがユウリの説明を受け、誤解に気づく。


「ねぇね、塩っていっぱい食べたらダメなの。それを食べたらユウリ・・死んじゃう。」

「え!そうなの!ごめんね。知らなかった。・・ちょっと待ってね。」


オリヴィアは手にいっぱい乗せた塩を一度鍋に戻し今度は指先に少し塩を付けてユウリの口元の近づける。


するとユウリは指先に付いた塩をペロッと舐めた。

ユウリは嬉しそうに飛び跳ねる。


( ユウリの舐め方子犬みたいで可愛かったな。・・・私も舐めてみよう。)


オリヴィアもユウリが舐めた量と同量の量を自身の口元に運びペロッと舐める。

その瞬間今まで感じた事の味が口に広がる、それは海の様に爽やかで力強い味であった。

オリヴィアにはこの味を表現する言葉が見当たらなかった。

そんな、姉の変わりにユウリがその味について教える。


「なにこれ。口の中が海になった。」

「へへっ、ちょっぱくて美味しいね?」

「ちょっぱくて美味しい?」


オリヴィアは未知の言葉に疑問符が浮かぶ。

そんな不思議そうな顔をしたオリヴィアにユウリが自分なりの言葉で説明した。


「美味しいはね。好きな食べ物の事だよ。昨日の夜分かったけど不味いは嫌いな食べ物かな?」


この世界には美味しい。不味い。の概念が存在しない。

そんな世界では料理が好き嫌いで別れている、ユウリは頑張って美味しい、不味いの意味を自分なりの言葉で説明した。

オリヴィアもユウリの説明を必死に理解した。


「まぁ、なんとなくで美味しいと不味いは理解したけど・・ちょっぱいてのは塩の味の事を言ってるの?」

「そう、だけど発音が違うの“ちょっぱい”。」

「合ってるじゃん。」

「違うの。ユウリが上手く言えない。・・ちょっぱい。じゃなしてちょっぱい。えとね・・ちょっぱい。」

「ふ・・ふふっ」


ユウリは一生懸命にしょっぱいと発音するが幼くまだ口の筋肉が未発達なユウリは発音に難儀していた。


そんなユウリの姿が可愛く面白いのか。オリヴィアは笑いを堪えていた。


「ちょぱ・・違う、ちょぱ。なぁああ!!、落ち着いて、さしすせそ。よし!・・ちょっぱい!!」

「ふっ・・・あはははは!ユウリ可愛い。」


ユウリの姿が余程可愛く面白かったのかオリヴィアは大笑いしていた。

その姿を見たユウリは恥ずかしそうに歯を噛み締め服に裾を両手で握り引っ張り。『私は怒ってます』と言いたい様な顔をしていた。


「ねぇね!」

「あははは、ごめんね。ユウリがあまりにも可笑しくて。・・・でも言いたい事は分かったよ。この味は“しょっぱい”って言うんだね。」



そうこれがしょっぱいそれは人が感じる五代味覚【酸味、甘味、苦味、旨味】に含まれる内の一つでもある味覚【塩味】である。


そしてこの【塩味】が五大味覚の中で最も重要で大切と言われている。


ユウリはできた塩を持って来た容器に移す。

目的が済んだユウリ達は使った物を片付け帰る準備に取り掛かる。


2人は荷物をまとめ、脱いでいたサンダルを履き。オリヴィアは来た時と同量の荷物をユウリは来る時には持ってこなかった。塩を持る。


「じゃあ、ユウリ帰ろうか。・・本当に1人で持てる?」

「うん、大丈夫。」


こうしてユウリたちは海を後にし、街まで道のりを30分かけて帰って行ったのであった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る