17. 遺伝

 馬車が停められる。

 御者が扉を開けると手首を引かれ、家に連れ込まれた。


 幾人かのメイドが頭を下げて出迎える。

 

 姉の部屋へ引きずり込まれた。

 走らされていたため久し振りの実家を見ることもできなかった。


「服、脱いで」


 ケープを落とし、制服のボタンを一つ一つ外していく。


 3つほど外すと、姉が焦れったいなぁと吐き捨てて口内を舌で荒らした後、覗き込むようにして視界に入って来て言った。

 

 「破かれたい?」


 首を振って袖から腕を抜き、制服を脱いだ。

 同じ要領でシャツを脱いでいると下着姿の姉にズボンも脱がされる。


 頭からシャツを抜いている途中で胸を押され、ベッド倒れこんだ。


「長かった。本当に。でももう逃がさないから」


 一息ついて姉を見上げる。

 

「逃げないよ」

「そうだよ。逃げられないんじゃない。シオンが逃げないことを私に選ばされてるんだよ、それ。すっごく興奮する」

「……」

「シオンの未来は私が描いてあげる。いくつかまだ調整中だけど最期はもう決めてあるから」

「そうなんだ」


 何をだらだら言っているんだろう。

 僕にはもう僕が関係ない。

 早くやることやればいいのに。

 クトが言っていた、この肉塊を動かせる人なら誰だっていいという言葉が甦る。

 思考は似ている気がした。

 それを実際に行動へ起こすかどうかの理性の強さは別として。


「ふふっ、やっぱり意識を飛ばしちゃうんだ。ちょっとチクッとするよ」


 右腕が刺される。

 冷たい何かが入り込んでくる感覚の後、全身にそれが巡っていくのを感じる。


「私たちの家に代々伝わるお薬だよ。お父さんみたいに耐性持った人が偶に生まれるみたいだけど、シオンはどうだろうね」

 

 心臓が動く度、何かが勝手に指先から漏れ出ていくような感覚。

 そしてそれを埋めるように痺れが強くなっていき、体に力が入らなくなっていく。

 

 上体を起こそうとして諦めると、顎を無理やり開けられた。


「目ぇ閉じるのはなしだよ。まぁもうできないと思うけど」


 そういって口をもごもごさせた後、唾液を流し込んでくる。


「んぇー……飲んで」


 顎が抑えられていて口を開けられたままだった。

 この状態で何かを飲む方法がわからない。


「飲んで」


 舌を上あごに当てて無理やり飲み込むと喉が鳴った。


「いいよ。いいなぁ。好きだよシオン」


 顔を跨ぐように両手が置かれ、姉の白髪がカーテンのように視界の左右を閉ざした。

 帳の中でほの暗く光る青色の瞳に魅入られる。


「好き、好き、大好き」


 唇に柔い感触、次いで控えめな水音が鳴った。

 姉は頬を赤く染め、熱い息を吐く。


「はぁっ、はぁっ、愛してる」

 

 吐いた息を吸い込むように顔を近づけて来、勢いよく捻じ込まれた舌に喉奥を突かれくぐもった声を上げる。

 上あごを舌で擦られ、太ももの間に姉の膝が差し込まれた。


「っんん」

「んふっ、」

 

 体感時間でいえば半刻振りに左右の視界が開ける。

 膝と胸をぐりぐりと押し付けられ、ひたすらどちらともわからない唾液を飲まされ続けた。

 

 離れたことにより、かかっていた銀色の橋が切れ胸に落ちる。

 慮外の冷たい感触に意図せず体がびくついた。

 

「はぁっ、はっ、けほっ、っん、げほっ」


 乱れた呼吸が出入りする。

 息が整ったため薄目を開けて姉を見る。

 腰の上に座り、こちらを見下ろしながら血色の良い唇が動く。


「可愛いなぁ。どうしてこんなに可愛いんだろう。できることなら閉じ込めておきたい。好きすぎて今でさえこんなに胸が苦しくて痛いのに、これ以上好きになったら辛いのに、まだ好きにさせるんだね。好きになる度キュンキュン締め付けてくるこの感覚が心地良くて、シオンのこともっと好きになっちゃうんだよ。おかしくなりそう」


 下着がずらされる。

 元からおかしいよという反論は唾液と一緒に吸われた。

 

 微熱に浮かされたように体温が上がっていく。

 姉を見つめている僕を楽し気に見つめ返しながら右肩へ倒れこみ、首の後ろへ左手を潜り込ませて頭を抱いできた。

 そうして前髪をゆっくり撫でつけながら鼻にかかったような優しい囁き声を流し込んでくる。


「我慢だよぉー……?今からすっごい気持ちいいこと、してあげるからね」


 我慢って、何を言って、


「あ゛」

「っう、ふぅ……ふぅ……入った。どう?って、聞くまでもないか」


 強すぎる快感に呼吸が不規則になる。

 自分が息を吸いたいときに吸えない。

 吐きたいときに吐けない。


 何も考えられない。

 姉から目を逸らせない。


「シオンは前から過集中を意識的に使って思考に潜る癖あったよね。考え事に焦点を合わせて現実を認識外に追いやるっていうのかな。お父さんもお爺さんもそうだったんだって。だからこれはそれを防ぐのが目的の薬。それ以外に効果はないんだって。今日のは弛緩効果のあるものも少し混ぜたけど、体の相性がいいのはただの遺伝だよ」

「あっ、はっ、はぁっはぁっ」

「大丈夫。何も言わなくてもわかるよ。シオンの目が私しか見えないって、他には何も考えられないって言ってる。よく効いてて安心した。動くね」


 至る所で光の粒が明滅し、規則的な音を立てて弾ける。

 

「これっ、お゛っ、これっ、っく、きもちっ、いっ」

「っ。……っっ、っ゛っ゛っ……」


 姉が仰け反る。

 いやだ。


「うううぅぅっ、こしっ、止まんなあ゛あ゛ぁ、っあ、お゛っ」


 白髪が広がる。落ちる。広がる。落ちる。

 これ以上したくない。

 もう終わってほしい。


「ふぅうう……ふぅううう……、あぶな、これ。……次やるときは休みの日の前日にしよ。今日はシオンがイッたら終わりにするね。もう我慢しなくていいよ。頑張って早く動くから」


 両端の視界が遮られ、囁き声が流し込まれてくる。

 それだけ言うとそれぞれの脇から腕を通され、左右の肩を掴まれる。


「体固定できちゃった。これで深さも速度も上げられるんだよ。やる前から気持ちいいのわかっちゃうね」

「……」


 呼吸が浅くなり、目尻から溜まっていた涙が落ちていく。


「ちょうど運動して喉乾いてたんだ。ありがぉ」


 ざらついた舌が頬から目尻まで上がる。


「ふぅっ……ふぅっ……んふふ、い、いくよ、いくからねぇっ」


 再び規則的に光の粒が明滅しながら飛び散っていく。

 膝が勝手に震える。


 徐々に早くなる明滅。

 叫びたいのに声にならない。

 開けた口はすぐに塞がれる。

 もう、やだっ。

 

 光の量が増え、音を立てて爆ぜた。

 強烈なまでに快楽を教え込まされ、覚え込まされる。

 息が止まる。

 耳鳴りがする。

 視界は一面の白から数瞬して暗転した。


 暫く経つと心臓が血を送る音が聞こえ始め、視界が戻る。

 止まっていた呼吸を再開させた。


「はぁっはぁっ」

「はぁっ、あはっ、すご……」


 姉が息を吐く度、耳に息がふきかけられる。

 顔を背けたいのにそれもできないくらいに疲れていた。

 お互い無言で息を整える。


「病みつきになっちゃうなぁ。抜くよ」


 背骨から引き抜かれるような感覚だった。

 鳥肌が立つ。

 姉が横に倒れこみ、目を合わせてきて言い放った。


「これで子供ができるんだよ」


 涙が溢れる。


「安心して、パパ。16歳まではできないようにするから。シオンのこと犯すって決めてたし今日は大丈夫」

「そう……」

「これからもよろしくね。シオン」


 こうなるって決まってたんだ。


 見計らったようにメイドが食事の用意ができている旨を扉越しに伝えてくる。


「シオンも食べていって。学園には一緒に戻ろ」


 痺れの抜けた体を引きずってベッドから出、渡されたタオルで体を拭いた。

 綺麗になった気がしなかったためシャワーに入りたかったけれど、姉に許されなかった。

 制服とケープを着て姉に絡みつかれながらダイニングへ移動した。


 食後、学園に戻って寮前で姉と別れる。

 周りの声は聞かないようにして自室へ倒れこむようにして入った。


 シャワーを浴び、最低限身嗜みを整えてベッドへ突っ伏す。

 明日の準備はできそうにない。


 沈んでいく意識に逆らわず眠った。

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