第10話 お説教と勘違い

「ロミオン! 起きなさい!」


 深夜の草原で大の字になるロミオンに向かって、アリエルが声を掛ける。薄っすらと瞼が開いた。


「……アリエルか。久しぶりだな」


 ロミオンは疲れているらしく、起き上がる気配がない。顔だけアリエルに向け、怠そうにしている。


「『久しぶりだな』じゃないでしょ! こんな騒動を起こして、一体どういうつもりよ!?」


 アリエルは拳を握って強く非難した。しかし、ロミオンには届かない。


「なんのことだ? 俺はアリエルに言われた通り、魔法の修行をしていただけだぞ?」

「誰が全長百メルの土の巨人になれって言ったのよ! 私は『自分の身体だと認識する領域を広げてみたら』っ助言しただけよ!!」


 少し回復したのか、ロミオンは上半身を起こした。


「だから身体の認識を拡張して魔力を大気に浸透させ、それに属性と運動性を付与する修行をしていたんだ。こっそりと」

「全然こっそりじゃないでしょ! 学園の生徒が大勢見に来ていたわよ! おまけに貴方、伯爵家の嫡男を踏み殺すところだったのよ!?」


 ロミオンは首を捻る。


「修行に集中していて全く気が付かなかった。悪いことをしたな……」

「そうよ! もうこの場所で巨人になるのはやめなさい! いいわね!?」

「わかった……。なるべくやらない」

「絶対やらないで!」


 怒り疲れたアリエルは肩で息をする。一方のロミオンはすっかり回復したようで、パッと跳ね起きた。


「もう帰ったほうがよくないか?」

「うるさい!」


 二人は強化した脚力で風のようになり、深夜の草原を駆け抜けた。





 土の巨人が現れた翌日。アクラム魔法学園はその話題でもちきりだった。


 休み時間、キキはマレーゼの席にやってきて昨晩のことを話す。


「アリエル学園長が来てくれなかったら、今頃私達もペシャンコだったかもね。やっぱり学園長は凄いわ」

「そうね。でも、まだ巨人は討伐されていないし……」


 マレーゼは無意識にビクトルに視線を送っていた。ビクトルはばつが悪そうな顔をしている。それはそうだろう。「私は謎の巨人を倒す! そして、その首をマレーゼ嬢に捧ぐとここに誓う!!」と豪語していたのに、実際は魔法も通じず、踏みつぶされる寸前だったのだ。


「冒険者達に任せればいいでしょ。あの巨人は一人で相手するようなモンスターじゃない。それこそ百人とかで囲んで倒さないと」

「そうだよね……」


 ふとマレーゼが隣の席を見ると、ロミオンがフードの奥で気まずそうな顔をしていた。マレーゼに釣られ、キキも視線を送る。


「ロミオン君は草原に現れる土の巨人のこと、どう思う?」

「さあな……」


 ロミオンはフードを深くかぶり直す。明らかに何かを知っている様子だ。


「昨日はアリエル学園長に助けてもらったけど、私達も危ないところだったの。ロミオン君もしばらく草原には近づかない方がいいよ」

「……安心しろ。もう、巨人は現れない……」

「えっ……? それはどういう──」


 マレーゼの言葉にかぶせるように教室のドアが開き、次の授業の教師が入ってきた。ロミオンは誤魔化すように前を向いて、黙ってしまった。


 キキはマレーゼに目配せをして、自分の席に戻る。二人は確信した。ロミオンが背丈百メルを超える土の巨人を倒したのだと。



#



「門兵に金を握らせて昨晩のことを聞いてみたの……! 『変わったことはなかったか?』って」


 アクラム学園寮の一室。キキは興奮した様子で語り始めた。聞き手のマレーゼも瞳を輝かせている。


「門兵は語ったわ。『フードを深く被った怪しい男女二人組がいたので、呼び止めた。すると一人はアリエル学園長だった』と」

「もう一人のフードをかぶった男は……。まさか、ロミオン君……?」


 キキは人差し指をビシッとマレーゼに向ける。


「間違いないわ! きっと、アリエル学園長が私達を逃がしている間に、ロミオンがあの土の巨人を倒したのよ。だから、巨人は私達を追ってこなかった……!」


 マレーゼはゆっくりと頷く。


「だから、『もう、巨人は現れない』と言ったのね」

「そういうことよ! ロミオンは謎の組織と戦っているだけではなく、帝都周辺の平和も守っているのよ!」

「ロミオン君……」


 そうマレーゼは呟き、翠眼を熱っぽく潤ませた。まるで英雄に恋焦がれるように。


「あともう一つ、気が付いたことがあるの!」

「まだあるの?」

「うん。アリエル学園長とロミオンってちょっと見た目が似ていると思わない?」

「……!?」


 二人の容姿を脳裏に浮かべ、マレーゼは重ねる。


「金糸のような髪に透き通った青い瞳。そして白い肌……。耳の形もちょっと似ている気がする……」

「そうなの! 二人は似ているの! もしかすると、血がつながっているのかもしれないわ……!!」

「それってロミオン君がルーベルグ侯爵家の関係者ってこと……?」


 キキは瞳をギラつかせる。


「庶子の可能性が高いと睨んでいるわ! それであれば、ロミオンの魔法の才能についても納得できるもの!」

「確かに……」


 いつの間にか、ロミオンは侯爵家の庶子であり、帝都周辺の平和を守る正義の味方ということになっているのだった。

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