追放女、剣豪に成る
ぴくるす
エピローグ
平穏・日常
細かく短い息と風切り音が離れの道場を支配する
朝1時、私は目の前の敵を切り倒すように一心不乱に剣を振るう。
何度振っても、心が晴れることはなく、逆にこの1人の時間が心に影を落とす。
そんなとき後ろから静かに近づく謎の影…
「———!?」
そんな気配に気づいたのは、振り上げられた竹刀が頭に向かってくるところだった。
避けられるはずもなく、竹刀は頭に吸い込まれる。
軽い衝撃の後、祖母がしたり顔で見ていることに気づく。
父方の祖母で、私に剣を教えてくれた師匠でもある。
そんな祖母の攻撃を食らったのはいつぶりだろうか、そこまで私が憔悴してることに恥ずかしさが込み上げてくる。
「お祖母ちゃん、おはよう。どうしたのまだ夜更けだけど。」
取り繕った、苦し紛れの言葉。
祖母はそんな言葉を無視する。
「なぜ負けたかわかるか?」
責めるつもりのない優しい言葉。
だがどんな言葉より怖くて、痛い。
今日、正確には昨日だが私は彼に負けた、彼は私より才能があったのだ。
私と彼が通っている秀才高等専門学校は、名前の通りに未来に名を轟かす秀才、または才を持っている子供が国の推薦により入ることができる。
そして私、加森 皐月は剣道家として推薦をもらい入学することができた。
私を含め親族全員が喜んでくれた。
なぜならここを卒業できれば将来安泰が保障されているからだ。
その代わり卒業難度が高く、連日引っ張りダコであった子役が役者として卒業できずに退学してしまうほど高い。
だから私は親族の思いを背負ったのだ、諦めて逃げてしまわないように。
仮面を被り、甘えた自分に鞭を打つ、彼と出会ったのは入学して数ヶ月した頃だった。
彼、日向 陽のことは入学前から知っていた。
どの大会でも彼が1番を総なめ、推薦は絶対と言われるほどの逸材だった。
私も女子大会で1番を取り続けていたが、比較されるのはいつも彼。
戦うこともできず一方的に比較される日々、それでも私は、努力し推薦を勝ち取った。これでみんなも認めてくれる、だがそう上手くはいかなかった。
彼も推薦を貰っていたのだ、確かに今までも同じ年に同じ才能を複数人入学することは特段珍しいことでもなかった、だが同じ才能が同時卒業したことはなかった。
そうなれば落ちるのは私、その噂が広まるのは速かった。
同情、嘲笑、後ろ指を指され続ける。
親族はみんな味方だったけど、祖母を馬鹿にしている、そんな気がして。
家族も祖母も‘気にしなくて良いのよ‘そう言ってくれたけどそんなことは無理だった。
彼に会った時、勝負を仕掛けてしまったのも必然だった、勝てれば今までの悪評がなくなるのだから。
だが結果は負け、いや惨敗だったかもしれない。だって彼は本気を出していなかったのだから。
私は弱かった、彼の才能は本物だから勝つためには彼以上に鍛錬をしないといけない。
それを見ていた、知っていたはずだった。
さっき叩かれた時もそうだ、気づいた時にすぐ防御態勢をとれば直撃することは無かった。
さらに言えば、いつも気配を感じ続ければ後ろに来る前に気づけたはずだ。
「才能に胡坐をかいて何もしてこなかったから、そのために自分に鞭を打たはずなのに…」
その言葉に祖母は優しく笑う。
笑った後、泣く私の頭を優しく撫でる。
子供の頃から変わることのない私が好きな撫で方
「教えは覚えておるな?」
「もちろん、一言一句正確に」
「ならいい、今日のところはもう寝なさい。」
もう一回頭を撫でると寝床に戻ってしまった。
まだ彼との勝負は話していないのに、なぜ知っていたのだろう。
そんな疑問を持ちながら明日の学校に間に合うために床に就く。
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朝、何か強い光で目が覚める。
追放女、剣豪に成る ぴくるす @pikurusuc_c
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