「おばちゃん飴ちゃんやるわ」 ガラスの雨の螺旋律/syu.さん
おばちゃん、締切日にアドバイスを求めてくれるとは思っていなかったので、ちょっと焦りました。でも、ギリギリまで頑張っていただき、ありがとうございます。
先にお詫びなのですが、前回、おばちゃんという呼称について「自分を卑下しているニュアンスを感じる」とのご意見を頂きました。読者の方で同じような気持ちになっている方がおりましたらお詫びいたします。おばちゃんの意図としましては、U-18の方よりも2.5倍くらい年上の人間からアドバイスされるのですから、少しでも気楽に聞いてもらえればということで、「おばちゃん」と言っているだけです。他の読者の方には申し訳ありませんが、U-18の皆様には、できるだけ難しくないと思って読んでもらえるようおばちゃんが努力をしているということだけは、理解していただけるとうれしいです。(これ、こう見えて結構時間かけて書いているんですよ……)。
さて、前置きが長くなりましたが、まずは感想ということで、syu.さんらしい上質な文章と物語だったと思います。最初から最後まで高校生(でしたよね?)らしかなぬ出来栄えで、キチンと物語のテーマを定め、自分なりの世界観を演出し、そしてラストまでまとめています。大人でもここまで書けるかというくらいのクオリティで、おそらく多くの読者にも「上手だな」と思わせる一作だと思いました。
高校生でこれだけ書けていれば十分じゃないの? という気持ちもあるのですが、アドバイスを求めているということは別に褒めてほしいわけではなく、更に上を目指しているのだと勝手に解釈いたしまして、いくつかアドバイスをさせていただこうかと思います。ハイレベルな作品にはハイレベルなアドバイスということで、もしかしたら、耳が痛いかもしれませんが、(痛いのは耳だけど)歯を食いしばって聞いてくださいませ。
ではアドバイスですが、そうですねぇ、syu.さんには「80点は一番コスパが悪い」という考え方を飴ちゃんとして持って帰ってもらおうかと思います。前回同様、これもまた今すぐできることでもやれることでもないので、「おばちゃんがそう叫んでいた」とだけ覚えておいてください。
学校のテストで100点満点で平均点が50点後半というごくごく普通な状況で80点を取れば、「頑張ったね」ということになります。5段階評価で4は確実そうですよね。
ですが、頑張った割には「それだけ」ですよね。60点台あるいは70点台の人よりは「できるな」と尊敬される程度の評価であって、その努力のわりには、あと5点で85点以上になり5段階評価で5をもらえる人とは、天と地の程の結果の差があるとは思いませんか。
もうお分かりの通り、syu.さんの作品は「全体的によくまとまっている到達点としての80点」であり、「90点以上を目指している途中の、『だけど今は80点しかとれない』」ではないのです。ですので、常時90点、できれば90点後半をとって、カクヨム甲子園の最終選考くらいまで行けるようになろうではありませんか。
まずはですね。「一人称における90点以上の作品」になる条件を上げてみましょう。
①文章力が巧みで読者にストレスを与えない。
②情景描写やストーリーの説明が的確かつ適量にあって、読者がイメージしやすい。
③心情表現が巧みで読者に共感や理解を覚えさせる。
④独創的な思想や強烈な感情描写で読者をノックアウトするくらいの衝撃を与える。
他にもあるとは思いますが、まずは基本として、①文章力、②状況説明力、③心情表現力、④作者の個性あるいは情熱の4点セットで捉えてください。
これは学校のテストではないですから、各項目が何点満点ということではなく、どの分野でどれくらいの点を稼いでいるかということで理解してください。合計すると100点を超えることもある、ということです。
syu.さんは①と②はなかなか良いところまでポイントをゲットしていると思います。2つで確実に65点はついているのではないでしょうか。ところが、③と④が……というところで80点という結果になっているかと思います。
小説というのは文章が模範的であるなどの「いい子」である必要はまったくなく、読者が「面白い!」「すごく良かった!」と思ってもらえる作品が、ある意味の完成点です。極論してしまえば、①や②や③が0点でも、④だけで90点でもいいわけです。むしろその方が読者的には面白いくらいなのです。
一人称は状況の遷移も大事ですが、(原則ですが)心の移り変わりを描くための手法であると思ってください。暴論に聞こえるかもしれませんが、①も②もあるいは③ですら、④の添え物でしかない、ということです。
もちろん、①や②を追い求めて完璧な世界観やストーリー運びをすることも立派なことです。ですが、それは三人称でやったほうがより効果的です。三人称はsyu.さんがカメラマン兼ナレーションとなって、テレビを持っていない視聴者に画像を見せるかわりに文字で説明する手法だと思ってください。ですので、何よりも正確かつ適正な表現が求められます。ここでは大袈裟な④などは視聴者を混乱させるだけで害悪でしかありません。
「一人称における90点以上の作品」ですが、説明は十分に理解できたと思いますので、具体例を挙げたく思います。それは、前回卯月賞の大賞であった、しぇもんご卯月賞者の、
春に咲くおじさん
https://kakuyomu.jp/works/16818093075103731317
を読んでみてください。この作品はこれまで説明した①から④までを、それぞれかなりの高得点でフィニッシュしているとは思いませんか?
一旦話を落ち着かせて内容に戻り ③について具体的な例を挙げるために、作品から引用させていただきます。
……表面のほうにあった粉が、風に攫さらわれて消えていった儚さを、その寂しさを、私は忘れられないでいる。
だから、祖母と同じように砕かれた兄の欠片を少し、ほんの少しだけ攫ってしまったのかもしれない。
前回のアドバイスで、「言葉を尽くすべき単語」という説明をしたと思いますが、「風に攫さらわれて消えていった儚さを、その寂しさを」という部分は、「言葉を尽くすべき心情表現」と言えます。どう儚かったのか、その寂しさとはどんな寂しさなのか、もう少し表現を膨らますことによって、読者に「せつない」という感情を与え、読者の心を動かさなければなりません。
……表面のほうにあった粉が、風に攫さらわれて消えていく。――人はどんなに立派に生きたとしても、死んでしまえばただのガラス(※あるいは粉)になってしまうのだ――。そんな抗いようのない現実という儚さを覚えたことや、すべて海に消えてしまえばガラスの一片であろうとももはや誰かに会うことも叶わぬという、絶望的な寂しさを、私は今でも忘れられないでいる。
だから、祖母と同じように砕かれた兄の欠片を少し、ほんの少しだけ攫ってしまったのかもしれない
まだ若いとはいえ、「私の死生観」というものを表現することによって、読者は私の「心」に触れるきっかけを得ます。大事なのはその文章力や表現方法ではなく、いかに読者を「syu.さんの小説という世界」に感情的に誘うかです。syu.さんは描写的には読者を手繰り寄せているとは思いますが、感情的という一番大事な点においてはまだ価値観が希薄なので、結果的として読者は一歩引いたところでsyu.さんの世界を見ていることになってしまっています。
小説というのは読者の感情をどれだけ揺さぶったかが出来高です。揺さぶった方向は感動でも、感涙でも、しみじみでも、あるいは美しいでもなんでもいいのです。それは作家がどこを目指すかによって違って当然なのですから。
非常に偉そうですが、もし、おばちゃんの作品が読者に褒めらるところがあるとするのならば、それはおばちゃんが文章の力ではなく、自分の魂を使って、読者の感情面をぶん殴ったり引き摺りまわして、揺さぶっているからだと思います。別に誰も「犀川の文章は素晴らしい!」なんて思ってはいないです。極端な話、おばちゃんの小説を読んで、読者が勝手に自分なりの感情でゆれ動いているだけかもしれません。そういったある種の錯覚も含め、読者が「良いものを読ませてもらいました」といってもらえる小説こそ、「一人称における90点以上の作品」になる可能性があるのです。
おばちゃんは小説というのは、とにかく作者の経験量がものをいうと思っております。どれだけ悲しい思いをしたかによって、人をより深く愛せますし、憎むこともできます。これらの経験のない作家がどんなに言葉を操って書いたとしても、読者には空虚なものであるとわかってしまうものです。小説はフィクションであって全然かまわないどころか、そこにこそ魅力があったりするわけですが、その中で演じる登場人物は人間であるかぎり、その感情を理屈や想像で装うことには限界があるのです。
カクヨム甲子園で優秀な結果を出した作品は、結果として、高校生が描きうる等身大の人間像を書いています。高校生がおばちゃんのような大人の感情や心情を理解できるわけがないからです。つまり、「人間だけはフィクションでは書けない」と思ってくれれば、この先も良い小説を目指せるかと思います。
少し話がそれましたが、(少なくとも)高校生が書く小説において、良い文章、良い表現だけでは読者はガッツリと食いついてはくれない、ということです。大事なのは「いかに読者に魅力を感じてもらうか」であり、いかに上手に書くのかなどは二の次、三の次なのです。
おばちゃんはsyu.さんが「一人称における90点以上の作品」を書くことは十分に可能だと思っております。大事なのはsyu.さん自身が「90点以上」を目指す気があるのかどうかだと思います。わかってもらうために、80点はコスパが悪いとはいいましたが、そもそも80点とれること自体、大したものです。おばちゃんに80点と言わせたのはむしろすごい事だと思ってほしいくらいです。(これまた偉そうでゴメンなさいね。)
カクヨム甲子園に参加するのかはわかりませんが、おばちゃんのいう「感情面を前に出した作品」を目指さなくとも、「読者に魅力的な作品」というものは目指してほしいと思います。頑張って下さいませ。
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