第一回さいかわ水無月賞 優秀賞について
第一回さいかわ水無月賞にご参加いただき、誠にありがとうございました。
主題、開催時の宣言通り、「犀川の独断と偏見と気まぐれ」の結果、下記を優秀賞とさせていただきます。
熱く香るレインノート/よなが
https://kakuyomu.jp/works/16818093078655469956
雨のせい/クロノヒョウ
https://kakuyomu.jp/works/16818093079286269844
Spanish Rain (スパニッシュ・レイン)/上月祈 かみづきいのり
https://kakuyomu.jp/works/16818093079111357523
(更新順(古い方から)・敬称略)
総評
テーマ「雨」をどう解釈して、いかにそれを自分の小説の中で表現していくか。わたしにとって何よりも重要な評価項目において、お三方はそれぞれの解釈によって、見事に優秀な作品を完成させました。
すべての参加作品を拝見するに、今回は「雨」というテーマは発想力を広げにくいものであったようで、しっかりとテーマとして消化できている作品がかなり少なったと思います。
よながさんは「ペトリコールとゲオスミン」という雨に対する嗅覚情報を「おとぎばなし」という形で利用し、相手に対する真剣な愛情表現までに昇華させました。
クロノヒョウさんは「雨」を正面から捉え、ほのぼのとしていながらも、どこか不思議で温かい恋愛小説として書き出し、「雨」が二人の絆を取り持つという、素直な解釈を素直に表現しました。
上月祈 かみづきいのりさんは軽妙な語り口の小説で雨をポジティブに捉えた作品で、歌や歌詞、雨の風景、そして登場人物の人柄など、多面的に小説全体を表現しました。
お三方の優秀な作品に対しその栄誉を称え、ここに優秀賞を授与いたします。
おめでとうございます。(犀川 よう)
個別評
「熱く香るレインノート」 よながさん
わたしが本作を推した理由は二点ありまして、「テーマである雨を終始忘れず、さらにペトリコールとゲオスミンを使って話をうまく広げていること」「男性作家が書いたような説明的な百合会話が、結果的にこの話に上手くハマっていること」です。
まず前者ですが、意外と言いますが、ペトリコールとゲオスミンを使ったのはよながさんくらいでしたね。これを基軸に後輩真優は先輩松山さんにアプローチをかけていきます。雨を使って上手く物語を展開させ、松山さんに想いを迫っていきます。このエピソードが非常に優秀で良い例え話、言ってみれば「おとぎばなし」になっている分、松山さんも聞き入っていきます。そして最後は二人に祝福の雨。非常に素晴らしく堂々としたストーリーでした。
後者の点ですが、男性作家の書く百合の多くは女性のそれとくらべて説明的なところが強い傾向があります。(よながさんが女性作家さまでしたらすいません)。おそらく感情より理屈を優先しているからなのではと推測しますが、よながさんの「おとぎばなし」も、やや説明的な感じを受けます。
ですが、それが逆に後輩の緊張して話を続けている感じや、松山に一生懸命アプローチしている健気さを読者に与え、良い効果を生んでいます。これが先輩が後輩するおとぎばなしになると説教くさくなったと思うのですが、よながさんの作風が、後輩から先輩へ想いを向けるというシチュエーションには見事にマッチしたのだと思います。
とても尊(たっと)い百合でした。百合スキー犀川としましては、大満足なお話でした。
ありがとうございました。
「雨のせい」 クロノヒョウさん
不思議な体験からの、偶然の出会い。そこから雨を通して、必然の愛となり――。クロノヒョウさんらしい、真っ向勝負だけどちょっと不思議な要素もありの恋愛物語で非常に内容も良く、テーマ「雨」を通してストーリーも最後まで自然に辿り着かせるのはやはり非凡だなと思いました。
卯月賞の作品同様、クオリティーの高い文章で、何よりも「読者」を意識して書いているので、非常に読みやすいです。このあたりは経験量を感じます。無理に難しい話や単語を使わなくとも、これだけ心温まる物語が書けるのは一流の証です。
ただの恋愛話という単調さを解消するために、「愛してあげれなかった申し訳なさ」「自分自身も愛されたい気持ち」という主人公の感情を話の主線とは別のサイドとして走らせ、最終的に良い方向にもっていかせているのも、巧みだなと思いました。そこにテーマである「雨」を少し不思議な「雨の精」や村の話や家柄などで表現しています。
全体的に話はするっと流れているのに、仕掛けているネタたちはパラで展開されてる。それでいながら、読者は自然に楽しんで読める。アマチュア作家が参考にするには良い教材ではないかと思うくらいに優秀な作品だと思います。
ありがとうございました。
「Spanish Rain (スパニッシュ・レイン)」 上月祈 かみづきいのりさん
本作、ホームステイ先であるテキサスのホスト「私」からいろんな話を聞かされるという体で物語は進められていきますが、とにかく前向きに語り掛けてくる私が良い味を出していて、読者であるわたしたちをとても不思議でそれでいながらポジティブな気持ちにさせてくれます。参加作品のなかでも指折りの読後感で、読んだ後に「楽しかったなあ」と思える優秀な作品でした。
さらにテーマである「雨」も巧みに表現されており、全体的に素晴らしい仕上がりでした。
また、一番の特徴は、アメリカ文化や歌、あるいは歌詞、アメリカの国民的なスポーツであるフットボール(日本ではアメフトと呼んでいる方)、ジュディ・ガーランドなど、作者の知識を動員して世界観を広げているところです。
知識の披露というものは、やもすると読者にある種の抵抗感を与えるものですが、上月さんは「私」というアメリカ人らしいのん気な人柄に語らせることで、「おせっかい気味なおばちゃんだけど可愛らしい」と思わせることに成功しております。これが本作一番の成功ポイントではないかと思います。
そして、語り掛けている「あなた」の母、リカコを使って時間的な奥行きまで表現しております。立体的な表現の作品としては、水無月賞参加作品の中でも上位の出来ではないかと思います。
ありがとうございました。
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