アフリカクソ野郎

@KouadioAhou

第1話


「アフリカの子どもの目ってキラキラ輝いているっていうじゃない?」アフリカ在住30年級の先輩日本人妻は言った。

私たちは今日初めて首都に古くからあるシンボリックなショッピングモールの2階の小さなカフェで会った。コロナ渦ということもあり、奥まった場所は静かで落ち着くが人が密集していることに抵抗があったので、入り口脇の通路に面したテーブルセットに向かい合わせで座った。現地在住の日本人とゆっくり会話したのも初めてだった。しかも彼女は長くこの国と付き合っている。

「ええ。」と頷くと、

「私はそうは思わない!」彼女はキッパリと言った。


2020年コロナ禍で夫は帰らぬ人となった。

私はアフリカ出身の夫と日本で国際結婚し2人の息子をもうけた。

私と2人の息子は、夫がこの世を去ってからアフリカに住んだ。

葬儀の後にそのまま住み続けざるを得なかったいう方があっているが、死後の手続きに相当な時間を要した。


2024年、私たちはすでに日本に戻っており、通常の日本人らしい生活を取り戻していた。

5月28日に公証人の秘書からのメールを受信した。

メールには5月25日付のPDF文書が添付されており、不動産会社の代表から夫が購入した家の未払い金に関する請求だった。

「29,700,000Fで購入した家の未払い金が5,000,000Fあるが、延滞利息が毎年10%かかるので合計2,470,000F支払うように」という内容だ。ほとんど物件価格と同じではないか。


私は夫の死後、不動産会社に連絡し続けた。電話、メール、事務所を訪ねたこともあった。はじめの段階ですぐに代表者のFacebookも見つけていた。


夫は生前、不動産を購入したことを私に伝えていた。私は夫が母国でやることにいちいち口出しはしなかった。「どんなキッチン?デザインとか選べる?」私は最低限自分に関わりそうなことを質問したが、「選べない。全部パッケージみたいなものだから。キッチンなんてどんなものでも変わらないだろ。」という返事だったのを覚えている。

しばらくすると、購入した家だけどトラブルが起きてすぐには住めなそうだ。という話も聞いた。複数の不動産会社が関係していて、二重販売が発覚し裁判になっている。自分たちは正当な手段で先に購入しているので、裁判に負けるわけはないと確信しているが、判決が出るまで10年くらいかかるかもしれない。との話を残念そうにボソボソ話していた。私は正直興味はなかった。彼の国の土地勘もない、私に相談もなく購入した家で、将来本当に住むかどうか分からず、住むことへの実感がなく、ただ聞き流していたのを覚えている。


私は初めて滞在した夫の実家で彼の荷物を仕分けていた。病院から持ち帰った荷物はそう多くなかった。最後の軌跡が残っているであろう携帯電話とノートパソコン、身に付けていた時計、アクセサリーなどは義理の弟が持って行ってしまっていた。

私にとっては保存されていた写真やメール、連絡先などの記録が必要だったし、出会った時から付けていた名前のイニシャルを刻印した銀のブレスレットに触れたかった。だが、義理の弟にはすべてが高価なものに見えたのだろう。愛着というより自分のものにするために無断で持っていってしまった。

残されて手元にあるのは、入院中に着替えた服、飲みきれなかった大量の内服薬、パスポートだけだった。


彼は仕事で赴任中の中央アフリカで体調を崩し、風邪と診断されたが長らく症状が改善されず、検査した時には最終ステージの肺がんとなっていた。しかし当時、日本だけでなく世界中がコロナの脅威に怯え、入国制限、ロックダウンという新しい言葉でにぎわっていた。2020年の春先にロックダウン明けのヨーロッパの病院に移送された。その時すでに歩くこともままならない状況だったと聞いたが、見送った上司と最後の別れになるとは思いもしなかったはずだ。









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