第7話 ラング
「まず、生物の寿命というのは細胞分裂の限界回数によって決まる。それは生物種によって異なり、もちろん個体差もある。人間で言うと五十から六十回が限界回数みたいだな。そして、細胞分裂の限界が来る理由は染色体DNAの末端部分であるテロメアが細胞分裂のたびに短くなっていくことだ。要するにテロメアを伸ばしてやると良いってことだ。そしてこの宇宙にはテロメアを伸ばす植物がある。その植物はアルと呼ばれている」
「ということは、それを探しに行けばいいんですね!」
これからの目標を見つけた彼は目をニーセのように輝かせた。
「よろしい、人間というのは嫌に物分かりが良いな。いや、ただ単に考えが足りていないだけか……」
落胆したニーセも同じように目が輝いている。
「じゃあ、とりあえずそのアルというのを探しに行きましょうか!」
シビル、サンヴィと歩いて来た道を辿って発着場へと向かった。ニーセは特に何も言わず、たまたま目的地が同じなだけと言わんばかりにふらふらと着いて行った。
「ニーセはなんで僕と一緒に来てくれるんですか? 高等な種族? 存在? なんでしょ?」
「元々、未熟者が路頭に迷わないように監視する習慣が我々にはあったんだ。今でこそその風習を継いでいるやつはあまり居ないのだが。特に我がお前に着いて行く理由なんぞ無い。ただ、何かあるとすれば少し面白いものが見れるかもしれないという勘だな」
少し顔色を変化させて光らせた。
それから少し話しながら歩くと、退場のゲートを通って発着場に着いた。道中、ニーセは長い隠居生活を続けていたからか、見たことのない生物が誕生している! と全く知らない宇宙人に生まれた時期や進化の過程などを聞いていたり、装備している武器を勝手にいじってエネルギー弾を飛ばしたりして騒ぎになっていた。
「いやぁ、二千年程度でも少しは変わるものだな! 特にあの次元エネルギーを飛ばす武器は中々に面白い。コストは掛かるだろうが、使い方によっては強力な武器になるな。しかし、誤って奴の背負っていた荷物の次元を下げてしまって、背中に張り付いた時はかなり面白かったな」
「いや、あまり騒ぎを起こさないでください! ただでさえややこしい世界で混乱してるんですから! ……これはもしかしたらサンヴィよりも厄介かもしれない」
「これくらいの刺激は無いとつまらんぞ」
これからの冒険を心配しながら、シビルたちと乗ってきた乗り物が吸い込まれた場所を探した。
地面の文字を見て回っていると、見覚えのある文字を見つけた。サンヴィに貰った翻訳機を向けてみると"八"と表示されていた。シビルが言っていた通り、ここに並んでいる文字はラングバースで使われている共通語の数字のようだ。ニーセに聞いてみると、銀河によっては複数言語を使うところもあるが、ラングバースでの共通語と言っても過言では無いだろう。と言っていた。その言葉の総称はそのまま"ラング"と呼ばれているらしい。
ポケットに入れっぱなしにしていたメモ帳を取り出して、数字の一から十をラングと漢字で書いた。彼は地球に住んでいた時から物忘れが激しいため、何かあるたびにメモを取っていた。頭の悪さは父親から遺伝したと聞かされた。
メモ帳のページを一枚戻ると、母親から買ってくるように頼まれた惣菜や酒が律儀にメモされている。あんなに酒臭くて嫌いだった母親も物理的な距離が離れすぎたからか、少し寂しくてノスタルジーを感じた。メモ帳に顔を埋めてみると、まだ我が家のにおいがする。
「何をしている。腹が減ったならそんな紙なんぞ食わずに何か買ってくると良いだろ。特別に待っていてやるぞ」
「紙食べてるわけじゃないです! まだ全然時間経ってないはずなのにちょっと懐かしくなって」
「……?」
ニーセは理解できなかったのか不思議そうに見ている。
「ところで、ここに乗り物が入ってるはずなんですけど、出し方とかって……」
最後まで言い終わるうちに地面が開いて見覚えのある乗り物が迫り上がってきた。
「こうか?」
「どうやったんですか!」
「さあ、そう思っただけだが」
「やっぱり、文字通り次元が違う……」
地面に出てきた乗り物に二人で乗った。操縦席が高く、踏み台やハシゴなども無いため、席に座るだけで苦労した。
サンヴィのように外気を遮断しようと手を上に挙げてみた。……特に何も起こらず、通りすがりの宇宙人と目が合ったのですぐに手を下ろした。次は遮断しろ! と念じてみたが、念動力など使えない人間はただただ踏ん張っているようにしか見えなかった。滑稽だ
。
「すみません、教えてください」
「こうして、こうだ」
ニーセが目を瞑ったままそう言うと、外気は遮断されて機体は浮かび上がった。そのまま高度を上げていって交流点はすぐさま胡麻より小さいほどに見えた。
「どうして、どうでしょうか……」
「ただの人間にできるわけないだろ」
「それ、シビルに言ったんだけどなぁ……」
落胆して機内に座り込んだ。
「植物惑星、バサリにでも行ってみるか。ここからだと一番近いぞ」
「バサラでもバサリでもなんでも行ってください。お願いします……」
落ち込みながら暗い宇宙を眺めていると、自分が息をしていることに気がついた。
「そういえば、宇宙なのに息ができる」
「ああ、交流点は数え切れんほどの種族が集まるからな。呼吸しなくても生命活動に支障が出ないように設計されている。この中も同じだぞ。厳密には何も吸っていないし、何も吐いていない。水に棲む生物だとしてもあの中じゃ死なない。もっとも、歩けないがな」
「すごい技術ですね……」
「人間からするとそうだろうな」
初めての宇宙生活 ちーそに @Ryu111127
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