第5話 協会
「ところでジリア、少し相談があるのだが。いいかな」
「僕に相談?」
「ああ、我々が所属する協会に入ってもらえないか」
「頼むぜ、ジリア」
「二人が入ってる協会……何するの?」
「そうだな、協会の目的を簡単に話しておこう。それで入るかどうか決めてもらいたい。まず、協会が目指しているところはこの宇宙の崩壊を防ぐことだ。」
「崩壊……」
今のところ食い逃げ以外平和そうなこの星を眺める。この宇宙ということは星とかの規模でもないのだろう。
「この宇宙はラングバースと呼ばれている。他の宇宙にも名前はあるが、混合するといけないから伏せておこう。それに知ったところで行く方法はほとんどない。他の宇宙のことはあまりわからないが、ラングバースは各地で"崩壊の穴"が広がっている。その崩壊の穴を塞いでラングバースを救うことが協会の目的だ」
「……なんとなく、わかった? けど、シビルやサンヴィ、協会のメンバーでその穴は塞げないの?」
「君に頼りたい理由の一つは崩壊の穴が無数にあること。もう一つは我々では塞げない穴があるということ。そして、それはいつか君が塞ぐ穴だということ」
目を丸くしてシビルを見つめる。
「僕が塞ぐ? ただの人間の子供だよ?」
隣からサンヴィが口を出した。
「そりゃ、お前。運命だよ、運命。……彼にはわかるんだ」口調を真似てみせた。
そのまま四つの目をシビルのほうに向けた。
「……お前は黙っていろ。サンヴィ」
隣ですっと姿勢を正した。
「だが、こいつの言う通りだ。地球で君を助けたことも崩壊の穴を君が塞ぐことも、そうなる運命なんだ。我々ガラム族の間で君は宇宙を救う英雄として有名になっている」
「は、はあ……」
「私達に協力してくれ。ラングバースを共に救おう。もちろん、今のままではただの地球人の子供だ。これから色々な知識を付けて経験を積んでもらうことになる。頼むぞ、英雄」
隣でサンヴィが期待の目を四つも輝かせて彼を見ている。
「……わかった。どうせこんな人生どうでもよかったんだ。僕に何かできるなら協力するよ」
「よし、決まりだな! これからよろしく!相棒」
背中を強く叩かれた。
「ありがとう、とても助かる。それでは教会への連絡や必要な手続きは私がしておく。本人が必要なのは身分証だけだ。あとは手続きが終わるまでこいつに遊んでもらうといい」
「あ、ありがとう」
「いこうぜ、ジリア。……ところで協会費は使っていいよな?」
「ああ、いくらでも使ってやれ」
シビルと別れて今度はサンヴィと行動することになった。サンヴィと二人きりで大丈夫だろうか。
ふらふらとした足取りで目的もなく歩いているように見えるサンヴィの後ろをついて行った。
「そういやぁ、さっき食い逃げを捕まえに行ったときの俺の動きを見たか! かっこよかっただろ」
「急にどっか行くからびっくりしちゃったよ。ちゃんと捕まえられたの?」
「あったりめえよ! 俺は今まで狙った獲物を逃したことは一度もない。お前も含めてな!」
宇宙人は地球人に殴るジェスチャーをした。鼻先にぎりぎり当たらないところで拳を止める。後から風がふわりと顔にかかった。
「そりゃあすごい、頼りになるね」
「シビルより断然頼りになるだろ?」
軽く流されていることに気づいていないようだ。
二人は角張った大きな建物を離れて、様々な店が立ち並ぶ商店街のようなところに着いた。食べ物から装飾品までなんでも揃っている、という感じだ。客を呼びかける声が聞こえる。
「そうだなあ……とりあえず靴はそんなのじゃだめだ、これからいろんな惑星に行くからな。熱い惑星、冷たい惑星、いろいろあるぜ。その靴じゃ、着いた途端に足がなくなっちまう……。うんと良いやつを買おう。英雄が這いつくばる姿は誰も見たくないだろ?」
入口から四つ目の店の中に、気前の良さそうな大きな生物がぎちぎちに詰まっている。サンヴィが話しかけるとなにやら仲良くなった様子で、少し安くしてもらったようだ。
「ほら、これを履け。」
「ありがとう!」
茶色の靴でデザインはあまりぱっとしない。自分の足より大きく見える靴に足を入れてみると、ゴムのようにぴたっと丁度良いサイズに収縮した。靴は軽く、履いていないような感覚になる。
元々履いていた靴をサンヴィが店に持っていくと、受け取った店主が仰々しくそれを眺めて充分に品定めしたあと、靴はそのまま店頭に並んだ。
「すごく歩きやすい! ちょっとダサいけど」
「なんだと! これは最先端のおしゃれだぞ!」
そう言うとサンヴィは自分の靴を見つめていた。
その後もいろんな店を回っては必要な物を買ってもらった。宇宙の様々な環境に耐えられる服、酸素を必要とする生物専用の空気マスク、防敵ライト、サンヴィが乗っていたボードのようなもの、その他いろいろ。
歩き回って足が疲れ、丸っこいベンチに二人で座った。サンヴィは、ここも重力が強くて疲れる、そろそろ慣れないとな。と嘆いていた。
「そうだ、お前に渡したい物があるんだ。これ、やるよ」
そう言うと小さな機械を取り出した。それを右腕に巻いてくれた。三本指が器用に動いている。
「これは?」
「発着場で目に付けるタイプの翻訳機があるって言ってただろ? あれはさすがに手に入らないから腕に巻くタイプを買っておいた。自腹だぞ、安物だけどな」
「え、いいの? あんまり貢献度無いんじゃなかった?」
「いいんだ、俺達はもう仲間だからな。目に見えるものでわからないことがあったらそれを向けるといいぞ。光が出て照射した部分が翻訳される」
「サンヴィ、ありがとう!」
そう言ってハグするとおそらく少し恥ずかしそうな顔をしていた。
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