第3話 運命

 門の傍らに四本足の生物が一定の間隔を空けて並んでいる。タコに似た足と、上半身はシビルと瓜二つに見える。三メートルはありそうだ。硬い金属のようなもので身を固めている。人間の甲冑とは違って、足の部分は柔らかな動きに対応できるような形になっている。


「あの生き物は?なんとなくシビルに似ているけど」


「あの者達は悪行を行ったり無作為に暴れたりする者を抹殺するためにあそこに立っている。体が大きい分、戦闘には向いている。貢献度もかなり高いはずだ。元を辿ればあの種族と私の種族は大体同じだな」


 シビルとサンヴィが身分証を取り出して門の中に居る眼鏡のようなものをかけた小さな生物に見せた。ずれた眼鏡を上げて軽く手で合図すると、次に目を凝らしてこちらを見てくる。


「おい、そこのおちび。身分証はどうした」


 シビルが間に入る。


「ああ、すまない。これは私の奴隷でね。身分が無いんだ。たしか奴隷は荷物扱いになるはずだったな」


「そうかい。しかし……やけに綺麗だな」


 しわくちゃの小さな顔が徐々に近づいてくる。


「私は綺麗好きなんだ。汚い物を持ちたくなくてね」


「ふーむ。気をつけな、奴隷が何かしでかしたらあんたらも同じだと判断されるぞ。そこのやつらが殺しにくる」


 短い首を右に回して顎で指すと三メートルの巨人がこちらを警戒しているのが見える。


「ええ! 俺達までやられるのかよ!」


「黙れ、サンヴィ! 安心してくれ、ちゃんと教育はしてある」


「そりゃあ良かった」


 門を無事に通ると地球で言う町のようなものが見えてきた。発着場から門まで続いた冷たい金属のような殺風景とは違って、町全体に飾りがしてあったり像が建っていたりする。


「僕、奴隷!? それにしては優しいな……」


「あれは当然嘘だ。君は奴隷ではない。あの門を通る手段を取っただけだ。だが、奴隷が荷物として数えられているのは本当のことで、この辺りでは奴隷制度がまだ残っているんだ。もちろん私はそんな下劣な真似はしないがな」


「嘘に決まってるだろ? 人間は察しが悪いな」


 馬鹿のサンヴィに言われると腹が立つ。


「よかったよ、本当に喰われるのかと思った。」


「君はこんなところで死なない。運命がそう言っている」


 運命? と思ったところでサンヴィが割り込んできた。


「さあ、これから色々手続きだろ? 腹が減ったよな? な? ちょっと休憩していこうぜ、 良いだろ、シビル」


「そうだな、ジリアも慣れない旅で疲れた頃だろう。……ところで、お前はここに来るまでに何か食べていなかったか?」


 咄嗟に目を逸らして大股で歩き出した。この二人の関係性がなんとなくわかってきたかもしれない。


 二人が向かう先に付いて行った。地面から半円の形で建っている丸い建物が見えてきた。昔、お風呂場で大きな泡を作ってそれが床にくっついた時を思い出した。


 店の前には看板があって、営業中とだけ書いてある。シビルが手をかざすと扉が透明になって消えて、中に入れるようになった。


「ここは俺達の行きつけの店だぜ。なんでも頼めよ。お代は……」


 四つの目を横に動かしてねだるように見つめている。


「……いいだろう。今日、お前にしてはなかなか良い働きをしたからな」

 

 サンヴィが飛んで喜んでいる。本当に貧乏なんだろう。何か頼め、とメニューを読み上げられたけれど素材が地球と違う以上、何の料理かはさっぱりわからない。まず人間が食べて良いのか……。結局、二人が頼んだやつを貰うことにした。


「全然状況についていけないままこんなところまで来ちゃったけど、二人はなんで知らない僕を助けたの?」


「まず、君のことは知っていた。なぜ知っていたかは言及しない。そして、助けたというよりは運命に従ったまでだ。我々ガラム族は運命に沿って時間を進んでいる。そこにたまたま君が居たまでだ。こいつがなぜ一緒に来たかは知らない。どうせ暇だったんだろう」


 隣のサンヴィは最初に届いた料理にがっついていて、聞いていない。


「ますますわからない……。地球では死ぬつもりだったから新しい人生として受け入れるしかないのか……」


 しばらくして届いた料理はまだうねうねと動いていた。


「なにこれ! 動いてるけど!」


「だって新鮮なほうが美味いだろ」


「……僕いらないや」


 言葉とは裏腹にお腹が鳴って、空腹を知らせた。うねうねには覚悟が決まらず、横に添えてあった豆のようなものを食べた。意外と少ししょっぱくて美味しかった。


 三人で話しながら食事をしていると、突然店の中が騒がしくなった。騒ぎの中心を見てみると、店主がかんかんに怒って顔を真っ赤にしている。元々少し赤かったけれど。


「おい! 飯を食ったなら貢献度を置いていけ! 逃げるな、このやろう!」


 テーブルには食べ終わった後のお皿が大量に置いてあった。椅子が倒れていて、誰かが店から逃げ出すところが見えた。


「よし、おっさん! 俺に任せておけ!」


「おお、すまんが、頼む!」


 サンヴィが立ち上がると店の外に飛び出していき、ポケットから掌に収まる程度の球体を取り出した。それを地面に投げると一メートル程のボードが出てきた。ボードは地面から浮いていて、サンヴィがそれに乗って食い逃げ犯を捕まえに行った。


「行っちゃった……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る