第6妄想 れんとともや

 俺はれんとともやにこんどの土日に地獄の遊園地があることを伝えた。


 みゆうが俺に告白したことは伏せて、なぜかこのメンバーで行くことになった。とだけ伝えた。


「絶対やめた方がいいよ」


 ともやは本気で心配してくれている。


「何かされるに決まってるぞ」


 れんもどうやら俺と同じ考えのようだ。


「なんでかわからないけど……」


 ボソリと言うと、2人が更に顔を近づけた。


「ゆーたが遊園地代を出すって言ってるんだ……」


「絶っっ対に嘘だね!」


 俺の言葉に速効でれんが否定した。


「騙されて全額出させるとかあるかもよ?」


 ともやはまだ不安そうな表情をしている。


「やっぱりそうだよね……」


 俺はさっきまで遊園地へ行くと決意していたが、その決意が揺らぎそうだ。


「やっぱキメーな」


 俺ら3人が額を寄せ合って話してる姿を見て、近くを通り過ぎざまにみゆうが言ってきた。


「「「……」」」


 3人して何も言えない。


 そのままみゆうはゆーた達のところへ真っすぐ向かって行った。


 俺には目もくれずに。


 普通、好きです。って告白した場合何らかのアクションとかするよね?


 しないってことはやっぱりあの告白は嘘で、俺をからかうためってことか……


 そして遊園地にノコノコ現れた俺をバカにする算段だな?


「俺さ……」


 みゆうのせいで宙ぶらりんになったさっきの会話の続きをする。


「やっぱ行くよ」


 この言葉にれんとともやは目を丸くする。


 正気か? と言いたそうな表情だ。


 無理もない。俺だって正気の沙汰とは思えない決断をしている。


 今確実に、俺はからかわれていると確定したのにも関わらずだ、何かされるだろう遊園地へ行くわけだから。


 武器も持たずにモンスターの中へ突っ込んで行くようなものだ。


 いくら勇者でも無謀というものだ。


「そうか」


 意外にもともやは俺の意思を尊重してくれた。


「今度の土日なんだよね?」


 再度日程を確認してくれる。


 俺が黙って頷くと、更にともやは続けた。


「今度の土日、俺は1日中開けておくから何かあったらすぐに連絡していいから。彼女にもその日は予定があるって伝えておくよ」


 ともやは本当に優しいな。


「お、俺も! 予定は開けておく。ともや一緒にいようぜ? いつでも勇者が来れるように待機してるから安心して行って来いよな!」


 自分だけ心配していないのが悪者に見えるからなのか、慌てたようにれんも言う。


 どんな意図があろうと、俺のことを心配してくれているのには変わりない。


 嬉しいじゃないか。


 持つべきものは仲間だね。


 やはり俺のパーティーは最高だ。


 ●


 ――まったく。なんてキモい連中なんだろうね。


 うちに告られても何の行動も起こさないチキン野郎な上に、陰キャオタク仲間とキスレベルの顔の近さでひそひそ話かよ。


「もっと堂々とできねーもんかね」


 まるでうちの考えを読んだかのようにゆーたが言う。


「ホントにね。あんなキモいのに告白させられたうちの気持ちも考えてくれよな」


 そう言うとゆーたとあきらが爆笑した。


「俺も一緒に登校したけど、ありゃつまんねーやつだな」


 呑気なもんだねゆーたは。


 うちはそんなつまんねーやつに罰ゲームで告白したんだわ。


 あいつが本気にしてたらどうすんだよ。


「んで、いつネタバラシするんだ?」


 あきらがニヤニヤしながら言う。


 隣にはロングの金髪のギャルがいる。


 さくらだ。


「さくら的には、遊園地入る前にネタバラシして欲しいなー」


 そりゃあね。あんなのと一緒に遊園地とか最悪だもんね。


「いやよー」


 うちもそれがいいと思って賛成しようとしたのに、ゆーたが遮った。


「せっかくだからもうちょい様子見ねー?」


 笑いを我慢しつつ言う。


 はぁ? まだあいつで遊びたいのかよ。


「まぁー。ゆーたの金だしな。ネタバラシは先にするか」


 あきらがそう言うと、その彼女のさくらも同意した。


「あーくんがそう言うならさくらはいいよー」


 おいこら。イチャつくな。


「ちょっと待てよ。まだうちにあんなキモいのと恋人ごっこしろって言うのかよ」


 いつものメンツで楽しもうよー。


 こいつらうちで楽しんでんな?


 まぁうちがこいつらの立場なら、うちも楽しんでるだろうしなー。


「んじゃあ、いつネタバラシすればいいんだよ?」


 うちが一応聞くと、意外にも応えたのはミズナだった。


「卒業までじゃね?」


 笑いながら言ってくるけど冗談じゃない。


 でもミズナの目がガチの目をしている。


「はぁ? さすがにそれはないわー」


「ないレベルじゃないと罰ゲームじゃなくない?」


 う……確かにそうだけど。うちはいつもミズナに口で勝てない。


 けどこのまんまじゃマジであんなキモいのと卒業まで、表面上付き合った状態になっちまう。


 あのキモい童貞のことだ。絶対に本気にするだろうし、その内調子に乗る可能性だってある。


「やっぱさー。あんなキモいのと一緒に遊園地行くの嫌じゃね?」


「んー。まぁ確かにあいつつまんねーし、一緒に居たいか? と聞かれたら居たくはねーな」


 うちの意見にゆーたが賛同してくれた。ゆーたの金だし、ゆーたがあいつを遊園地に連れて行かないって言えばそれに従うはず。


「でもそれはそれだな」


 このゆーたの最後の言葉でうちはがっくし項垂れてしまった。


 つまりあいつを連れていくってわけだ。


 それで嫌な顔をするうちを見て楽しむってわけだ。


 まぁ仕方ない。みんなが飽きるまで、表面上あのキモいのと付き合うか。


 どーせすぐに飽きるだろう……


 ●


 れんとともやは教室の隅でひそひそ話しをしていた。


 特に自称勇者には見つからないように注意しながら。


「どう思う?」


 ともやがれんに訊く。


 自称勇者が騙されているんじゃないか? ということだ。


「騙されてると思う」


 すかさずれんが答える。


「でも一緒に登校してたよね?」


「それに朝挨拶もされてた」


 2人して言葉に詰まり、沈黙が流れる。


「どうしたの?」


 2人の背後から声がする。


 びっくりして2人して飛び上がる。


 声の主は女性なので自称勇者ではないことは分かる。


 それでも急に声をかけれれればびっくりするものである。


「み、みずほちゃんか~」


 ほっと胸をなでおろしながられんが言う。


「実は今日勇者があの軍団と一緒に登校してたんだよ」


 れんが事情を説明する。


「そうらしいね」


 全く驚く様子がないみずほに、れんとともやが驚く。


「え、だって最近みゆうちゃんと仲いいよね?」


「「……」」


 この言葉に再び2人して顔を見合わせて言葉を失う。


 少なくとも、れんとともやから見て、自称勇者とみゆうが仲良いようには見えないようだ。


「僕はそんな仲良いようには見えなかったけどなー」


 みずほの後ろからまさやがやってきて言う。


 その言葉にれんとともやは猛烈に頷いた。


「ふーん」


 そう言いながらみずほが自称勇者を見る。


 何やらみゆうに話しかけられている。


『やっぱり……私なんかには振り向いてくれないよね……みゆうちゃん可愛いし』


「あ! 見て見て。話しかけられてる」


 みずほの視線に気づいたれんが、その先に居る自称勇者を見つけた。


「さっきの話しだけど」


 まさやが話しを戻した。


「勇者君があのメンバーと遊園地に行くのが本当なら、ある意味いじめになるんじゃないかな?」


 真剣な表情だ。


 だがそう思うのが普通だろう。


 ヤンキー集団の中に1人いじめられっ子が混じって、一緒に遊園地に行くなんて誰もが想像できない。


 かつあげや、ただのいじめを想像するのは無理もない。


「みゆうちゃんは本気なのかなぁ?」


 ポツリと零したみずほの言葉は誰にも聞こえなかった。


 みんなまさやが言った言葉が正しいと考えており、遊園地に行った後の展開を容易に想像できてしまったからだ。


「一応俺たちは勇者のために一日予定を開けておくつもりでいるんだ」


 ともやが言うと、やや自慢げにれんが胸を張る。


「僕はそこまで勇者君と仲良くないから、予定を開けていても意味ないかな?」


 後頭部をポリポリと掻きながらまさやがみずほを見る。


 まるでみずほに訊ねているかのようだ。


「確かにそこまで仲良くないなら、予定を開けてても意味ないかも」


 中途半端な苦笑いをしながらみずほが答えた。


 それを聞いてなぜかまさやは、ほっとしたような表情を見せたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る