第5妄想 勇者とゆーた

 困ったぞ。


 どういうわけか俺はみゆうたちと遊園地へ行かなければならなくなった。


 断れるわけもなく強制的に遊園地へ行くことになる……


 土日がこんなに憂鬱とはな。


 まぁどうせ俺だけのけ者にされるんだろうけど。


 一匹狼の俺にはちょうどいいけどな。


 だが正直人が多いところは苦手だ。


 勇者はみんなから妬まれる存在だからな。


 いつどこで攻撃されるか分からない。


 地獄の遊園地まではまだ3日の猶予がある。


 今のうちに色んな対策を考えなければならない。


 まずはれんとともやから情報収集をする必要があるな。


 それと役に立つかは分からないが、みずほにも話してみよう。


 いつも、うがっこへ行くのは憂鬱だが、こんなにも憂鬱になるのは初めてだ。


「よぉ」


 そんなことを考えていると背後から声をかけられた。


 俺のことをいつもターゲットにしていた人型のモンスターだ。


 気が付けば俺はまたこいつらの住処である、遊び場の前を通っていた。


「お前本当にみゆうのツレなんか?」


 威圧的に言われるけど、本当はツレでもなんでもないよ?


 必要以上に絡まれてて迷惑かかってるもん。


 その上なぜか付き合ってる認定までされてるし。ホントに困ってるよ。


「おう。何やってんだ?」


 俺が戸惑いながらも返事をしようとしたら、更に背後から声がした。


 ちょっとぽっちゃりしてるゆーただ。


 確か銀髪ショートのミズナと付き合ってるはず。


 ミズナはスタイルがいいのに、ゆーたはぽっちゃりだからちぐはぐなカップルだと思ったことがある。


「おうお前。今度の土日に本当に来るんだってな?」


 ゆーたが人型モンスターではなく俺に話しかけるのを見て、人型モンスターは本当に俺がみゆうのツレであると信じたようだ。


 ツレって何? 仲間? 友達?


 それならそのどちらでもありませんが?


「お前本当にみゆうのだったんだな。今まで悪かったな」


 悪びれる素振りを見せずに謝ってくるが、本当に悪いと思っているなら、今までの所持金を返してほしいものだ。


 そういえば困ったことがある。


 遊園地に行くにはお金が必要ではないか!


 魔女と魔王の依頼をこなして所持金を得るしかないな。


 泊まりの遊園地は何ゴールドくらい必要なんだ?


「うし行くか」


 俺が真剣に悩んでいるというのに、ゆーたは勝手に俺と一緒にうがっこへ行くことに決めている。


 何が悲しくて、会話もかみ合わないような奴と一緒に歩かなきゃいけないんだ?


 そういえば、遊園地はゆーたのおごりとか言ってたけど本当なのだろうか?


 いやいやいやいやいや。騙されるな俺。


 今までだってこんな感じの嘘に何度も騙されてきたではないか。


 その度に辛酸を舐めてきたんだ。


 俺は純粋だった。


 それ故に騙され続けてきた。


 今回もきっとそうだ。


 奢るとか言いながら、俺の分は奢らずに他の連中だけで遊園地を楽しむ魂胆なのだろう。


 遊園地の入り口で俺を嘲笑う魂胆だな?


 そういうことならよーし見てろ!


 何が何でも遊園地に行ってやる。絶対に参加してやる。


 俺は決意を固めた。つまらなくてもいい。ボッチにされてもいい。嫌がらせのためだけに遊園地に参加してやる。


 ●


 俺とゆーたはやはり性格が合わないことが分かった。


 ゆーたは彼女のミズナのことばかり話してくる。


 ミズナはスタイルもいいし、ゆーたの話しを聞くに性格もいいのだろう。


 だがルックスはみゆうの方がいい。


 もちろんミズナも世間一般的には美人の部類に入るだろう。


 だがみゆうはその上をいく。


 何しろ、確かに所属しているグループはイケイケグループでカースト最上位だが、みゆうは学校一の美女なのだ。


 だからこそ余計に不思議だ。


 勇者とはいえ俺に告白してきた意図が知りたい。


「にしてもみゆうがなぁー」


 ニヤニヤしながら言ってくる。


 やはり遊びかドッキリか。


 ふっ。俺もそう簡単に騙されない。


「ななななな何が。ですか?」


「あん? 声小さいしもじもじすんなよ。男だろ」


 バシリ。と背中を叩かれた。


 痛いよ。


 おかげで転んじゃったじゃないか!


「おいおいおいー。大丈夫か? そんなんじゃみゆうの相手は務まらねーぞ?」


 笑いながら手を差し伸べてくれる。


 なんだ。意外と優しいじゃないか。


「あ。ありがとうございます」


 せっかくのお礼を、おう。だけで終わらせるなんて無礼な奴だ。


 それに俺はみゆうの相手をするつもりはない。


 とゆーかみゆうの相手って何だ? 戦うのか? これだから脳筋は困る。


 しかしゆーたの話しの中で、俺にも興味がある話題が上がったことには驚いた。


「んでよぉー。店長がめんどくせー仕事全部俺に押しつけてくんだわー。マジでだりーよ」


 こんな輩でも、<あるばいと>とやらの労働をしている。


 それも似合わない<ほんや>と呼ばれる様々な書物が置かれている店だ。


 俺が勤勉のために通う書物屋も、ゆーたに言わせると<ほんや>になるらしい。


 まぁ俺が読むのは魔導書とか錬金術書とかの、凡人には理解できない書物だけどな。


「お前オタクだからわかるか? ライトノベルっつぅの? なんか異世界がどうのこうのってのが流行ってんだろ?」


 あぁ。異世界転生のことね。今まさに俺が経験してしまっている。


 もっとも、俺は生きているかもしれないから異世界転移の可能性もあるけど。


 俺が黙って頷くと、ゆーたは更に話し続けた。


「なんかよぉー。小学生とか中学生くらいの男女がよく買いに来るんだわ」


 ほぅ? JSやJCが? それは興味があるな。


 <ほんや>とは、そんな希少生物とお近づきになれる労働なのか。


 そういうことならば俺も、<ほんや>で労働してみたいものだ。


 JSやJCってのは、普段は大人と行動を共にしていることが多い。


 それが単体で現れるとは! おそらくは遭遇確率は低いだろうが、それでも労働する価値はある。


「んじゃよ。遊園地せっかくだから楽しもうぜ。しっかりと盛り上げろよ?」


 また背中をバシリと叩いてゆーたは先へ行ってしまった。


 一緒にうがっこに行くんじゃないのか? と思ったが、俺が<ほんや>での労働について真剣に考えている間にうがっこへ着いていたようだ。


 ●


 今日はなんだかおかしい。


 いつも俺にちょっかいを出してくる半獣のみずほは、ほとんど俺に話しかけることをしない。


 まぁそれは別にいいことなんだけど、いつもと違うということが調子を狂わせる。


 もっともみずほは、まさやにずっと絡まれているから仕方ないのだが。


 それだけならば、大した問題ではない。


 なぜかみゆうが俺に挨拶をしてきたのだ。


「おう」


 たったこれだけだけど、今まで勇者である俺を居ない者だとしていたはずなのに、どういった風の吹き回しか。


 一度も話したことないあきらまで話しかけてきた。


「お前ゆーたと一緒に登校したんだって?」


 なんだこの集団は。


 一緒にうがっこへ来ることが、仲間入りの証明だとでも言うのか?


 それに最近俺と話しをしてこないれんとともやまで。


「今日さ、あの、ゆーたと一緒に歩いてるところ見たんだけど」


 れんが驚いた表情で言ってくる。


 気持ちは分かる。俺だって驚きだ。それにあまり仲良しだと思われたくもない。どちらかと言えばれんやともやと仲良しだと思われたい。


 ゆーたと一緒にうがっこへ来たことで唯一良かったことと言えば、またれんとともやと話せるようになったことだろう。



 前回は、俺の彼女を紹介するのはいずれという俺の言葉が原因で、2人は俺のことを嘘つきだと思ってしまったようだからな。



 認めよう。あの発言は間違いだった。そして正直に言おう。俺は今彼女はいないと。だがいずれはみさきを魔の手から救って彼女として迎え入れる用意があることもしっかりと伝えよう。


「大丈夫だったの?」


 心配そうにしてくれるのはともやだ。


 何かされたのじゃないかと心配してくれているのだ。


 やっぱりともやは優しいな。彼女がいるというのも頷ける。


「特に何もされてないよ」


 心配してくれたともやに、そう言うと2人とも驚いたような表情をした。


 そうだろう。通常、ともややれんのようなタイプの人間はゆーたのようなしょーもない連中に何かされるものだ。


 かくいう俺も勇者であり、ゆーたのような連中から嫉妬される存在である。


 そんな俺がゆーたと一緒に歩いていたのに何もされていないのだから驚くのも無理はない。


 どうすべきだ。本当のことを言うべきか?


 ここでまた曖昧な返事をしたりすれば、せっかく話しかけてくれるようになった2人がまた離れて行くかもしれない。


 俺は正直に話すことにした――

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