第4妄想 勇者の苦難

 さて困った。


 いきなりみゆうに告白されてしまった。


 確かに勇者は魅力的だろうよ。


 だがしかし! 俺はそうやすやすと、はい付き合います。とは言えない。


 まず第一にミサキのことがある。


 ミサキは今魔の手にかかり、何か弱みでも握られてダイキと付き合っている。


 勇者の第一の課題はヒロインであるミサキを救出することだ。


 ミサキを救出したら、勇者の使命でもあるヒロインとの交際が待っている。


 この先のことを考えると、みゆうと付き合うことはできない。


 もっとも、俺が返事をする前にみゆうはさっさとギャル仲間の元へと戻ってしまったが。


 そういえば昨日はあの後も苦痛だったな。


 ●


 みゆうに突然告白された後、俺は久しぶりにれんとともやと一緒に帰ることにした。


 俺が目指すのは、魔王と魔女が待つクージタだ。


「この後どっか寄る?」


 いつものように俺が2人に声を掛ける


 いつもならモンスターがいない行きつけの遊び場に行ったり、書物を立ちながら読んだりする。


 しかしこの日は、その<いつもなら>がなかった。


「悪いな。俺はこれから彼女と出かける予定があるんだ」


 れんだ。全く悪びれる様子もない。むしろ顔がにやけてる。


「あぁ。俺も彼女と通話するからさ」


 ともやは随分と余裕そうだな。


「いやー。ホント彼女がさー」


 うるさいよれん。


 彼女彼女連呼しなくても分かってるっつーの。


「とゆーか、勇者も彼女できたんじゃなかったっけ?」


 ギクリ。


 れんのヤツ本当に空気が読めないな。


「そうなのか?」


 ほら見ろ。ともやが興味持っちゃったじゃん。


「俺らに会わせてくれるって言ってたぞ?」


 どうする? みずほに彼女のふりをしてもらうか? それとも告白してきたみゆうか?


「へー。どんな人なのか気になるな」


 いやいやいや。ともやも気にするなよ。


 だいたい他人の彼氏や彼女なんて気になるか?


「いつ会わせてくれるんだ?」


 とともや。


「そりゃーすぐにでも会わせてくれるよな?」


 れんだ。


「ま、まぁ。そのうちね」


 誤魔化すしかない俺。かっこ悪い。


「俺の彼女にならいつでも会わせてやるぞ?」


 なんでれんは上から目線なんだよ。


「俺は悪い。遠距離だからそう簡単に合わせらんないわ」


 ともやは本当に余裕があるな。もしかして俺とれんのことなんて眼中にないのか?


「俺の彼女は結構束縛が激しくてさー。自由に友達とも遊べないよー」


 もういいよ彼女いるアピールは。


 俺はしばらくれんとともやと一緒に帰るのは遠慮しようと思った。


 いちいち彼女の話しになるからな。


 俺にも彼女ができたら、自然とそういう話しをするようになるのかな?


 彼女か……


 俺は告白してきたみゆうの顔を思い出していた。


 それにしても不思議だ。


 みゆうはどうして俺に告白してきたんだろう?


 ●


「なんで俺なんかと付き合いたいって言ってきたんだろ」


 昼飯の時にボソリと言う。


「みゆうちゃんのこと?」


 みずほがキョトンと俺を見てくる。


 何で知ってるんだ? と一瞬思ったが、俺の隣の席だもんな。


「でも勇者くんは魅力たくさんあるよ?」


 思いもよらない言葉が飛び出し、俺は一瞬言葉に詰まる。


 でもそうだよな。勇者の俺は魅力でいっぱいだよな。たとえギャルだって俺の魅力に酔ってしまうことはあるな。


 それにしてもみずほはいいやつだな。


 いつも俺のことを励ましてくれるし、手伝ってくれるし、最近では一緒にいることも苦痛ではない。


 むしろこの時間は俺の癒しの時間になりつつある。


「そうか。ありがとな」


 最近素直になれたのも、みずほのおかげだと言えるだろう。


 はっきり言って、みずほと一緒にいると自分に自信が持てる。


 自分よりも下の人間がいるという現実もそうだし、俺でも頑張れるんだな。とみずほは思わせてくれる。


「それに比べてあの2人は」


 思わず口からこぼれ出た。


「れんくんとともやくん?」


 再びキョトンとして聞いてくる。


「ずっと自慢話してくるんだ。彼女がどうとか予定があるとか」


「彼女や彼氏ができると急に予定が合わなくなることあるよね? ミサキちゃんたちもそうだもん」


「そうなのか?」


 ミサキとみずほはどうやら仲良しなようだが、ダイキの魔の手にかかってから遊べなくでもなったのだろうか?


「最近いつも一緒にいるから誘い辛くて」


 両手を合わせて残念そうな表情をする。


 一見可愛い仕草にも見えるが、やっているのがみずほだからな。


 これを褒めるのも勇者の務めか。


 やれやれ。勇者の苦難は多いし長く続くものだ。


 ●


 ある日のことだ。


 俺はみゆうから告白されたものの、特に何かが変わった様子もない。


 ドッキリをされた様子もなければ、みゆうから何かお誘いがあるわけでもない。


 正直言って、何がどうなったのか分からないし、俺がどうしたらいいのかも分からない。


 俺の心境としては、期待半分不安半分といったところだ。


 アニメや漫画でよく、異世界に行けばハーレムだとかモテるだとかあるが現実はそう甘くない。


 そんな俺の気持ちをよそに、空気を読めないれんが唐突に言ってきた。


「勇者はいつになったら彼女見せてくれるんだ?」


 なにやらここ数日で、れんとともやは彼女を紹介し合ったようだ。


「俺はもうともやの彼女と通話したぜ?」


「俺もれんの彼女と一緒に遊んだな。ま、いい子だったよ」


 なんなんだこの2人!


 俺に何をさせたいんだ?


 みゆうを紹介しろと? 絶対無理だろ。元カレのヤクザまがいに殺される。


 みずほを紹介してみるか? 馬鹿にされるか見下されるだろうが、俺が嘘をついていたというレッテルは貼られずに済むんじゃないか?


 みずほならきっと話を合わせてくれるだろう。


 だがそれをみゆうに知られたらどうなるんだ? やっぱり元カレのヤクザまがいに殺されるんじゃないか?


 そもそも俺は最近みずほと一緒に行動を共にしていない。


 俺が弁当をちゃんと持ってきているのもあるが、みずほもまさやに気に入られつつあるからな。


 あんな半獣を気に入るなんてまさやのやつ物好きだな。


 確か学級委員でみずほと社交ダンスのペアだったはずだ。


 別にみずほのことが気になるわけではない。


 半獣とはいえみずほはほぼモンスターだ。


 モンスターの情報を常に知っておくのは勇者の務めだからな。


 って今はそんなことどうでもいいんだよ。


 問題なのは、れんとともやをどうあしらうかだ。


 現状の俺の彼女はミサキだ。


 だがミサキはダイキの魔の手にかかり、誘惑状態にある。


 次になぜか俺に告白をしてきた社交ダンスのペアであるみゆうだ。


 しかしみゆうを紹介すれば、いくら勇者の俺でも死を知ることになる。


 おそらくみゆうは、勇者の俺の魅力にやられてしまい、魅了状態にあるのだろう。


 やれやれ。勇者といえど俺も罪な男だ。


 そしてみずほ。


 モンスターと人間のハーフの半獣にして、ミサキの友人。


 俺とミサキのキューピッド役だ。


 どうやら勇者の俺とお近づきになりたいらしいが、ギルドのカースト最下位だから俺に近づいてカースト最上位に上がりたい魂胆なんだろう。


 俺に弁当というワイロまで送ってきている。


 これらを考えると、やはりれんとともやにみゆうやみずほを紹介するのは間違いだな。


 ミサキを魔の手から救ってから堂々と紹介しよう。


「今は紹介できない」


「「何で?」」


 そうだよな? そりゃそうなるよな? れんとともや2人同時に口を揃えて言うところが腹正しいがそこは理解できる。


 ここからが大事だ。


 どう切り返すかで、この今は紹介できない。が嘘に聞こえるか本当に聞こえるかが変わる。


「か、彼女が誰にも言わないで欲しいって言ってるから」


 どうだ? 無難だろ? あれ? なんだよ2人ともその目は!


 疑ってるのか? 確かに苦しいが、よく聞くじゃん。彼氏や彼女ができても周りに黙っとくカップル。


「ふーん。それじゃあ彼女が紹介してもいいって言ったら紹介してくれよ。いこーぜともや」


 え? 待てよ2人とも。俺も同じ方向だぞ?


 なんだこの、彼女を紹介しないと友達じゃない感わ。


「正直に言えばよかったのに」


 後ろから声がした。


 振り向くと半獣が居た。


 おのれモンスターと人間のハーフめ! 勇者の背後を取るとは侮れん!


 それにしても気になることを言うな。みずほのくせに。


「正直に?」


「みゆうちゃんに告白されたんでしょ? そのこと言えばいいじゃん」


「いやぁ。あれは遊びの可能性が高い。分かるだろ?」


 これだけでみずほには通じてしまう。


 勇者のテレパシースキルだ。


 俯くみずほ。


 まぁ無理もあるまい。現実はそう甘くない。


 何かを言おうと俺の方を見た瞬間、邪魔が入った。


 俺からしたら別に邪魔じゃないんだけどね。みずほからしたら邪魔だっただろうね。


「いたいたみずほさん」


 まさやだ。


「ちょっとここのことで質問があるんだけどいいかな?」


 俺のことをチラチラ見ているのは俺に敵対心でもあるからなのか?


「え? あ。うん……」


 相変わらず歯切れの悪いもじもじとした言い方だ。


 そういえば、俺もみずほも二人きりの時は普通に喋れるようになったな。


 最初はお互いに歯切れも悪くてもじもじした喋り方だったのに。


 俺が半獣語を理解したおかげだな。


「俺はいいよ」


 俺のことを見るみずほに、そう告げて俺は1人クージタへ向かう。


 おそらく魔女が待っていて、この前の試練の結果はどうだったのかとかを聞いてくるのだろう。


 勇者が成長するためには試練はつきものだが、こうも多いと嫌になってくるな……


 そう考えていたら、更なる試練が待っていた。


 ●


「よぉ」


 人間型のモンスターだ。


 よく遊び場にいる会いたくない種族だ。


 倒し方も分からないし、逃げることもできない。


 こちらに攻撃はしてこないが、所持金をゼロにするスキルを使われる厄介なモンスターだ。


「今はいくら持ってんの?」


 ほら始まった。


 所持金ゼロスキル。


「一緒に遊ぼうぜ」


 遊ぼうって言ったって、いつもの遊び場は反対方向だぞ?


「しかとか?」


 返事をしないとすぐこれだ。


「あ、え、えと……これから用事がありまして」


「あぁん? 聞こえねぇーよ」


 片手を差し出してくる。


 握手。じゃないよな? 所持金を寄こせってことか? 人が下手に出ていればこのクサレモンスターが!


 俺が勇者のありとあらゆるスキルを獲得したら、真っ先に狩ってやる!


 俺が財布を出そうとした正にその瞬間に。


「何やってんだ?」


 みゆうだ。


 え? いや。なんでここにいるの?


「あんた探したんだけど」


 目の前の人型モンスターを無視して俺の方に近づいてくる。


「あん? みゆう。こいつの知り合いか?」


 ギャルはこういうモンスターとも知り合いなのか。


「まーな。うちの連れみたいなもんだ。今後手ぇ出すなよ?」


 人型モンスターは舌打ちをして、わーったよ。と一言言って去っていった。


 何だかようわからんが助かったぞ。


「ええええええと。あの。ありがとう」


「声小っせんだよ! もっと堂々としろよキモいな」


 キモい? キモいって何? 気持ちいいってこと? 声が小さいのが気持ちいいの? ギャルの思考は理解できん。


「あんたさ。一応うちと付き合ってんだから、今度の土日ちょっとつき合えよ」


 付き合ってませんけど?


 土日とは? あぁ。勇者が唯一休める休日のことか。多忙な日々の疲れを癒せる数少ない日のことだな。


 えっと? その日がなに? つき合えってどゆこと?


「ゆーたのおごりで遊園地行くんだよ。一応カップルで行く約束だからめんどくせーけどあんたも来いよ。来なかったら分かってんな?」


 分からないよ? でもこれは脅迫だよね? 行かなきゃ死ぬフラグ立ってるもん。


 何が悲しくてギャル軍団と遊園地行かなきゃいけないわけ?


 これ何の罰ゲームだよ……


 みゆうは相変わらず俺の返事聞かないで勝手にどっか行っちゃうし。


 どうやら勇者の試練はまだまだたくさんあるようだ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る