第3妄想 勇者の試練
今日も俺の日課は一緒だ。
ある意味人生における任務とも言える。
朝、必ずミサキと会うということだ。
いつも同じ時間に同じ場所で出会うことを考えると、やはりミサキは俺のことが好きで俺に会いたいのだろう。
だが無理やりダイキと付き合わされてしまった。
きっと俺にSOSを求めているのだろう。
だが解せん……
本当に俺と付き合いたくて、ダイキと付き合いたくなかったなら断ればいいのに……
「人間の心理とは分からぬものよ……」
「心理? 勇者くん心理学の勉強してるの?」
俺がかっこいいセリフを言っているだけだというのに、まったくこの半獣のみずほは……
とはいえ今は俺と半獣のみずほしか居ないから仕方ない。
だいたい何で勇者の俺が半獣と一緒に書物の管理をしなければならんのだ。
これも困っている庶民を助ける勇者の使命とはいえ、せめて一緒にやるのはミサキにしてほしかったものだ。
それなのに同じギルドのやつらめ、面白がって俺と半獣のみずほを組ませやがった。
今に始まったことじゃないが、事あるごとに俺と半獣のみずほはペアを組まされている。
ヒロインミサキの困る顔をみんなが見たがるからだ。
まぁ俺もみんなが嫌がることを進んでしてあげなきゃいけないからな。
誰かがみずほとペアを組まなければいけないなら、仕方ないから俺が組んであげるけど。
「あの2人を図書委員にしよーぜ」
とかいうギルドのメンバーの声が聞こえたが、全く子供がすることだな。
だいたいトショイインではない。書物管理係だ。
どれ、こんな時でも勉学に励むとするか。
モンスター図鑑の中でも恐竜種は危険だからな。これを読んで勉強しよう。
●
よかった。
彼と同じ委員会になってから週に一度は二人きりの時間がある。
気にしないように変な期待は持たないようにしようとしていたけど、ここまで来たら気にしない方が無理かもしれない。
いつも一緒にお弁当を食べて(しかも私の手作り)、クラスのみんなに無理やりペアを組まされているのに嫌な顔しないし。
ほんとにいい人だな。
もっと彼のこと知りたいな。
あ、今は恐竜図鑑に夢中だ。
ホント子供だなー。そういえば唐揚げと卵焼きをたくさん食べてたっけ。
今日のお弁当にも入れたけど好きなのかな?
明日も入れちゃおうかな。
●
解せぬ……
半獣のみずほの料理の腕が上達しているのか、俺の味覚が半獣のエサを超越したのか。
最近みずほの弁当がうまい!
特に卵焼き! この甘さ加減が最高にうまい。これなら毎日食べてもいい。
「どうかな?」
む? おどおどしながら聞いてくるのは相変わらずだな。
「問題ない。特にこの卵焼きは美味だ。これなら毎日でも食べたいくらいだ」
「ま、毎日だなんてそんな……勇者くん大胆だよ」
ん? なんだこいつ。いきなり照れやがって。
それよりも問題なのはこの後だ。
俺もこの異世界に転生する前に何度か経験があるが、社交ダンスの練習があるのだ。
どうやらこのギルドでは、武術大会という現世で言うところの体育祭があるのだ。
この武術大会で社交ダンスを踊るようだ。
俺のペアは当然のごとく半獣のみずほになるだろうが、できればミサキがいい。
食後にギルドのみんなで話し合うことになっている。
「社交ダンス。もし一緒になったらよろしくね?」
みずほはもう俺とペアを組む気満々のようだ。
まぁ今までの流れからするとそうだよな。
だが違う場合だってある。
そう。みずほはれんやともやとペアを組んだことだってある。
今回もそうなる可能性がある。
何しろ社交ダンスは男女のペアだからな。
●
いよいよ勝負の時だ。
この社交ダンスのペア決めだけは、ギルドメンバーによる押しつけであってはならない。
そうなれば俺のペアはみずほで確定してしまう。
「社交ダンスのペアはこのクジで決める」
たなーかグッジョブだ!
事前に男女それぞれのクジを作って来てたのか!
ギルドのほとんどがブーイングしているが、そんなこと知ったこっちゃない。
無理やり決められないだけ俺はマシというものだ。
もしもこれでみずほとペアになったとしても、俺は自分の運命を受け入れる。
俺のクジは7番! ラッキーセブンだ。
さて、このギルドで勇者の俺でも苦手なやつがいる。
そんな苦手なやつと組むくらいなら、むしろみずほと組む。
現世で言うところのギャルに当たるやつらだ。
このギルドで言えば、さくら・ミズナ・みゆうが当たる。
さくらとミズナはあきらとゆーたという同じくギャルの彼氏までいる。
いつも俺を無理やりみずほとペアにさせようと企んでいる連中だ。
簡単に言えばろくでもない奴らだし、何の役にもたたないどうしようもないやつらだ。
正直、早く死ねと何度も思った。
まぁとにかく、さくら・ミズナ・みゆうの誰かとペアを組むくらいならみずほとペアを組むって話しだ。
お、ミサキがくじを引いた! 15番かー。俺とペアにはならなかったが俺はそれでも十分だった。
何しろダイキの番号は11だからだ。
これでダイキの魔の手からミサキを守れたぜ。
……ん? 何してるんだ? ダイキとゆーたがくじを交換しているぞ?
待て待て待て待て! そういうことって有りなのか? くじ引きの意味がないよな?
ほら見ろ! ゆーたが15だった! そんでもってミズナが11かよ! できすぎだろ。
なんだよこの出来レースは!
こうやってカップルはくじを交換して彼氏彼女どうしのペアを組むんだな。
ま、ミサキとダイキはカップルじゃないけど。
ほらな? ミサキも苦笑いだ。
ところで俺のペアは誰だろう?
みずほは13で真面目な男子とペアだ。確か学級委員かなんかだったかな?
れんは1であまり知らん女子と、ともやは3であんまり知らん女子とペアだ。
俺がギルドで知っている女子はミサキとギャルとみずほくらいだ。
正直話したこともない女子と踊れる気がしない。
「あん? おめーが7番かよ」
げげ! ギャル3人衆の中で唯一の彼氏がいないみゆうだ。
物凄いヤンキーと付き合っていたとか、大人からお金を貰って体の関係を持っているとかとにかく悪い噂しか聞かない。
見た目は美人だ。ただ、ピアスが多く体のあんなところやこんなところにもピアスがあるという噂だ。
しかもそのピアスはほぼヤクザのヤンキー元カレに開けさせられたなんて噂まである。
とにかく美人だがヤバいやつだ。
こんな女とダンスなんてできるわけがない!
だがしかぁーし! このギャルたちは自分達で勝手に番号を変える! みゆうだって俺とは踊りたくないはずだ。勝手に番号を変えるだろう。
ふっふっふ……勇者の歴史の中でも魔王討伐や魔女討伐レベルに高難易度のクエストだった、ギャルとのダンス。これを回避したのは、俺の人生の中でも間違いなく最高のファインプレーだろうよ。
「しゃーねーな。おめーで我慢してやるよ」
……? はい?
椅子に座っていた俺は、俺の近くまで来て俺のことを見下すように見おろしていたみゆうを、思わず見上げてしまった。
目と目が合う。
ほんと美人だな。
瞳薄い茶色なんだな。明るい茶髪の髪の毛と合ってる気がするな。
い、いや。そんなことよりも今重大発言がなかったか?
俺と社交ダンスを踊るとかなんとか。
「だからおめーと踊るっつてんだろーが」
俺が返事をしなかったことに不満だったのか、もう一度言ってきた。
ありがたく思えと捨て台詞を吐いて、ギャル仲間の元に戻って行ったけど別に嬉しくないんだけど?
こんなところで、勇者の試練が訪れるとは……
●
「はぁ? 負けたら告白?」
バカバカしい勝負を受けてしまったのが間違いだった。
「いーじゃんみゆう彼氏いないんだしー」
笑いながらさくらが言ってくるけど、うちだけ損するのは嫌だ。
「他の奴らも負けたら社交ダンスでブスと踊れよな?」
男も巻き込んでやる。
「男子もだよ? あのブツブツブスと踊れよ? 女は根暗3人組の誰かな」
だが結局負けたのはうちだった。
「みゆう本当トランプ弱いよねー。告白もだけどみゆうが言ったことも実行してよね?」
ミズナがニヤニヤしながら言ってくる。
根暗3人組の誰かと踊るやつか。
「噂だけど、あの内の2人は彼女がいるらしーぜ」
あきらが言うとゆーたが、ぜってーデマだろ。と笑った。
うちもそう思う。
けどどうせ告白するなら絶対に成功させたい。
不細工男子にフラれるとかプライドが許さない。
「分かったよ。踊るし告白もしてやんよ。最後にドッキリでフルからな?」
あんな変な勝負受けなきゃよかった。
こんなキモいやつと踊るとかぜってー無理なんだけど。
「とりあえずダンスのペアにはなったけど、マジで無理だわ。あいつの手を握れる自信ないしダンスだけでもハードル高いわ」
仲間の元に戻ったうちは、ホントに無理だと告げた。
「がんばれみゆうー」
ゆーたは余裕だろうよ。彼女のミズナと踊るんだから。
つーかあんたらどーせ毎日ヤリまくってんだろ?
うちだって彼氏がいりゃ毎日ヤリまくって楽しく過ごしてたっつーの!
「まー罰ゲームだしねー。約束は守ってもらうよー?」
さくらめ。彼氏がいるマウント取りやがって。
めんどくせーけど、こいつらとつるむの楽しいしな。
「うちの勇姿見とけよ?」
こうなりゃ全員の度肝を抜かせてやるよ。
「つき合えたらよ、トリプルデートしよーぜ。ゆーたのおごりで!」
あきらめ。言ったな? あんなキモいやつと一緒にはいたくねーど、このメンツで遊園地とか最高かよ!
「言ったな? 約束だからな?」
ぜってー奢らせてやる!
ガタン。と音を立ててうちは席を立った。
さっさと告白してやんよ。
あのキモい男の席に再び行く。
「おい」
気持ちわりーな。机に突っ伏してんじゃねーよ。
うちが声かけると見上げてくる。
それすらもキモい。一緒の空気を吸ってるとか考えたくない。
「うちとダンスすんだから失敗したら許さねーからな。それと、うちと踊るんだ。うちと付き合え。わかったな」
勇者の試練は始まったばかりだった――
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