第2妄想 半獣のみずほ

 うがっこに着くと、俺はうがっこにあるギルドの1つを支配するギルド長、たなーかにくどくど言われた。


 正直に話しても良かったが、どうせたなーかには理解できないだろう。


 そこで俺はだんまりを決め込んだ。


 そしたら、くどくどどうでもいいことを永遠と言われ続けた。


 しかも無駄に仕事を押し付けられるおまけまでついてきた。


 やれやれ。勇者の宿命とはいえ、ひがまれるのも勘弁してもらいたいものだ。


 うがっこの自分に与えられたギルドへ行くと、ともややれんも居た。


 どうやら2人で話しているところを見ると、今日のペア作業を一緒にしようだとか、彼女がどうとか話しているのだろう。


 きっと俺のことをひがんで、2人だけで徒党を組むのかもしれない。


「あ。おはよ」


 俺が自分の席に座ると、隣の女もとい半獣のみずほが声を掛けてきた。


 ボソボソとした話し方だがそこはさすが俺。


 毎日この話し方と接していると、半獣語も理解できるというものだ。


 だが俺は正直、この半獣のことがあまり好きではない。


 それに仲良くしているところをミサキに見られたら、ミサキが嫉妬するかもしれない。


 俺はコクリと頷くだけの返事にしておいた。これもいつものことだ。


 この半獣は、同じギルドの嫌われ者だ。


 それもそのはず。


 ふくよかな体系に顔はまん丸ぱんぱん。ブツブツした出来物? ニキビ? が顔中にできている。きっとモンスターと人間のハーフ、いわゆる半獣だ。


「放課後また仕事頼まれたんでしょ?」


 こいつ、また俺に与えられたミッションを知っている。


 まさか他のパーティ―のスパイか?


「私も手伝うよ」


 また手柄を横取りする気だな?


 けど重要書類の整理とかいうミッションだ。手伝ってもらうにこしたことはない。


 俺は黙って頷いた。


 あまり仲いいと他のギルドの奴に思われたくないからな。


 なのに、なぜか俺は今日のペア作業をこの半獣としなければいけなくなってしまった。


 勇者に与えられた試練はなかなかに厳しいな……


 ●


 今日も話しかけられた。


 最近いつも遅刻してるけど、やっぱりヤンキーに絡まれてる噂本当なのかな?


 放課後のプリントの整理も一緒にお手伝いしてあげよう。


 そういえば、英語のペアでの発表どうしよう……


 彼はいつもれん君とペアを組んでるけど……私は誰も組んでくれないしな……


 あれ? 今日はれん君ともや君とペアを組んでるみたい。


 ってことは彼は男子の中で余っちゃうのかな?


「あの……私と組む?」


 キャー! 誘っちゃったよー!


 相変わらず黙って頷くだけの彼。


 分かってるよ。同じ根暗同士だって彼にも選ぶ権利はあるもんね。


 私だって自分の顔の気持ち悪さは分かってる。


 でも好きでいるだけならいいよね?


 好きというか、同じ系統だからシンパシーを感じているだけかもしれないけど。


「恋愛とかよく分かんないしな……」


 あ。つい口に出しちゃった。


「恋愛? そんな英語だったけ?」


 キョトンとして彼が聞いてくる。


「あ。ううん。ごめん。間違えちゃった」


 危ない危ない。


 今は余計な気持ちを持つのはやめよう。ただ少しでも彼の力になれればそれで私はいい。


 ●


 ふぅー。苦痛の時間だった。


 半獣みずほとのペアの時間は退屈と苦痛だけの時間だ。


 あの顔をずっと見ていないといけないというだけでも地獄だ。


 あ。ミサキだ。やっぱり可愛いなー。


 小さい頃はよく一緒に遊んだっけ。


 鬼ごっこしたりかくれんぼしたり、2人だけで秘密基地も作ったよな。そこではちょびっとえっちなこともしたっけ。


 さてと、モンスターの生態系についてなどの座学が終われば、ギルドで一番の楽しみ! 飯が待ってるぞ。


 はっ! 今日は弁当を忘れた。いつもは魔女が俺に持たせるけど、今日は魔草だらけだったから弁当をわざと忘れたんだった。


 朝人型モンスターに襲われて所持金も0だ。


 唯一の楽しみの飯の時間がまさか苦痛の時間になるとは!


 ぐむむむむー。


 いつもはれんとともやと食ってるけど、逆に苦痛を味わうことになるよな……仕方ない。トイレへ行ってやり過ごそう。


 とはいえそこまで長い時間はトイレで時間を潰せないな……


 腹が減ったが、考えれば考えるほど腹はどんどん減る。


 こういう時は何か別のことを考えるのがいい。


 今日のこの後の予定でも考えておくか。


 飯を食って言語の勉強をした後は、書類の整理をするだろ。


 そのまま何事もなく帰れればいいが、うがっこエリアには誘惑がたくさんあるからな……


 久しぶりに書物を嗜むのもいいし、最新の映像をチェックするのもいいな。


 真っすぐ家に帰ってネットの奴らと雑談するのもありだ。


 ふむ。こいつは忙しくなってきたぞ。


「勇者くん」


 あん? さっきからうるさいよ半獣みずほ。


 俺はこれからの予定を考えるのに忙しいの!


「よかったらこれ、食べる?」


 なんですと?


 見れば、おにぎりに唐揚げがあるじゃないか!


 え? でも何で?


 怪しむように俺が半獣みずほを見る。


 まさか毒? 勇者の俺を倒そうとしてるのか?


「今日ご飯食べてないよね? よかったら私のあげるよ?」


 こいつ……俺と同じくらい他の人のことを考えられる奴だったのか!


 俺の足元にも及ばないが、こういった人の好意を無下にするわけにはいかない。


「いいのか?」


 俺が食べたら半獣みずほの食べる分が減ってしまうよな?


「私は大丈夫。もう食べたから」


 不細工な顔を笑顔にして言ってくるが、そうか。半獣みずほは飯以外でも栄養を摂取できるんだな? さすがはモンスターと人間のハーフだ。


 そういうことなら遠慮なくもらおう。


「じゃあ」


 そう言っておにぎりを口に放り込む。


 ……む? なんだこれは!


 毒か?


「おいしくなかったらごめんね? 私いつもお弁当自分で作ってるから」


 米がネチャネチャしている。半獣のエサか?


 しかも中身がない!


 だが残すのは申し訳ない。


 俺は勇者だから半獣のエサでもちゃんと食べれるはず!


「お、おいしいよ」


 お世辞でもこういうことを言う常識が俺には備わっている。


 ほら見ろ。半獣みずほの不細工満面の笑みを。


 ふっ。女泣かせな男だな俺って。


 半獣みずほが何か言ってきたけど、とりあえずうん。と返事しておこう。


 この返事が俺の苦難な日々を作るとはな……


 ●


 私が作ったご飯をおいしいって言って食べてくれてる。


 たまたま彼がお弁当を忘れて、私が勇気を持ってお弁当をあげただけなのに。


 今日はなんてラッキーなのかしら。


 それに――


「これから毎日お弁当作って来ようか?」


 勇気を出して言ってみるもんだね。


 彼ったら笑顔で、うん。ですって。


 これから毎日が楽しみだなー。


 あ、今日は放課後も一緒に居られるし、帰りも一緒に帰れる。


 余計な気持ちを持たないように決めたばかりなのに、ついつい意識しちゃうよ。


 ●


 なぜだか俺は、1日のほとんどを半獣みずほと共に過ごした気がする。


 ペアも一緒に組み、弁当も一緒に食べ、あろうことか毎日あのまずい弁当を作って来ると言ってきやがった。話しを聞いていなかった俺も悪いが、断れるわけがない。


 そんでたなーかに与えられたミッションも一緒にこなし、今一緒に帰っている。


 このままじゃ俺のパーティ―は、れんやともやじゃなくて、半獣みずほになってしまう。


 本当はミサキと2人きりがいいんだけどな。


 まぁ今は贅沢は言わない。


「それでね。私はもっとこうした方がいいんじゃないかなーって思うんだけど、勇者くんはどう思う?」


 え? なんて? 全然聞いてなかった。


「あ。ごめんね。私ばっかり話してて」


 ほんとだよまったく。まぁ俺からは特別な話題もなにもないけど。


「いや。いいよ。で、なんだっけ?」


「だからね。ミサキちゃんとダイキくんのこと」


 あぁ。あの2人か。ミサキが嫌がってるのにダイキが毎日無理やりミサキを連れ回してるんだよな。


「せっかく付き合ってるのにどこにも行ってないんだって」


 は? 付き合ってる? 誰と誰が? それよりも――


「何でそんなこと知ってるの?」


「え? だって私とミサキちゃんって小学校から一緒だし、クラスもずっと一緒だから自然と親も仲良くて」


 なんてこった! こんなところに勇者とヒロインを繋げる役割の人物が居たとは!


 完全にモブキャラだと思っていたが、半獣みずほはキューピッド役だったのか。


 それよりも気になることを聞いたな。


「えっと。誰と誰が付き合ってるの?」


 再度確認しておこう。聞き間違いかもしれないし。


「え? 勇者くん知らなかったの? あの2人いっつも一緒にいるじゃん」


 確かに毎日ずっと一緒にいるが、それはダイキがしつこいからだろ?


「でも別にミサキはそこまで一緒に居たいとは思ってないんじゃないの?」


 半分希望を込めて聞いてしまった。


「ううん。そんなことないよ。むしろミサキちゃんの方が好きなんじゃないかな?」


 首を振って否定してくる。


 おのれ半獣みずほめ! こいつ実は俺とミサキを引き離す悪魔の使いだな?


 だが俺には確認しなければならないことがある。


「あの2人はいつから?」


 そうだ。ミサキと俺は幼なじみだ。小さい頃から一緒に遊んでて2人で結婚する約束までした仲だぞ?


「小学校を卒業したあたりからかな?」


 んー。と思い出すような仕草をした後に半獣みずほが答えた。


 心にぽっかり穴が空いたような感じを抱えたまま、俺は家に着いた。


 その間半獣みずほと何を話していたのかは、覚えていない。

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